前史-専属契約-2
ひとまず大コサーレはこんなもん。つーか後書きのがなげぇ。
────大ローポッサポリス 大神殿
「これがオラクルの…」
大王レンダリルは小奇麗に封に入ったものを見て頭を抱えた。
呆れた。誰がこんなものを腕につけて喜ぶというのだ。鳥頭共め。
女子供の腕ほどの太さの鉄製の棒をトロンボーンのような蒸気機関に引っ付けたそれを武器としてオラクルの連中は大量運用しようとしているらしかった。蒸気の圧力によって棒を勢いよく射出する機構を持ったそれが今のマスケットよりも厄介なのは明確。
「王。この武器についてですが…」
リエ、と言ったか。これを持ち寄ってきた若い女は説明を始める。最初はこちらを窺いたどたどしく喋っていたが、次第に自分中心的な自己主張が激しくなりマスケット銃の専門用語とオラクルへの罵倒が入り混じった演説と化していった。
ひとしきり言いたいことを言ったのだろうか。王の前で自分の言ったことにようやく自覚を持ち始めたのか、口をぱくぱくさせる彼女に王は目を合わせた。
「そうか。貴女の情熱は伝わった。例え曲がりなりにも、名誉のためではなく 自由と理想のために動く者を雑多な扱いはできぬよ。」
応接間から出て、側近に上機嫌に口を開く。
「彼女を他の者たちと同席させないのは正解であったよ。セバステン。」
「左様で御座いましたか。」
「うむ。ああ言えばこう言う死にぞこないどもにはあの演説は聴かせられんよ。」
「はは。どうやらあの女、やはり相当な癖者だったようで。」
「面白い奴だ。しばらくはオラクルに寝返ることもないと思う。丁重に送ってってやれ。」
「では丁重、に。」
「ああ後、情報提供料に少し、色を。」
黙って頷き。杖を鳴らしてセバステンは応接間に入って行った。
長い大理石の廊下、埃っぽい地下を抜けて神殿を出るとき、杖を突く男は技術者に初めて口を聞いた。
何故、コサーレに味方する。技術者よ。
王の懐刀を喉元に突き付けられて、ほんとのことを言ってしまった。
ラムロンを、私のラムロンで鉄屑を作ってるような奴は、私の銃で死ぬべきなんだ。
こうして王とその兄に気に入られたのでリエ・イニットラーは大コサーレを裏切らなかった。その逆もまた然り。
大コサーレ国大王
レンダリル・ダーロク(ローポッサ)
コサーレの次期王継承を勝ち取った先代王の叔父の四男。兄弟は一人を除き死亡。
三男の彼は即位時当時、齢25であったが近代的なインフラによる大コサーレの近代化を推し進め、都市部近郊の開発に勤しみ多数の支持を得た。
しかしそのカリスマ故の独断専行のよる官営独占の政治スタイルは西部貧困層の不満を高め、その圧殺は大部分のコーダテハ人がルリエーの支配下に置かれる大きな原因ともされている。
確かな実力を持つ名王であったが酒癖が致命的に悪く仲の悪い親戚の墓に吐瀉物を撒き散らした等数々の醜聞を残している。
雨の危険性をいち早く察知した者の内の一人ともされ、国土を削ってまでニューハーバーに監視の目を置かせた条約に当時は批判が相次いだものの、オラクルの兵器開発の情報を秘密裏に収集。数世代先の近代戦を仕掛ける相手に善戦した。
予想外のルリエーの出現後、オラクルとの陸海挟撃となったシツココ湖での戦いで当時のオラクルの新兵器SSDの砲撃を受け行方不明となった。
たった一人の血の兄弟
セバステン・ダーロク(ローポッサ)
大王の八つ上の実兄。その生を君主に捧げた参謀。
本来大王の位は彼が次ぐものであった。しかし彼は父の死後、継承争いの中で毒杯を盛られ半身不随となっていた身は王に相応しくないとし、当時絶対である親の遺言を無視し弟に位を譲った。
生きている間、彼は弟に公私共に臣下として仕え、只の一度も反発も、争いも、よからぬ噂もなかった。それは家族や部下にも徹底して行われ、王の周りは常に円滑であった。
一生の大半を王と臣下として過ごしたレンダリル王は死後、弟と同じ墓所玄室に入った。それが王の兄に対する最大の親愛であった。
コンパチビリティ・マスケッター
利英・イニットラー(コーダテハ)
雨を解析しマスケット銃の大量製造法と大量の互換部品の開発に人生を注いだシャーマン・ベイ出身のローサッポとコーダテハのハーフの技術者。
製造法の確立後、大コサーレへの銃の販売で大儲けしようとしていたところ製造拠点として予定されていたラムロンが接収され計画が破綻。更にオラクルの新兵器の出現、国内でマスケット銃の構造が個人密造できるほどに解析しつくされていた為にこの大量製造法は歴史の闇に消えることとなる。
その後すぐにオラクルの蒸気機関や魔導装填回路などを組み込んだ互換パーツを開発。、戦場で湯水の如く投入し、新商品の広告とした。
マギステルス
ローサッポ付近の市民兵と一部の西部志願兵を主とした大コサーレの一般後衛の総称。
その役割は兵站から方兵の護衛、治療まで幅広く、また、護身用に自分たちで密造したマスケット銃を携行する者も多く戦列歩兵としてもそれなりの耐久力を持った。
しかし、そんな肉壁とされたのは専ら西部からの志願兵であったとされるが。