8、blind spot
2053年7月17日09:00 輸送機内
シュテルム・カフカス
バリーナ城がやられるとはな。だが、一番重要なことには気付かなかったようだ。
「隊長。報告します。バリーナ城が攻められました」
「そのことについてはもう報告を受けているぞ。下がっていい」
「いえ、そうではなく」
「ん?」
2053年 7月17日 11:00 通信基地 倉庫
ジャック・ライガン上等兵
「ラバン兵長、あんた......」
「......見つかってしまったか」
スパイ野郎と罵った人影の正体はラバン兵長だった。
「何してるんだ」
俺は怒気の籠った声で迫った。
「見ての通りスパイだよ」
「何処のだ、B国か?カフカスか?」
「......カフカスだ」
ラバン兵長は逃げるのは諦めたのかため息をつき答えた。
「オペレーターたちを殺したのは」
「俺だ」
「大統領とご息女を拐ったのは」
「それは言えない」
「では、いつからだ!」
叫びながら銃口を頭に押し付ける。
「はじめからだ」
「もしかして、ブラボーチーム救出のときに建物に入らなかったのは」
「知ってたからだよ。巻き添えでも食らったら堪らんからな」
「エルを牢獄から助け出すときのジャマーを機械に仕掛けたのは」
「俺だよ。あんたらに力を付けられるのを避けたかった。それと......俺たちの戦争に他の奴らを巻き込みたく無かった」
「増援を呼ばなかったのは」
「ここで負ければメタルフォースは力が弱まる」
「心中するつもりだったってことか。ふさけるな!あんたらのせいで何人死んだ!」
「あれは我々が存在を示すための仕方のない犠牲だった」
「そんな理屈であんたを信じて付いていった新兵を見殺しにしていいと思っているのか!それに、他の奴らを巻き込みたく無かっただと、現にB国を巻き込んだのはあんたらじゃないか!」
「B国に戦争をしかけたのは俺たちじゃない」
「何?じゃあ、誰だと言うんだ」
「分からない。だが見当はついている」
「誰だ」
「そいつを言ったら、逃がしてくれるのか?」
「ふざけるな」
「冗談だよ。犯人は我々が反乱を起こした理由、そいつは......」
そのとき、俺の横を銃弾が通り過ぎラバン兵長の胸を撃ち抜いた。俺は咄嗟に身を伏せ振り向き、こちらに銃口を向けようとしている兵士の腕と足を撃ち抜いた。
「一体どうなってんだ。裏切り者だらけかよこの部隊は!」
倒れこんだ兵士に近づこうとすると兵士は手榴弾をとりだしピンを抜いた。
「ばっ、ばか!」
拷問で情報を聞き出されるくらいならということか。倉庫の奥に走って逃げ飛び込むようにジャンプしたとき手榴弾が爆発した。その爆風で倉庫の壁に頭を打ったがなんとか無事だった。
「ああクソ。そういえばラバン兵長は」
ふと気付き周りを見渡すと巨体が倒れているのを見つけて駆け寄った。
「おい、しっかりしろ!」
頬を叩くとうっすらと目を開け消え入りそうな声で言った。
「......敵は......すぐ近くに」
そう言うとぐたりと糸の切れた人形みたいに動かなくなった。
「クソっ、迷惑だけかけて死にやがって」
切られた通信機のコードと爆発で使い物にならなくなった倉庫を見てそう言い捨てると静かに物言わぬ亡骸を地面に置いた。
とりあえず、救援を呼ぶ方法を考えなければ。そのためには一度前線に戻ってエルにも協力してもらわなければ。
そう思い、倉庫から急いで出ていくと前からエルが走ってきた。
「あんた指揮は?」
「信頼できる人に頼んでますよ。それよりさっきの爆発は?」
「ああ、兵長が裏切ってたんすよ」
「そんな!というかそんな衝撃的なことさらっと言って......」
「起こってしまったんだから仕方ないでしょう。それよりも今は救援を呼ぶ方法を考えないと」
「通信機は?」
「全部壊されてしまいましたよ。ったく、頭脳労働は苦手だってのに」
このままじゃ、結局兵長たちみたいに死んでしまう。さっき襲ってきた兵士の死体も爆発での損傷が激しくて、手がかりらしいものは見つからなかったし。
とりあえず、エルと一緒に一度前線に早く戻らねばということで走って戻った。
前線では俺が苦労している間に拮抗状態となっていた。エルの部下の兵士たちが何かやらなければならないことがあるなら隊長が少しくらい前線を離れても俺たちでなんとかしてみせますよと頼もしいことを言ってくれた。
「どうします?上等兵のあなたに聞くのもなんですが、今はあまり兵長の裏切りと死を他の兵士に言うのもどうかと思いまして。とりあえず、今は兵士たちが頑張っているので通信手段を探せますが戦闘のほうもこのままというわけにいきませんしね」
「そうですよね......」
「あの......、敬語やめませんか?僕はあなたの上官じゃないですし、あなたそういうの苦手そうですしね」
「あ?ああ、いいのか?いや、悪いな。こういうのは苦手で。そういうあんたもこんな上等兵に敬語なんて使わなくていいだろ」
「そう?では、遠慮なく。前線の僕の仲間が硬直状態を保っているうちに通信手段を見つけるかか打開策を考えるかしようか」
「だな」
敬語じゃなくなっただけでなんとなく一気に近づいた気がするエルと一緒に俺はとりあえず捜索始めた。
捜索を始めて少したったとき、
「なんもねーな。これなら、ジープ走らせていったほうがいいんじゃねーかって思ってくるわ」
「そんな時間ないでしょ。......ん?、これはラバン兵長が管理してたここの地図か」
地図にはこの辺り一体の地形が書かれていた。
「なあ、戦略とか苦手だけどよ。一回後ろに下がってこの森で戦ったほうがまだ戦かえそうじゃねえか?木とかに隠れてさ」
「確かにな......。あっ!」
いきなり、エルが大きな声を出した。
「なんだよ、びっくりするな」
「ジャック、今すぐ倒した敵兵士の死体を敵にバレずに回収できるかい?」
「できねーことはないと思うが。どーすんだ?」
「いや、君達の敵にやられたことの似たようなことをしようと思ってね」
不気味に笑うエルを俺は首を傾げて眺めていた。
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