4、右腕
2053年 7月8日 10:00 A国 非正規部隊メタルフォース アルテス支部
ブリーフィング
「軍曹の救出作戦が必要だが捕らわれている場所が分からない以上すぐには決行できない。少尉には悪いが別の作戦を優先させてもらう」
「分かりました、中将」
「ラバン兵長」
「はい」
「得られた情報は少なかったが、カフカスに武器を流している武器商人が分かった。ハルバース・テトラという男だ」
「ハルバース・テトラですか」
「ラパー川の戦いの時に民兵に武器を流していたのもおそらくこいつだろう。だが今いる場所が分からない。そこでこいつだ」
「この写真の男は?」
「ジェイ・ラック。テトラの右腕と呼ばれている男だ。こいつが今、ニース街にいることが少尉の連れてきたマコという女性から分かった。周りの市民に注意を払って生け捕りにしてほしい」
「了解しました」
「それと少尉、大統領がカフカスに連れ去られたのは知っているな」
「はい、早急に対処すべき案件かと」
「君にはそちらの件の情報収集などをしてもらいたい。カフカスの排除と大統領の救出、どちらも最重要案件だ。手を抜くなよ」
「了解です」
2053年7月8日 14:00 ラバル兵長率いる部隊 ニース街 車内
ジャック・ライガン上等兵
俺達の乗る車はこの街で一番目立つホテルへと向かっていた。
「ここか?ジェイ・ラックとかいうやつがいるのは」
「情報ではな」
黒人の運転手とそんな会話をしながら俺は装備のチェックをしていた。彼はいつもあまり戦場らしくないオレンジのバンダナを巻いている。彼曰くお守りだそうだが、
「だが、たかが武器商人の右腕だろ。七人も投入する必要あったのか?ステルスでいくなら二人位でいい気がするけど」
「レスト中将もそれだけそいつのもつ情報が欲しいんだろ」
「なるほどな」
一応ある程度は納得して、武器の点検を再開した。
ジェイ・ラックはこのホテルの四階に住んでいるらしい。突撃して、確保して終わり。簡単な仕事だ。
「そろそろ行くぞ」
兵長からそう通信が入った。
まず、俺とさっきの運転手のリーとラバン兵長とグラムがホテル裏口から突撃し、奴の部屋を強襲。ギア少尉の部隊から借りたバルとライズマンという兵士が外で見張りだ。
「敵に護衛は本当にいないんですよね」
グラムが不安そうに聞いた。
「ああ、だが油断はするなよ。
よし突入する」
ホテルのなかを先頭から兵長、俺、グラム、リーの隊列で進んで行った。住民には話をして奴にバレないように出掛けるのを装って避難してもらっている。三階まで一気に階段でのぼった。この建物は三階から四階に行く階段は三階までの階段の少し離れたところにある。その移動で廊下を進んでいると、曲がり角から二人の男が飛び出して発砲してきた。
「しゃがめ!」
廊下は一本道のため遮蔽物がないため言われる前にほふくになって撃ち返した。
俺と兵長の撃った弾が敵を貫き無力化した。しかし、今の銃撃でリーが腕に被弾し、グラムは運悪く頭に被弾し大量の血を流してしんでいた。
「この男たちの格好」
「ああ、どうやら従業員に紛れてたらしいな」
男たちはこのホテルの従業員の着ている制服を着ていた。
「くそっ、四階でやつを早く仕留めるぞ!」
「仕留めちゃ駄目でしょ、兵長。生け捕りにしなきゃ。拷問のときにみっちり絞るんですから」
リーと兵長は内容はいつもと変わらないが少し低くなっていた。やはり、仲間が死ぬのは気分が悪い。
四階までにも何人か敵はいたがラックが雇っているのは素人に毛が生えた程度の民兵だったらしく不意討ちじゃなければ対処は難しくなかった。
そして、奴の部屋の前まで来た。
「兵長、まだ、奴が居ると思います?」
リーが小声で兵長に言うと、
「いてもらわねば困る。まだ、はじめの交戦から5分も経ってない。それよりも早く突入の準備をしろ」
すぐさま突入する支度をし、兵長がカウントする。
「3カウントでいくぞ。1,2,3,GO!」
中には逃げる用意をしていたラックとその護衛が二人いたので、すぐさまこの二人を排除する。
「お前がジェイ・ラックだな。一緒にきてもらうぞ」
兵長のその声を聞いたときラックはなんと窓から飛び出したのだ。
「おいおい、ここ四階っていっても結構高さあるぞ」
急いで窓に駆け寄り下を見ると案の定ラックは足を抑えうずくまっており、それにバルとライズマンが銃を向けていた。ライズマンが掛けているサングラスに日光反射させながらこちらを向き、グッと親指を立てて見せた。
「思ったより間抜けな捕まりかたをしたな、あいつ」
リーが少し笑いながら言った。そういえば、彼にはこの後ラバン兵長とリーの拷問があるんだった。再度、足を押さえているラックを見て少しだけ同情した。
近くの我々が借りておいた倉庫の中に兵長とリーとラックが入っていってから約二時間がたっていた。中から二人が出てきたとき、ずっと外にいた俺を含めた三人はラックの状況の話はせず情報だけを聞こうとしついた。中でどんなことをしてたかなんて、外にも聞こえる悲鳴を聞いてたら想像したくもない。
「それでテトラはどうでした?」
「分かりましたよ、なかなかしぶとかったですが。テトラは今ビフス基地に向かっているらしいです」
「ビフス基地って、B国の基地でしょ?。外国の基地に何をしにいくんでしょう?」
「それは聞かされていないらしいです」
「中将も流石に他国に兵を出すわけにはいかないでしょ」
ライズマンとリーの会話を聞きながら、テトラの行動の意味を考えたがさっぱり分からない。頭を使うのは苦手だ。
「とりあえず一度引き上げるぞ」
ラバン兵長に言われ、とりあえず今作戦の報告もしなければならないので退却を開始した。
しかし、兵士の勘だが俺は嫌な気がしてならなかった。
2053年 7月7日 16:00 B国 ビフス基地
ハルバース・テトラ
「作戦の状況はどうだ、テトラ」
「順調です。この為に奴らと同じ武器と銃弾を用意したんですから。」
雪の積もっている中でビフス基地の方で鳴るたくさんの銃声。
そんなに大きな基地ではないのでそろそろ制圧が完了するはずだが。
「作戦完了しました。」
その時、私兵の一人からそう連絡が入った。
「被害は?」
「2名死亡しました。」
「分かった。そいつらの死体はしっかり回収してをけ。それと、我々の痕跡も残すなよ。作戦を台無しにしないようにな」
「了解」
それを聞いてから無線を切り、準備させていた兵士たちを向かわした。彼らはそれぞれ大きな死体袋を二人がかりで運んでいる。
袋を運んで行く兵士たちを見送りながら、あの後使えると思っていくつか回収しておいて良かった。と私はあの時の自分の頭の回転の早さに感謝していた。
そして、私は兵士たちが基地のあちこちで問題なく作戦行動をしているのを少し基地に近づき双眼鏡で確認する。
双眼鏡の先では丁度兵士が袋の中に入っていた死体を取り出していた。A国のメタルフォースのワッペンを着けた兵士の死体を......