3、騒乱
2053年7月5日 10:30 ダス地方 ダス基地内飛行機工場
ドレイス・スター軍曹
私に泣きついてきていた女性はやっと落ち着いてきたようだった。彼女の名前はマコと言うらしい。この基地ではオペレーターのようなことをしていたという。カフカスに従わず反発し、ここに閉じ込められていたそうだ。そういう人はこの基地では結構いたらしい。反発兵が多かったから兵士が少なく基地内に兵士を集めているせいで、外の監視塔の兵力が弱かったのか。マコはカフカスの狙いなどは知らないと言った。
「あの、多分この近くにエルっていう私と一緒に捕まった人がいるんですけど。その人も助けてくれませんか?お願いします。」
そう言われても軍が捕まってる人をいちいち助けていたらきりがない。しかし、聞いてしまっては可能であるなら助けたいが。どちらにせよ今はここから動くこともできないのだ。助ける以前の問題である。
「とりあえず、足を怪我してる。みせて」
私は昔、軍の病院にいたことがあったから医療の知識は多少あった。と言っても、大した怪我じゃないし消毒して包帯を巻く程度だが。
「その消毒液とかはいつも持ち歩いてるのか?使ってもらったことないのだが」
「少尉はほとんど怪我しないでしょ。少尉が怪我してるときはだいたい私も治療どころじゃないですって」
そんなことを少尉と言いながら包帯を巻いた。
「あ、ありがとうございます」
どういたしましてと彼女に言おうとしたその時だった。
外で急に大きな地響きと共に何かが爆発するような音が聞こえた。
20分前 A国大統領専用ジェット機内 シークレットサービス
カータス・バーン
「バーン、大統領の準備が終わった。会議中も護衛の手を抜くなよ」
「分かっていますよ」
本日は首脳会議に出席する大統領の護衛を我々シークレットサービスが受け持っている。いまはその打ち合わせのようなものをジェット機の中の一室で行っているそうだ。
「本日は大統領のご息女様もいらっしゃる。失礼のないようにな」
そうだ、応接間にご息女様もいらっしゃるのだ。長旅でしたし後で、お水か何か持っていってさしあげよう。
そうこうしているうちに会議が始まった。私は会議室の四隅にそれぞれ一人づつ配置されている。
会議は問題無く進んでいた。途中で上司が通信で何か報告を受けていたらしいが内容は聞こえなかった。
ドンというドアを蹴破るような音を聞いたのはその時だった。
「今の音は何だ!原因を突き止めろ!」
そう上司が指示を出している後ろのドアが少し開きスタングレネードが放り込まれた。上司も爆発寸前気付き、
「全員伏せろー!」
そう叫んだのが聞こえた直後目の前が閃光に包まれた。
ぼんやりと聞こえるようになってきた。
「~~~~!~~~~!バーン!しっかりしろ!大統領がさらわれた。行くぞ!」
その言葉を聞いて私は飛び起きた。大統領をお救いしなければ。
「ご息女様は?」
「分からん、まずはそちらから確認しに行こう」
大統領もご息女様も何者か分からぬ者逹に捕まったとなったら大変だ。私はシークレットサービスが標準装備しているサブマシンガンを構え、ご息女様のいる応接間に上司と二人で急いだ。
廊下にはさっきのやつらの仲間が他のシークレットサービスと戦闘をしていた。それに加勢し制圧しながら進む。
一体、こいつらはどこに隠れていたのだ。
たどり着いた応接間のドアを開けると中には無理矢理ご息女様を連れだそうとしている兵士がいた。
ご息女様に当たらないように気を付けて発砲し敵を無力化した。
「大丈夫ですか?」
「ええ、なんとか」
大分落ち着いていらしたのでほっとした。こんなところで泣かれでもしたらどうしようかと思ったが......
その後、ご息女様にはシークレットサービスの一人とパラシュートを使って脱出してもらった。
眼下で無事にパラシュートが開き、降りていくのを確認して、大統領救出に戻った。
敵の数はそんなに多くはなかったが狭い空間と揺れる足場のせいで思う様には動けなかった。
応接間の奥の客席のようになっているところで敵と戦闘しているときだった。さっきまでの揺れとは比べ物にならない揺れが私たちを襲った。それで、天井と床に叩きつけられ肺の空気が一気に口からでた。どうやら、機長が殺されたらしい。咳き込みながらも銃を手に取ろうと這っていると、奥の扉からリーダーらしき男とその後ろに大統領を連れた男たちがきた。リーダーらしき男は銃を取ろうとしていた何人かを射殺し、上司に近づいてきた。
「あんたがここの責任者か、小娘をどこにやった?」
「ご息女様はすでに脱出していただきました。残念でしたね。」
咳き込みながらも上司はその男を睨み付けて言った。
大統領はとりあえず娘が無事だということにほっとしているようだった。
「頼むから娘には手を出さんでくれ」
「構わないさ、大統領が核の発射コードを言えば娘をわざわざつかうこともないからな」
そう言って、彼は上司の頭を撃ち抜いた。
「ここにはもう用はない。脱出するぞ」
そう言うと彼らは大統領を連れて非常出口から降りて行った。おそらくパラシュートを使うのだろう。
彼らが降りて行ってすぐジェット機のあちこちで爆発が起きた。戦闘しながら爆弾をしかけていたのか。
炎につつまれたジェット機はそのまま墜落していった。
2053年 7月5日 10:30 ダス地方ダス基地内飛行機工場
ドレイス・スター軍曹
少尉が少しドアを開けて、外の様子を確認した。
「どうやら、飛行機が墜落してきたようだ」
「墜落?なんでそんなことに」
「だが、これはチャンスだ。奴等があれに気を取られている間に脱出しよう」
少尉の言った通り敵は墜落した飛行機のせいで起きた火を消したり、負傷者を救出したりしていたのでこちらを包囲している兵士の数が少なくなっていた。
「あの、エルは」
「すまないが、助ける時間はない」
「いえ、そうですよね。虫が良すぎました」
しゅんとする彼女を見ると罪悪感が込み上げてくるがこの状況では仕方ない。一応、無事に帰ったら救出作戦を申請してみるか。なにか、情報を持っているかもしれないし。
脱出に関しては私が工場の屋根からスナイパーライフルで少尉とマコの脱出を援護し、その後少尉が私を援護して脱出するという手筈だ。
屋根に上りスナイパーライフルを構え横に弾倉を並べる。大きく息を吸い込み少尉の合図を待つ。
「いくぞ!」
少尉が無線でそう叫んだ瞬間、数が少なくなっている倉庫を囲む兵士を上から狙い撃ちする。倒れていく敵の兵士の中をマコを抱えた少尉が走っていく。撃ったらすぐに弾を装填し撃つ。休む暇もなく撃ち続ける。少尉達が出口に近づいたとき、出口のとこほから敵の兵士が15人程出てきた。少尉は咄嗟に近くの車両で身を隠したが、後ろからも敵が来ている。正に挟み撃ちされる状況だ。
「少尉!」
「大丈夫だ」
私が無線で叫ぶと少尉は大丈夫と言った。何が大丈夫なのだ。そう思いながらもなんとか後ろから来る兵士の頭を撃ち抜いていく。遠目で少尉がどこかに連絡しているのが分かった。どこに連絡したのだと思っているとき、出口付近の敵に私たちを回収する予定だったヘリが機銃掃射を行った。少尉はヘリに連絡していたのだ。うしろから敵が来る前にヘリから縄梯子が降ろされた。それに、まずマコを登らせ少尉が登る。そして、私の方に飛んできて工場の屋根に縄梯子を降ろした。私がスナイパーライフルを担ぎその梯子に捕まろうとしたときだった。どこからかRPGが飛んできた。それをヘリが避けたせいで私は登り損ねてしまった。私はだらしなく乗り損ねた勢いで下に落ちてしまった。結構高さがあっちので落ちてもすぐには動けなかった。少尉が登れなかった私に気付き自分も飛び降りようとしたが、それをヘリの中にいた兵士が止めていた。
「私のことはいいから行って下さい!」
少尉は苦い顔をしていたがヘリは脱出していった。
それを見送った後、倒れた私の頭を思い切り踏みつけられた。そこで私は意識を手放した。
大統領の話をどうしようか迷っています。娘ももっと本筋に関わらせたいし......