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吹雪のむこう  作者: 蘇芳
2/12

新入生歓迎の儀式と言えば・・・

 囲まれます。ちょびっと暴力表現あり。

 俺は肩越しに振り返り、後ろに誰もいないのを確認して、ちっと舌打ちをした。

 他に行く所もないのだから、当然ついてくるだろうと思っていた俺が甘かったらしい。

 いつからいないんだよ?

 それともついてくる気もなかったってことか?

 やっぱり、あいつ心身症じゃないのか?

 そんなやつの面倒なんかみきれるかっての。

 でも、ウィーナ先生によろしくって言われたしなぁ・・・

 先生は、学院で一番若い先生だ。

 やさし気な風貌をしているのでみんな騙されるが、かなりの食わせ者で性格も悪い。

 にこにこしながら平然とイヤミを言う。心理戦で先生に勝った人を俺は見たことがない。

 その先生がよろしくって言ったんだ。ティルトをちゃんと見ていなかったら、イヤミの一つや二つは覚悟しておかなければならないだろう。

 いや、イヤミだけではすまないかもしれない。


 「あれ、ナギ?」

 研究棟から出てきたのはクラスメイトのサーザだった。師匠に出された課題をするためなのか、分厚い本を山積みで抱えている。

 「よぉ、サーザ」

 「もう、見てくれよ。これ3日で読めってさ。うちの先生って本当にスパルタだよね」

 「そりゃ、気の毒にな。今度の本はいつくらいの時代なんだ?」

 「ず~っと前」

 ため息まじりにサーザ。「それはもう気が遠くなるくらい」

 こいつの専門は古文書の解読だ。

 「よくそんなに古い本が残っていたな」

 「うん。魔法書だから」

 魔法書?

 思わず眉を寄せ、腕組みをしてしまう。

 「なんだって魔法書なんかが?精霊殿の導師や魔導師はどうしたんだよ?」

 サーザは俺の反応に苦笑し、本を抱え直すと言う。

 「ダメだったらしいよ。導師長でも、王都の魔法学院でも読めなかったんだって」

 「ふ~ん。でも危険じゃないのか?」

 「いや、大丈夫だろ?魔法なんて魔力がなくちゃ使えないし、滅んでしまった言葉を完璧に発音して詠唱するなんて離れ技、うちの先生にだって無理だよ」

 「そういうもんか?」

 「そういうもんだよ。ところでさ」

 サーザはとっておきの話だと言いた気に俺の耳に口を寄せる。「ウォルフ達が凄い綺麗な子を連れてたんだよ。編入生かなぁ?」


 なに?!

 俺は、がしっとサーザの両肩を掴んで叫ぶ。

 「どこで見た?!」

 「え?書庫の窓からだけど?研究棟の裏の方へ行くのを見たよ」

 研究棟の裏・・・

 「まさか・・・シメに行ったんじゃ・・・」

 「多分、そうだろうね」

 血の気が引いて行く俺にサーザはあっさりとトドメをさす。「あいつらの事だからね。あれだけ目立つ容姿ならほっとかないでしょ?」

 だよな~!

 がっくりと肩を落として俺。

 あ、いかん。こんなトコロで脱力してられね~。

 「ありがと、サーザ」

 「ナギ?」

 俺は「じゃあ」と言って、片手をひらひら振ると走り出す。

 こりゃ、先生にばれたらイヤミどころの話じゃないな・・・どこに採集に行かされるか、わかったモンじゃない。


 俺は再度、研究棟に逆戻り。

 学院の棟は、先生達の私室兼研究室のある研究棟。俺達生徒が授業を受ける学習棟。あらゆる文献がそろった図書棟。講堂、寮棟の5つの棟がある。

 ちなみに俺が昨日上っていた星見の塔は、学習棟にくっついている。

 研究棟の裏はちょっとした森になっており、あまり人も行かない為、新入りをいたぶる・・・もとい、脅かすにはもってこいの場所だ。しかも、当然、雪かきなんかされていないから、今の時期は特に人が行かない場所になっている。

 俺は研究棟の廊下を走り抜け、北裏口に体当たりするようにして扉を開いた。

 雪についていた足跡は4人分。完全に膝まで埋まっている。それが森の中へ消えていた。

 ・・・まずいな。

 俺は舌打ちして、足跡をたどって走り出す。


 森に入ったところで、人の声が聞こえた。

 あの声はニコラスか?

 早く行きたいが、雪に足をとられて早く走れない。

 殴られるくらいですめば良いけど、あのキレイな顔に傷がつくのはもったいない気がする。それに、暦の上では春になっているが、気温はまだまだ低い。ティルトは外套を着ているわけじゃないから、あのまま長時間外にいたら確実に風邪をひく。

 先生がにっこり笑って採集道具を持っている絵が脳裏にちらつく。

 やばい。やばい。

 自分の吐いた息が白くなって、後ろへ飛んで行くのを見ながら俺は走る。

 「・・・か?」

 「新入りなんだろ?」

 「ウォルフ様に挨拶しろよ」

 「ずいぶんとお高くとまってるじゃね~か」

 「おキレイな面しやがって」

 「なんとか言ったらどうなんだよ?!」

 木々の向こうに4人の姿が見え隠れする。

 ああ、もう!

 俺は大きく息を吸い、できる限り声を張り上げた。

 「やめろ!やめろ!やめろ!!」

 俺の声に3人ははじかれたように俺を見た。

 ウォルフ。ニコラス。アルケイド。

 「何してんだよ?」

 「ナギ?」

 「ああ。そいつは俺の同室だ。それ以上何かしてみろ、ただじゃおかないぜ」

 ざこざこざこ。

 俺は雪を蹴散らしながら冷ややかに告げると、奴らの正面に立つ。

 3人が壁のように並んで立つ後ろにティルトが見えた。

 ティルトは雪の上に俯いて座り込んでいた。上着とシャツのボタンは引きちぎられ、右側の袖が付根から破かれていた。寒さのためか両手で自分自身を抱き、小さくなって項垂れている。そのせいで、首筋から右の鎖骨までが露わになっており、俺は同じ男だって言うのに、その色っぽさに絶句した。

 「誘ってるみたいだろ?」

 ・・・え?

 俺は言われたことがわからず、声がした方へ反射的に顔を向けた。

 ウォルフがにやりと笑う。

 「あまりにも色っぽいんで、女かどうか確かめてみたくなったんだ」

 「脱がせただけだぜ」

 「そうそう。まだ犯っちゃいない」

 げらげらげら。

 3人そろって下卑た笑いを浮かべる。

 こいつらは~!!

 俺の頭に一気に血が上る。

 「っざけんなっっ!!」

 一括し、俺はぎろりとウォルフを見る。

 その俺の本気で怒った目で見据えられ、ウォルフは昔を思い出したように一瞬だけひるんだが、すぐに睨み返してきた。

 俺は初等学校の生徒だった頃、村でも有名なやんちゃ坊主だった。まぁ、平たく言えばガキ大将だな。このウォルフは、俺と同郷である。村で一番の商家の息子だ。こいつの専攻は経済なので、専攻の違う俺とつるむことはないが、それなりにはお互いを気にかけている。

 つまりウォルフは、俺が暴れん坊だったことを知っている。

 「いくら温厚な俺でも、これは笑ってすませられないな」

 「だったら、どうするんだよ?」

 ふん。

 皮肉気に口元だけ笑ってウォルフ。

 「こーするんだよっっ!!」

 言葉とともに俺の右ストレートがさく裂し、ウォルフの左ほほを殴りつけていた。ウォルフはふっ飛んで、雪の上に尻から落ちる。

 「ウォルフ?!」

 「大丈夫か?!」

 ニコラスとアルケイドが倒れたウォルフに手を貸して立ち上がらせる。「やりやがったな、ナギ!!」

 ぎろりとアルケイドが俺を睨みあげる。

 はん。やったからなんだ?

 俺は口元だけをゆがめて嘲笑する。

 「ああ?お前も殴られてケツ打ちたいワケ?」

 「んだとぉ?!」

 「やめろ、アルケイド」

 殴られた左ほほを押さえながら、ウォルフは右手でアルケイドの肩を引きもどす。

 「でも」

 「いいからやめろ。本気のナギには勝てねぇよ」

 「・・・ウォルフ?」

 ウォルフは2人を視線で黙らせ、先に行けと顎をしゃくう。2人はしぶしぶとそれに従い、研究棟の方へ歩き出す。

 俺はそれを横目で追い、じんじんする右こぶしを左手で撫でていた。

 そんな俺を見て軽くため息をつくと、ウォルフが俺を呼ぶ。

 「ナギ」

 「なんだ?」

 「珍しいな。面倒くさがりのお前が、本気で殴るなんてよ」

 「俺のことはどーでもいいだろ。お前こそ、子供じみたことしてないで勉強しろよ。おばさんが泣くぞ」

 なにしに学院に来たんだか・・・

 ぶぜんと言い放つ俺の肩をすれ違いざまに叩いて、ウォルフは嬉しそうに笑うと研究棟の方へ去って行った。

 なにが嬉しいのかわからねぇ・・・

 俺はウォルフの思考回路に首をかしげつつ、ティルトの前にしゃがみこむ。


 俺は、固まったままのティルトに声をかける。

 「大丈夫か?」

 「大丈夫です。忠告は受けていました」

 淡々と言って、静かに立ち上がる。「初日からとは予想外でしたが・・・ご迷惑をおかけします」

 静かな瑠璃色の瞳に俺が映っていた。

 感情の読めない不思議な瞳。

 「いや、俺は・・・」

 「先生に頼んで部屋を変えてもらった方が良さそうですね。ナギさんにもこれ以上迷惑をかけるのは申し訳ありませんから」

 俺はびっくりしてティルトを見上げてしまう。

 口調は淡々としていて、脅えとかは全く感じられない。今の今までシメられていたヤツの言葉とは思えない。普通ならショックのあまり、泣くとか叫ぶとか怒るとかするんじゃなかろうか。

 「どうしてそんなに落ち着いているんだ?」

 「はい?」

 俺がぼそりと口に出してしまった言葉を聞き逃し、ティルトは小首を傾げる。

 「どうしてそんなに落ち着いていられるんだって言ったんだ」

 俺は立ち上がって、真正面からティルトを見た。と、言っても、こいつの身長は俺の目の高さくらいまでしかなかったが。

 ティルトは手を離すとはだけそうになる上着を右手で押さえ、左手は考え込むように口元にゲンコの形であてた。

 仕草は可愛い。でも、無表情。

 「そうですね。ボクには感情的に欠けてしまった部分があるようです。先ほどの事は、特に怖いと思った訳ではありませんが、あきれてはいます。頭ではわかっているのですが・・・感情の表現ができないと言う事は、なんらかの心因性・・・つまり心の問題で、このままでは良くないということも理解しています。ですが、これはボク個人の問題であって、そのためにナギさんにご迷惑をおかけするのは申し訳ありません。やはり1人部屋にしていただこうと思います」

 「それは無理だよ」

 理路整然としかも淡々と話すティルトに俺はため息まじりに言う。「学院は2人部屋が基本なんだ」

 「ですが、ナギさんはお1人だったのでは?」

 俺はティルトの言葉に苦笑する。

 「言わないでおこうと思っていたけど、どうせ他のヤツから聞くだろうし・・・同室のヤツは半年前に事故で死んだんだ。だからベッドが空いていたんだよ」

 「そうですか。それはお気の毒に」

 感情のこもらない声でそう言い、ティルトは目をふせるともそもそと口の中で祈りの言葉を唱える。

 「若くして失われた魂に安らかなる眠りを与えたまえ」

 淡々としていたが、それは不思議と強い力を持った言葉に思えた。

 心からの祈りの言葉。

 「ありがとう。あいつの為に祈ってくれて」

 「いえ。お礼を言われるようなことではありません。失われた命を尊ぶのは当然のことです」

 世の中にはその当然のことをできない輩が多いんだよ。


 俺は改めてティルトを見てしまう。

 お人形のようにキレイな子。

 あいつの為に祈ってくれたくらいだから、心根のやさしい子なんだろうけれど、掴みどころがないよな。自分の感情が欠けているだなんて、冷静に自分で自分を分析しているのだから。

 でも、なぜだろう?

 俺はティルトには見えないように眉をひそめる。

 ティルトは友人を亡くした俺なんかよりも、もっと傷ついているように見えた。

 静かな瑠璃色の瞳には、なんの感情も見えてはいないのに。

 「寒くないか?」

 「大丈夫です」

 平然とうなずかれて、俺は再度苦笑い。

 でも、このままで歩かせるわけにもいかないな。

 「脱いで」

 破れた上着を脱がせ、俺も自分の上着を脱いでティルトに着せるときちんとボタンを止めて前がはだけないようにする。

 まぁ、少しはましだろう。

 俺は破けた上着を抱えると、ティルトを促して歩き出す。

 このままだと俺が風邪をひきそうだ。

 「どうするんだ、これ?」

 破れた上着を示すと、ティルトは平然と言った。

 「どうもしません。すぐに直ります」

 すぐ直る?

 俺は眉をひそめたが、ティルトはそれ以上何も言いそうになかったので、上着の話はうやむやのままに終わってしまった。

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