008 狐っ娘
薄暗い開けた坑道の中、悲鳴と剣戟の音が響き渡る。
「リュウ、左の2匹を頼む!」
「了解」
バーツの指示に短く答え棍棒とナイフを持つゴブリン2匹を牽制する。
俺は2匹、バーツは4匹相手でも余裕のようだ。
バーツのバスタードソードが振る舞わされる度にゴブリンの悲鳴が上がる。
「バーツ、反対側の通路からゴブリンが7つくる」
ラピスの警告にリルリーラさんは弓を通路に定める。
「バーツ、リュウ、通路の敵は私が相手するから弓の射線に入らないように気をつけて」
そう言うと、通路からゴブリンが出てきていないのに次々と矢を放つ!
通路のほうから『ギャァ』とか『ギャピィ』とか悲鳴が聞こえてくる、どうやら外すことなく命中しているようだ。さすがリルリーラの姉貴!
俺も愛用と言っていいショートソードを振るい目の前のゴブリンの息の根を止めるべく奮闘する。
数分後、地面に累々とゴブリンの死体が横たわっている、その数12匹。通路の方にもリルリーラさんの矢で何匹か死んでいるようだ。
「これでゴブリンを30匹近くは狩っているよな」
俺が6匹、バーツが12匹、リルリーラさんが8匹、ラピスが魔法で7匹、通路で死んでいるゴブリンを合わせればリルリーラさんが倒している数はもっと増えるはずだ。
「流石リルリーラさんですね、通路の敵ほぼ全滅じゃないですか」
「フフ 通路は狭いから避けようがないからね、狙い撃ちよ」
今回は鉱山の中に住み着いたモンスターの掃除依頼を受け、臨時で金の星のパティメンバーとして参加することになった。
鉱山に入って3時間ほどの間にゴブリンの襲撃を何度受けたことか、リルリーラさんが言うにはゴブリンを1匹見つけたら100匹は居ると思えって言ってたけどもっと居るんじゃないか?
「どうするのノルマは達成しているけど」 魔石を採取しながらリルリーラさんが聞く。
「いや、もっと探索しよう、この坑道の掃除は町にとって急務だろ、なるべく多く退治したほうがいい」
「それもそうね、他にもパーティが入っているようだし時間もあるし、もっと奥まで行ってみるのもいいかもね」
リルリーラさんの意見に俺もラピスも頷く。
それに、俺は今とっても絶好調だからもっと先へ行きたいのだ。
何故かって、あれだけ気合を入れて魔法の習得を頑張ろうと思ったのだが、あっけなく習得してしまった。
しかもラピスからは風と土と付与属性魔法を習い、リルリーラさんからは水と光の属性魔法を取得してしまった。
その事実にラピスは呆れ顔で、リルリーラさんはかなり納得がいかないようだった。
スポンジが水を吸収するかのように魔法が使えるようになったが、しかしそうは簡単にはいかないのが世の中ってもの、俺の弱点が邪魔をする。
物覚えが悪いっていう弱点が。
だってよ・・・魔法語って意味わかんねーんだよ、ラピスが言うには分かる単語は全体の僅からしくほとんど意味が分からないらしい、ただそのとおりに詠唱すると魔法が発動すると言う現象だけだ。もちろん練成術が未熟なら魔法は発動しないが。
という事で、俺は羊皮紙にびっしりと魔法語とこの世界の言葉ラスリム語と日本語訳を書き、それを見て詠唱することしか出来ないのだ。
そう言えばと思いステータス画面を呼び出す。
リュウヤ アマガミ
男 22才 種族 神人 Lv1
状態 健康
HP 11/10 MP 33/30
[筋力 7]
[耐久力 8]
[敏捷力 9]
[器用度 7]
[魔法力 10]
技能スキル
[投擲術 Lv1(0/10)]
[剣術 Lv2(2/20)]
[弓術 Lv1(9/10)]
[槍術 Lv1(1/10)]
[練成術 Lv2(1/20)]
特殊技能
[祝福 Lv1(0/0)]
魔法属性
風 水 地 光 付与
おお、剣術のレベルが上がっている、やっぱり敵を倒すと経験値が入ってレベルが上がるのか。
レベルが上がることによって能力にどのようにプラスされていくが分からないが悪いことは無いはずだ。
後は魔法力と練成術が上がりMPが増えている。魔法は使えば使うほど能力が上がっていくのが分かったので夜寝る前に魔力を限界まで使うようにしていたのが
功を奏したようだ、魔法の練習をして七日で1ポイント上がった。そして使える属性魔法も表示された。
一人、ニマニマと笑顔で歩いていると、リルリーラが不振そうに『気持ち悪い』と言ってきた。
何とでも言ってくれ。
坑道って言っても案外道幅が広い人が3人ほど横に並んで歩けるほどの幅がある、今は先頭をバーツと俺で並びその後ろをラピスとリルリーラさんが続いている。
時折襲ってくる吸血コウモリや巨大毒クモを排除しながらクネクネと曲がる坑道の中を進むと、また広い場所に出た時、ラピスがピタっと立ち止まる。
「どうした?」
「誰か来る、え~と追われているみたいゴブリン3にこれはホブゴブリンが4。」
「どっちの方向からだ?」
前方と左に坑道があるがラピスは前方の方を指差した。
「こっちに向かってる。もうすぐ来る」
「迎撃態勢だな、ラピス、リュウ、俺の合図で風魔法の一撃を与えてくれ、リーラは弓で攻撃した後、ラピスの護衛を頼む」
「「了解」」
風魔法の呪文風の刃の詠唱を始める、まだまだ俺の魔法の威力は弱いがそれでも与えるダメージは大きい。
ラピスの詠唱に俺も合わせる、ラピスは短縮詠唱で風の刃の魔法を発動できるはずだが短縮詠唱では威力が半減するとのこと、なので普通に呪文詠唱を行うことで威力を上げる。
それにラピスの詠唱になぞって唱えれば俺はカンニングペーパーを見なくてすむしね。
だんだんと足音が近づいてくる、呪文詠唱は完了しスタンバイ中、いつでも発動OKって状態だがこれを維持するのもかなり精神力が必要だ。
た~す~け~て~ そんな声が坑道内にこだまする。
来たか!
通路の向こうから小柄な人影が猛ダッシュで駆け込んでくる。
「たすけて!犯される~!」
通路から飛び出してきたのはラピスとそう変わらない身長の少女だ、しかも耳尻尾が付いている。猫耳っ娘か?、いや違うな獣っ娘には違いないが、このピンと直立する耳にあかね色のフサフサとした尻尾は。
狐っ娘か!! おお~神様!この世界には狐っ娘も居るのですね。 すばらしい・・・
ガバッ! 狐っ娘はそのままの勢いで俺の脚に抱きつきガクブルと震えている。嬉しいんだが今は精神統一中、邪念が入るじゃないか。
「よし、今だ打て!」
狐っ娘を追って現れたゴブリン共に溜めていた魔法をバーツの合図で叩き込む。
ラピスと同時に放った魔法でゴブリン共は腕や足を切断されのたうち回る。魔法で倒れたのは3匹、その後ろからいつものゴブリンより大きいゴブリンが突っ込んでくる。こいつがホブゴブリンか!
即座に剣を抜いて近づいてくるホブゴブリンを牽制しょうと一歩足を踏み出そうとしたが、足が重くて動かない。
「おい、いい加減に離れろ!」
いやいや流石に生きるか死ぬかの戦闘でこうまで抱きつかれては身動き取れないぞ。
トゲトゲの棍棒が迫り来る。 ホントヤバイ!
思わず受けようとショートソードを振る、が、衝撃はこなかった、ホブゴブリンの額に矢が突き刺さっている。
「早く、そのお荷物突き離しなさい!」リルリーラさんの怒り声が響く!
「わ、わかった」 むんずと襟首を掴み引っぺがし後方に投げ転がす。「いやん!」
なんか可愛らしい声が聞こえたけどこれで動ける。
前方に注意を向けると既にバーツが1匹を葬り、2匹目に取り掛かっている。
そして最後の1匹が俺目掛けて突進してきた。
「うお、やべ!」 ぎりぎりで避けざま、がら空きになった首裏を目掛けて剣を振り下ろす。
オッ! 会心の一撃、スッパリと首を切断! 首は後方の狐っ娘に飛んで行きすっぽりと手の中に落ちた。
「んぎゃあ~!」耳を劈く悲鳴が辺りに響き渡る。
バーツは危なげなく残った1匹に止めを刺し戦闘は滞りなく終結した。
バーツ達ってレベルどの位なんだろうか、ステータスを見ることが出来ればいいのだが、やって見たけど見ることは出来なかった。
神様なのに出来ないことが多いな・・・
「どうしてくれるのよ、ゴブリンの血で汚れちゃったじゃない!」
突然目の前に狐っ娘が猛抗議してきた。
ゴブリンの血で鎧や鎧下に着けている服が汚れてしまっている。
「え、あ~ ごめん!」 首が飛んでいったのは偶然だけど俺の所為だだもんな。
「ごめんで済むほど世の中は平和じゃないのよ」 ああ生首のショックでパニックっているのか。
「うるさいわね!」「あだ!!」リルリーラさんの背後からのチョップで頭を押えて蹲った。
そこへ剣の血糊を拭きながらバーツがやって来た。
「なぁ 嬢ちゃん、どうしてこんな所に一人で居るんだ。他に誰か居るのか?」
確かに変だな、今のこの鉱山はモンスター達の巣窟になっている、そんな所に一人で居るのは不自然だ。
「はぇ え~と 道に迷って えへ」 あ 怪しい 怪しいぞ こんな所道に迷って入ってくるか?
「へぇ~ 道に迷ってね~ 一応この鉱山は許可証を持っていない人は立ち入っていけないことになっているんだけど、道に迷って入ったて事は許可証は持ってないのよね」
探るようにリルリーラさんが狐っ娘に質問する。
「え はい そうですね偶々道に迷って入ったので許可証は持ってないです、ね」
「道に迷ってこんな奥まで入ってきたの?」 無理があるだろいくらなんでも。
「はい・・そうです・・・あ えと あの助けてくれてありがとうございます、み 皆さんの迷惑になっているようなので外に出ますね」
そそくさと立ち去ろうとする狐っ娘の襟首をバーツは素早く摘み上げ顔を近づける。
「きゃぁー エッチ 変態 離しなさいよ!」
「外に出る前に服の下に隠しているものを出してもらおうかな」 ニヤリと笑うバーツがなんか悪人に見えてきたよ。
「な、なんの事ですか? 変な言いがかりを言うのはやめてください」
目線を彷徨わせながら苦しい言い訳をする。 ん、何かあるねなんだろう。
「へぇ~ 惚けるんだ、じゃあしょうがないね裸にひん剥いて確かめてみようか」 オイ、どこの山賊だよこの台詞、もう完全に悪もんだよバーツくん。
「へ 変態!」
「あ そんな事言うんだ。仕方ないな、リーラよろしく」
「はいは~い!」
リルリーラは鎧下のシャツをたくし上げると手をつっ込んでまさぐっている。
「きゃー やめて変態~~」
「さてとこれは何かな子狐ちゃん」
出てきたのは30センチほどの茶色い小袋。
「そ それは私のものよ返して!」
中身を出して見てみると、色とりどりの鉱石が出てきた。
「一応言っておくがこの鉱山は廃坑って事ではないぞ、今でも掘ればいくらでもいいものが出てくる、ただ今はモンスター共がここに住み着いているため採掘が止まっているってだけだ。そしてここの採掘権は領主の伯爵様と鍛冶ギルドが権利を持っている。だからかってにこの鉱山の鉱石を持ち去ればドロボーって事になるんだが・・」
「そ それがどうしたの私には関係ないわよ、それはここに入る前から持っていたものなんだから」
バーツに反論するが声が少し震えているよ。
「ん そうか 分かった」
狐っ娘はバーツの言葉に安堵するが次の言葉で目を剝いた。
「じゃあ警備隊に引き渡すか、俺達じゃあ判断付かないもんな、今なら大目に見てあげれるけど仕方ない。」
「え いや ちょっと それ困るんですけど。」
「ん どうして、小狐ちゃんのものならちゃんと警備隊に説明したら分かってもらえるんじゃない。本当に小狐ちゃんの物ならね」
リルリーラさん悪女ぽくなっていますよ。
「ぐっ わ、分かったわよ、そうですこの奥から取ってきたのよ。あ~もうしくじった。」 物凄く悔しそうだ。ガクっと肩を落としている。
「素直に認めればいいのよ」
「で どうするつもりよ私を殺してそれを手に入れるの」
この娘は物騒な事言うな。
「そんな事しないよ、いやしないはずだよ」 ちょっと自信がないな・・・チロっとバーツとリルリーラを見る。
「何見てんの!そんなことするはず無いでしょ」
バコッ 思い切り脛を蹴られた。 イタイ!
「これ 取れた所、まだ取れるか」 バーツが鉱石の一つを見ながら質問する。
「え うん まああいつらが来たから慌てて逃げたけどまだたくさんあったよ」
「へー ふーん そうか有るのか、ここから遠いのか?」
「えーと 5,6分ぐらい行った所にあるけど」
「よし行こう!」
バーツの発言に驚愕する、だって勝手に取っちゃダメなんでしょ。
「お おいバーツ、勝手に取ったらダメなんじゃないのか?」
「俺達は許可証を持って入っているから良いんだよ、取ったものを鍛冶ギルドに持って行って鉱石の価値の2割分を払ってくれるんだそうだ」
「ん 2割? 」
「そう、もともとはこの鉱山は領主と鍛冶ギルドのものだから出てくるのはそいつらの物だけど、今は近づけないからな、取ってきたら価値の2割分を払ってくれるってエリスちゃんが言ってたんだよな」
そうなの俺聞いてないけど。
「で 案内してくれる」 リルリーラさんなんか楽しそうだな。
「案内して私に何の徳があるのよ」
「ああ 引き取ってくれた鉱石の半額を君にやるよ。どうだ」
「半額!? ホントに」
「ああ 約束するよ どうだ」
「わ 分かったわ案内する」
取り分は少なくなったが、それでも護衛が居るのと居ないとでは危険度は違ってくる。それを考えれば悪い取引ではないはずだ。
まぁ一人でここまで潜入することが出来たんだからそれなりに腕が立つのかもしれないが。
「それで君の名前はなんて言うの、俺はリュウって言うんだけど」
「私はリリよ、他の人たちは何ていうの」
「あのエルフの人がリルリーラさん、鉄の胸当てをつけてる男がバーツ、そしてローブを頭から被っている娘がラピスって言うんだ」
ゴブリンたちから魔石を取ってから、先を進みいくつかの道を曲がり5分ほどリリに案内され辿り着いたところは行き止まりの採掘場だ。
「ほう なかなかの量だ」
バーツは周りを見て興奮しているようだ。
「これは鉄火石に鉄風石、あっ それに魔晶石もある すごい」
ラピスが興奮している。こんなラピスは初めてだな。
「そんなに凄いの」
「はぁ そんな事もしらんの? 魔法を使っていたのに」
リリが呆れたように言ってくる。
「魔晶石は魔力を貯める事ができるですよ、他にも用途は色々ありますしとても貴重な物です」
「へぇ そうなんだ 憶えておこう」
「よし 取れるだけ取るぞ、ラピスは周囲の警戒よろしくな」
「うん・・」
ラピスは頷くと近くの石に腰掛て身動きせず鎮座した。
この日、モンスター退治そっちのけで鉱石を取れるだけ取り町へ戻った。
既に日は暮れ始め、辺りは店じまいを始める頃、俺達は冒険者ギルドへと辿り着いた。
「バーツさん、はいこれ今回の報酬です」
笑顔のエリスちゃんが木の盆にのった報酬を差し出した。
「えーと 依頼報酬が銀貨3枚で、追加報酬分で小銀貨8枚と銅貨2枚ですね それと魔石の買取で銀貨2枚と小銀貨7枚そして銅貨が6枚です。全部で6580エルです。どうぞ受け取りを」
お なかなかの金額だ、今回はゴブリン20匹がノルマだったけどその倍の40匹倒して追加分を取れたし、ホブゴブリン4匹も追加で加算された。
それと46匹分の魔石がなかなかの金額になっている。それと今回は鉱石を鍛冶ギルドに持っていけばもっと報酬が上乗せされる。
鍛冶ギルドのほうはリルリーラさんとラピスが行っているので冒険者ギルドで待ち合わせすることになっている。
「あ それと、リュウさんおめでとうございます。ランクアップです」
「え 俺!?」
「はい!ランクアップでGランクなりました。カードを確認してください」
「ああ はい 分かりました」
カードを取り出して見て見るが、しまった文字が読めない。
「えーと すいません文字が読めないので確認してもらえますか」
「あっ そうでしたね申し訳ありませんでした。ではこちらで確認させていただきます」
カードを受け取るとエリスちゃんはピッピッっとカードを操作する。
「はい ちゃんとカードはGランクに書き換えられていました大丈夫です」
ニッコリとカードを返すエリスちゃんに「あ ありがとう」とお礼を返す。
「あんたってHランクの冒険者だったの?」
「ん そうだよ今はGランクになったけど」
リリは不思議そに俺の顔を覗き込む。
「もっと上かと思ったわ」
「おう、リュウ、ランクアップしたのか、それじゃあ今日は盛大に騒ぐか」
「ええー またか、ほどほどにしょうぜ」
「何を言っている、騒げるときに騒がなくてどうする。今日は飲むぞ」
バーツは俺の肩を抱き、ギルドに併設されているバーへと歩き出す。
「あ ちょっと待ってくださいバーツさん! ホルシャの町から手紙が来てます。」 エリスちゃんがバーツを呼び止めた。
「ん 手紙?」
「はい これです。受領書にサインしてくださいね」
受領書にサインをして手紙を受け取ったバーツは、手紙を読むとアチャ~って顔で額を押えた。
「どうしたんだ?」
「んん リルリーラたちが帰ってきてから話すよ、とりあえず飲もうぜ」
いったい手紙には何が書かれているんだか、まぁ あまりいい話じゃなさそうだが、とりあえずバーツに付き合って飲むことにした。