002 ああ、やはり異世界!?
・・・・・・・・・・・・!
クッ 体中が痛い!
目を開くと辺りは薄暗く焚き火の明かりが見えた。
ここは何処だ、俺はいったいどうしたんだろう!?
そうだ、思い出した! ブタの化け物に襲われたんだ。どうして生きているんだ?
薄手の毛布が体を包んでいるようだ。そっと辺りを見回すと焚き火の周りに3人の人を確認した。
あ~、ファンタジーな世界だな。
焚き火の左側に居る人物は鎖帷子の上に胸当てのプレートを身につけたいかにも戦士か騎士って感じの茶髪の青年だし、その反対側に座って居る人は金髪美人の女の人だが人間とは思えない長い耳をしている、まるで話しに出てくるエルフのようだ。
そして、その間の焚き火の向こうに座って居る人物はよく見えないがたぶん魔法使いなんだろうか、灰色のローブをすっぽり頭から被り杖らしきものを肩に引っ掛け足を組んで座って居る。
もしかしてこの人たちに助けてもらったのかな? そうじゃないと俺が生きているはずがないし。
そう考えていると男と目が合った。
「〇$#★X%&▲+◆」
あ~ 何を言っているのか分からない! さすがに異世界。 困ったぞ。
なおも男が話しかけてくるがさっぱり分からない、このまま黙っていても相手に不信感を与えてしまうので言葉が通じないことを伝えなければ。
とりあえずお礼を言っておこう。
「助けてもらったようでありがとうございます。あなた方は命の恩人です」
体を起こしながら礼を言うと3人とも驚いたようだ。目が点になっている、たぶん言葉が通じないとは思わなかったんだろうな。
3人が何事か相談していると、ローブを被った魔法使い風の人が立ち上がり近づいて来た。
フードの中から覗く顔は年寄りの老人かと思っていたら中学生ぐらいの美少女が真剣な表情でまっすぐ俺の目を覗いている。
「ワタシノコトバガワカリマスカ?」
エッ!? 流暢とはいい難いが日本語だ! ナゼに日本語を話せる人が居るの? もしかしてここって別世界じゃなくて外国とかよその国なの?
「キコエテイマスカ?」
驚きのあまり固まっていた俺にわずかに眉を寄せ聞いてきた。
「ああ、聞こえている、しかしなぜ日本語が話せるんだ?」
「ニホンゴトイウノハワカリマセンガ、オオムカシ・・・ワガイチゾクヲスクッテクレタヒトノコトバデス。」
昔、この人の一族を救った人の言葉!?
「その人はまだ貴女の一族の所にいるの?」
「ソノヒトハ、300ネンホドマエニシニマシタ」
「300年!?」
300年前だって、そんな前の人が使っていた言葉をなぜこの子は話せるんだ?
いや、まずはここが何処だか聞くのが先だな。
「ここは日本なのか?」
「ニホントイウノハワカラナイ、ココハ、ガストーニュオウコクノミナミノハズレデス」
「ガストーニュ王国? 聞いたこと無いぞヨーロッパの国か? 」
「ヨーロッパ? ナンデスカソレハ?」
ヨーロッパも知らないと言う事は、やっぱり別世界か?
何気なく夜空を見上げると、あまりの驚きに固まってしまった。
紺色の夜空に星が煌めくのは見慣れた光景だ、そして月が夜空に浮かんでいるのも別段おかしくは無い、しかし何故に月が二つあるんだおい!?
「月が二つある?」
俺の呟きにフードの少女は首を傾げ夜空を見上げた。
「ツキハフタツアルノガアタリマエデスガ」
「二つ在るのが当たり前なの?」
どうしてそんなこと聞くのという感じで少女は頷いた。
ん、決定だなこりゃ、ここは俺が住んでいた世界じゃない別世界だ。
多少の混乱いやかなり頭の中はパニック状態だが もう異世界だと決まったことで腹を決めることにした。この世界で生きるにしろ死ぬにしろ足掻かなければ先へは進めない。手始めに情報だよな。
この世界のことはまったく知らないのだから、それなのに日本語が分かる人に巡り合えるなんて奇跡と言わずとして何と言う。
神様に感謝だ! 居るとすればだが。
「あのブタの化け物から救ってくれたのは君たちなんだね、助けてくれてありがとう」
「アレハ、オークトイウマモノデス」
ああ・・・ ゲームやファンタジー小説でよく出る代表格の怪物だな。
「ワタシハ、ラピス・ラズリア アナタノナマエハナンデスカ?」
「俺の名前は天神 竜矢と言います」
「アマーミリュヤ?」
「あ・ま・が・み りゅうーやです」
「アガーミ リュウーナ?」
いやいや さっきより悪くなってるじゃないか、この世界の言葉では難しいのか?
名前を全部、発音させるのが難しいのなら下の名前だけでいいか。
「りゅうーやでいいです」
「リュウーナ」
「いやいや違う、りゅーや」
「リューウ」
あ、俺が間違えた。 まぁいいかリュウで。ウンと頷くと少女も安心したように頷いた。
「ケンヲモッテイルオトコノヒトガ、バーツとイイマス。ソシテエルフゾクのリルリーラ」
ラピスは残りの二人を紹介してくれた。
うわー エルフがいるよ。やっぱりエルフなんだ。
立ち上がって挨拶しようと力を込めるがアバラが痛くて断念して、座ったままお辞儀をした。
そんな俺を見て、バーツという青年が何事かラピスと語っている。
「バーツが、アナタハドコカラキタノかキイテイマス、ドコカラキタノデスか?」
さてどう答えたものか、素直に異世界人だと名乗ったほうがいいんだろうか。
三人を見回し思案したがいい答えが思い浮かばない、助けてもらったんだしウソは良くないかな正直に言ったほうがいいんだろうか。
うん、正直に言おう。
という事で今日の出来事、目を覚ますと変な神殿らしき遺跡で目覚め、オークに襲われるところまで話した。
話し終わると三人は何やら難しい顔して話し込んでいる。
やっぱり、異世界から来たなんて言わないほうがよかったかな?
おお、なんかラピスが戦士のバーツとエルフのリルリーラに何やら熱弁を披露している。
そんな二人はラピスを困ったように見つめていたが、やがて分かった分かったと言うようなジェスチャーをして俺の方を見た。
やっぱり、俺の事で揉めていたのかな、俺が悪いわけではないが迷惑をかけているのは俺の方だからな。
「オマタセシマシタ、サンニンデハナシアイマシタ、ソレデチカクノマチにシバラクタイザイスルノデイッショニイキマショウ」
「ああ、それは助かります。出来ればこの世界の言葉や常識を教えてくれないかな、ずうずうしいお願いだけど」
「ハイ、イチゾクノオンハカナラズカエシマス。ソレトコレヲノンデクダサイ」
昔この少女の所に来た日本人はよっぽどいい事したんだな、ここまで恩を返そうと必死になるなんて。
差し出されたのは六角形の手の平サイズの小瓶、薄青い液体が入っている。
「これは?」
「ポーションデス、ケガをナオシテクレマス。タダトッテモオイシクナイデス」
ポーション、ゲームではよく出るアイテムだが不味いのか。マジマジと小瓶を眺めコルクの栓を開ける、臭いは
う~ん、生渇きの洗濯物の臭いがする。まぁ臭いは我慢できるが味はどうだろう。
もしかしたら、俺の世界とこの異世界とでは味覚は違うかもしれないしな。
「イッキニノンデクダサイ」
「うん、分かった」
目を瞑り一気に喉に流し込む。
ウゲ、激マズ 何これ苦い酸っぱい辛い! 鼻血が噴出しそうにマズイ!
涙目になりながら流し込むと、ラピスは皮袋の水筒を差し出してくれた。ありがたい!
「トリアエズキョウハネムッテクダサイ、アシタニハダイブヨクナルハズダカラ」
「うん、ありがとう」
横になって目を瞑る、はぁ~ いろいろあったな。今日の出来事を思い浮かべて回想しているといつの間にか眠りについていた。
後日、ポーションがメチャクチャ高価な物だということを知ったときは3人に一生頭が上がらないと思うのだった。
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天気は上々の晴れ、朝の清々しい風や木々の間から差し込んでくる光が辺りを照らし非常に空気が澄んでいる。
「なぁ、リーラ。あの少年、冒険者になれると思うか?」隣を歩くエルフのリルリーラは難しそうな顔で考え込む。
「すぐには無理じゃないかしら、見たところ体を鍛えているようには見えないし、一番の問題は言葉が通じないのが問題よね」
「そうだよな~、ラピスしか言葉を理解できないし、それにラピスが一族の恩があると気がまえているし」う~ん どうしたものだろうか。
「そんなに悩むことないんじゃないかしら、言葉はラピスが教えればいいし、剣術や弓は私たちがある程度教授すればいいんじゃない」
「まぁそれはそうなんだが、どのぐらいでものになるかな、この世界で生きていくためには生きるための技術が必要だけど何か持っているようには見えないし、異世界人だからこの世界の戸籍もないから、町で平穏に暮らすと言うのもちょっと無理があるだろ」
「そうね、一番いいのは元の世界に帰るのがいいのだけど、今の段階じゃ無理でしょ、だから冒険者として自立してくれないと困るわね。でも戸籍のない人なんてこの世界にいくらでも居るでしょ、なんとかなるわよ」
リルリーラは後ろを歩くラピスと少年をチラリと一瞥するとまた前を見て歩く。
黒髪に黒い瞳か、この辺の国じゃ見かけないからちょいと目立つだろうな。俺としてはこれからの出費に頭が痛いんだけど。
とりあえず町に着いてからゆっくり考えるか。町まであと2~3時間ぐらい歩けば着くだろうし。
それまでは朝日を浴びながら周囲を警戒だな。