異世界転移先でパーティ脱退させられたけれど、理由が妥当な件
「ジュン。悪いが……リーダー権限でお前をパーティから脱退させる」
苦々しい顔で、リーダーである剣士のカインに告げられた。
周りにいる重戦士のバリー、魔法使いのメルリー、ヒーラーのアリッサ、斥候のミリアリアも渋い顔をしている。
告げられたケンこと俺、山吹 純二郎はというと、やっぱりかと寂寥感と共に納得によるすっきりとした表情を浮かべていた。
だって、みんな10代後半なのに、俺だけ30だし。
ことの発端は約1年前に遡る。
IT業でシステムエンジニアとして働く俺は、出張先の仕事を終えて退館し、帰りの電車に乗るための駅へ向かっていたところ、突如森に放り出された。
田舎にある支店で作業をしていたこともあり、最初はぼーっとしている間に道を間違えて山に入ったのかと思ったぐらいだったが、周りの木は妙に太く、土の匂いがすごく濃い場所に全く覚えはなく、出張前に現地の情報をネットで仕入れていたが、類似する場所は思い出せなかった。
そんな森の中を恐る恐る推定来た道である後ろに向かって進んでいると、お約束の魔物と出会した。
幸いにも熊のような圧倒的な強さの魔物ではなかったが、中型犬ほどもあるトカゲだった。
トカゲって意外と早く走るんだと思えるぐらい勢いよく突っ込んでこられた俺は、即座に逃げに徹した。
慣れない森を革靴で走っているせいで徐々に間が詰まり、荷物を捨てるしかないが社外秘の資料がと場違いなことを考えていたら、丁度トカゲの素材を求めて森に入ってきたカインたちに出会った訳だ。
必死の形相で逃げる俺は、息も絶え絶えながら助けを求め、カインが素材は全部もらうと宣言しながら仲間と共にトカゲ……森林トカゲを倒してくれた。
倒すのに時間がかかっていたけれど、それだけ強敵だったらしく、戦闘終了後に丸腰でこんなところにいたことが原因で詰められた。
カインたち曰く、見たことがない服に鍛えてない佇まいで、近くの村から2日もかかる森の中に居たことが警戒の理由だった。
ひとまず仕事帰りに歩いていたらいつの間にかここにいたこと、カインたちが聞いたことのないニホンという国から来たということで、魔法か何かで隣国よりも遠いところから飛ばされたのだろうと言われた。
ここで魔法という言葉が出てきたことで異世界だと気づき、魔法が身近になかった田舎の出身と説明して色々教えてもらった。
俺という足手纏いを引き連れたせいで、2日あれば抜けられるはずの森を3日かけてしまい、野営道具も経験もない俺は心身ともに疲弊。
村に着いたら助かった安堵から気を失ってしまった。
目を覚ましたら全身筋肉痛で動けず、カイン達に呆れられたけれど、保護した責任もあってこれから先どうするか相談に乗ってくれた。
カイン達は魔力の強い生き物『魔物』の素材を集めたり、希少な花や実に草といった誰かが依頼に出した物を集めるハンターをしている。
この村には依頼として来ただけなので、狩りを済ませたから普段活動している町へと帰るらしく、今なら一緒に連れて行っても良いと言われ、お願いした。
道中体力や筋力の無さから呆れられたけれど、町に着いた時に買い取ってもらえる物を教えてもらいながら集め、なんとか数日過ごせるぐらいの資金を稼ぐことができた。
この時に計算が早いことや、物の管理が上手いということでパーティの雑用で良ければと勧誘されて今に至る。
効率良く依頼をこなすことで少し有名になった。
その間に魔法使いのメルリーとヒーラーのアリッサの2人から魔法を教わることで、俺も簡単な魔法を使えるようになり、これなら活躍できると意気込んだけれど、若い時から修練している2人には遠く及ばず、初級魔法程度までしか伸びなかった。
いわゆる、殺傷能力があまり高くない魔法ばかりだ。
それでも転移者ボーナスなのか、属性の偏りにとらわれず満遍なく使え、更に全属性の微精霊に懐かれて契約するに至った。
アリッサは光と水の下位精霊、メルリーは火と風と土の下位精霊と契約しているので、実力としては全然勝てない。
精霊は魔法を使う際に威力や精度を上げてくれるだけでなく、魔道具を作る時に補助をしてくれる。
しかも、長く精霊と過ごすことで微、小、下位、中位、上位、大と成長していくそうだ。
高名な回復魔法を使える神官や、1人で大軍と相対することができる大魔法使いは、漏れなく大精霊と契約しているらしい。
俺の場合は微精霊と契約したせいで、同じ属性で別の精霊とは契約できないから、こいつらを育てるしかないが。
そんな風に今までのことを思い返してみたが、追放される理由は……少しは思いつくが、いきなりすぎて頭が追いつかない。
まずは理由を聞くべきだろう。
「あー……一応、理由を聞いてもいいか?いや、まぁ、色々迷惑をかけているから、それ絡みだとは思っているんだが……」
俺の言葉に全員が視線を下に向けた。
そしてカインに目を向けてお前が言えと圧力をかけている。
こういうのはリーダーが言うべきだから、俺もカインに視線を合わせた。
「ジュンが色々考えて強くなろうとしているのはわかっているんだ。だけど、やっぱり足手纏いになっていて、これから先がキツイんだ。俺たちはまだまだ先に進みたいし、強い魔物とも戦いたい。ジュンを国に返したいという思いもあるけど、それは俺たちが強くなってから旅をするべきなんだ」
「国に帰るだけなら、ジュンさんが強くなるよりもお金を貯めて強いハンターを雇うのもありです」
「そうね。剣も槍も振れないから接近戦はできないし、魔法も身を守れるか怪しい程度だからハンターは向いてないわ」
カインの言葉にアリッサとメルリーが続いた。
2人は俺に魔法を教えてくれたから、重戦士のバリーや斥候のミリアリアよりも話しやすい。
バリーとミリアリアからは、それぞれの分野を教えてもらったけれど、才能なしと判定を受けている。
それでも少しは教えてもらったから、話せないわけではない。
友人未満で仕事仲間というぐらいだろう。
メルリーの言う通り、俺は剣も槍も使えない。
ついでに言うと盾で魔物を抑えることもできない。
せいぜい盾を構えて攻撃を受けるのと、棍棒で空いた部分を叩くぐらいだ。
刃を立てて押し切る?刃を相手の柔らかいところに突き刺す?相手が逃げないように抑える場所を考える?バリーに身をもって教えられたけれど、全部できなかった。
依頼の合間に何度も訓練したが、結局才能というかセンスがないようで身に付かなかった。
バリーいわく考えなくてもできるぐらい体に叩き込めば良いらしいけれど、俺は感覚よりも手順をしっかり確立してその通りに動きたい派だ。
理解してから動くタイプだから、しっかり手順化したい。
ミリアリアから教えられた斥候技術もダメだった。
気配を断つのも察知するのも俺には無理。
むしろ気配って何と聞いたぐらいだ。
もちろん物音がたてばそっちを向き、誰かが後ろを通ればわかるし、人が至近距離にいれば触れてなくても熱を感じる。
それを数m、時には10m以上離れた所の情報なんてわからない。
外で耳を澄ませても風の音や葉が揺れる音ばかりだった。
「ジュンは解体もできないから、雑用としてもちょっと足りないところがあるな」
「遠征のたびに翌日寝込むよねー。疲れが抜けないとか、足が棒だとか、背中がバキバキだとか言ってー。足が棒はともかく背中はカチコチじゃないのー?バキバキだったら砕けてるよねー。あはは」
バリーとミリアリアからもダメ出しを受けた。
解体はナイフを突き刺す感触が無理で、なんとか気合いで頑張っても溢れてくる血を見て吐く。
吐かずに耐えようとしたら、手が震えて品質が下がる。
ようやく血抜きぐらいならできるようになったけれど、捌いたり皮を剥がすのはまだ無理だ。
せめて生暖かくなければ死に切ってると考えていけるかもしれないが、そうなると肉は硬いし待っている時間に他の魔物が襲ってくるかもしれないため危ない。
結果、みんなが解体した後に身を清めるための水やお湯を用意する程度しかできない。
採取もきのこを取れば半分は毒だし、巨木を登ることができないから木の実やらは誰かが落としたものを拾うか、熟して落ちたものを集めるぐらい。
薬草や花の採取は丁寧だと誉められたことがある。
ほとんどのハンターが切り取っていく中、土ごと掘り返して根っこごと持ち帰ったのが良かったらしい。
時間がかかるから1日で取れる総量は減るけど、薬師から指名を受けられるほどだから、これは誇っていいだろう。
体がバキバキになるのは単純に体力と筋力不足。
この世界に来てようやく1年ほどだが、出っ張り始めていた腹が引っ込むぐらいに鍛えることはできたけれど、ずっと運動をしてきたみんなには遠く及ばない。
長時間歩いても疲れないペース配分、森の歩き方、休憩する時の姿勢や休み方まで、全然みんなと違う。
立つ時は肩幅より少し広めに足を広げると背中が伸びて負担が減るとか、寝る前のストレッチの必要性などを教えてもらった。
しかし、スマホに慣れた俺の体は簡単には矯正できず、今もまだ気を抜けば姿勢が悪くなる。
そんなだから2、3日の森歩きや、徒歩で数日かかる街から街への移動のたびに1日、場合によっては2日以上休息をもらうこともあった。
休日に筋トレやランニングをしようものなら、筋肉痛のおかわりをすることになるだけでさらに迷惑をかけてしまう。
ほどほどに鍛えるしかなかった。
今回も移動が終わったばかりだから、明日は休息をお願いするつもりだった。
足と背中が痛い。
「他には……そうだね。買い物が下手だね」
「確かにー。露店で買い物ならまだしも、市場はまだ厳しいよねー。少なくとも財布はガッチリ握ってもらわないとー」
口酸っぱく買い物する時は値切ることと言われていたけれど、日本にいて値切ったことは一度もないから交渉の仕方がわからない。
皆んなの買い物に着いて行った時に横から見ていテも、何をどう買えば店主がノってくれるかわからなかった。
カインたち曰く組み合わせや品質、あとどれくらいで日持ちするかを見極めた上で話さないといけないらしく、野菜は運ばれている間冷やされた物をスーパーで買う程度の俺には、ひん曲がったきゅうりっぽい物や削り出したようなごつごつした芋を品定めするのは無理だ。
そして、カインとミリアリアの言葉に、一つ前の街の市場で起きた問題を思い出した。
それは俺の個人用財布をスられたことだ。
抜けてるところが多いからと2つに分けていて、本命の財布は背負い鞄の奥にしまい込んでいたけれど、普段目にしない大きなハチミツの壺にテンションがあがってしまい、鞄の上の方に入れていたのが悪かった。
ダミーの財布は腰のベルトから下げるポーチの中に入れていて、投擲用の石を入れている。
それをスられたことにも気づいていなかったけれど、本命の財布がスられたことにも俺は気づかなかった。
しかし、ミリアリアが気づいてすぐに追いかけ、取り戻してくれた。
スッた子どもには拳によるお仕置きがあり、擦られた俺も同じように怒られた。
ミリアリア曰く、俺はスリに狙われていても警戒しないからカモに見えるそうで、どの市場でも狙われていたようだ。
「他にも食べ物にうるさいというか、潔癖すぎるきらいがありますね」
「遠征中の食事なんて温かい物が食べられたら上等なのよ。それを丁寧に皮を剥いて均等に切って、しっかり焼いたり煮込んだり、肉を休ませるって何?もう死んでるんだから休ませても何も起きないわよ」
「初見の物はまず食えるかどうか判断するのもな。魔物の肉は魔力が含まれていて強くなるには食べるべきだが、丁寧に処理をするこっちの身にもなってほしいものだ」
「でも、みんな美味しいって言ってくれるじゃないか」
「美味しいのはありがたいさ。だが、そのための準備に時間をかけていては、稼ぎに響くこともあるし、森の中でゆっくりスープを作るのは危ないんだよ」
アリッサとメルリーにバリーからは食事の準備に時間をかけすぎだと指摘された。
カインの言うこともわかるが、保存に特化したパンはスープがなければ硬過ぎて食べられない。
水を含ませるだけだとベチャベチャになるだけで、更に美味しく無くなる。
スープは絶対に譲れないんだ。
「1人で見張りができないのも問題だねー。2人組を3つ作れるのに、いつもジュンと組むカインに負担がかかるよ」
「それは……申し訳ない」
「いや、まぁ負担が無いとは言い切れないが、任せられないのも事実だから……」
頭を下げる俺に、カインの若干乾いた声が降ってきた。
正面や左右を警戒することはなんとかできるけれど、後ろにいたっては全くわからない。
気配がわからないのだから当然で、近づいてくる動物や魔物に気づくのは、いつもカインが先だった。
「野営で寝れないのも問題ですね。だから体力が回復しないんですよ」
「アリッサの言う通りなんだが、地面の冷たさや硬さになれなくて……。いくら皮を引いたりマントでくるまっても、気になるんだ……」
「やはり、野営に向いてませんよ」
アリッサはため息を吐いた。
野営でベッドがあるわけでもなく、厚手の服の上にマントで包んで寝ることになる。
地面は冷たいから、毛皮の敷物も持っていってるが、地面の硬さはほとんど変わらないし、枕もない。
いまだに野営で寝入るまで若干時間がかかる。
宿屋で寝る時は藁のベッドでもすぐ寝れるようになったけれど。
「戦闘力が低いのも問題だな。もっと鍛えねば」
「森歩きが下手すぎて獲物に気づかれることもあったよね」
「岩場を登るのに、足場を作ったこともあったわ。あれくらいの岩場なら手と足で登ってほしいものだけど」
「走るのもそこまで速くないですね。わたし達の中では、比較的軽装なはずなのですが」
「返す言葉がありません……」
戦いの才能はなく、舗装されていない道を歩くのは辛いし、どう歩けばいいかもわからない。
森の中で枝を踏むことは多々あり、背負っている荷物が草に当たって音を出すこともある。
岩場なんて荷物や武具を持ってよじ登ることはできず、アリッサに足場を作ってもらわなければ登れない。
そんな状態だから、走ってもそれほど速くはないし、靴底にゴムが使われているわけでもないから、すぐに足が痛くなる。
「魔法が使えるのに身体強化が下手だからそうなるのよ。わたしでも強化すれば岩場を登るのは簡単だわ」
「戦い方もずるいですよね。砂を使った目潰しに、口や鼻への水、耳に強風をぶつけたり、足場を陥没させたり」
「身体強化はできなくて申し訳ないけど、戦い方は工夫している方じゃないか?」
「勝てば良いのですが、これをしても負けることがあるのが問題なのです。暴れる魔物を狩る身にもなってください」
「申し訳ない」
身体強化をするには魔力量が足りず、仕方なしに棍棒のフルスイングになる。
それを当てるために相手の動きを封じようと工夫したが、うまくいかない時は暴れている魔物と戦うことになり危険度が増す。
かといって戦いに参加しなければ、何のためについて行っているのかわからなくなるため、難しいところだ。
「馬車を操るのがようやく形になってきましたが、馬に舐められているのは変わらずですし、一人で乗れないのも足並みを揃えられていません。急いで向かう時に難しくなるのです」
「犬と猫には好かれているよな。迷い犬や迷い猫探しは上手いが……」
「でも、鳥には舐められまくってるよねー。よくフンを落とされてるもん」
馬には縁がなかったから仕方がない。
これでも頑張っているし、バイクに乗っていたからまだマシな方だと思う。
馬とバイクは全然違うけれど、足で挟むところと風を直接受けるところは同じだ。
犬猫は昔から好きで、実家でも飼っていたので扱いには慣れている。
鳥はよくわかん。
「仮にパーティを抜けて、俺はどうすればいいんだ?」
「自分で考えなさいよ。と言いたいところだけど、計算が早いから商売系に進むべきよね」
「なんだかんだ言いましたが、料理は美味しいので屋台を始めるのはどうでしょうか?」
「色んな属性が使えるなら、魔石に魔法を込めて便利な魔道具を作るのもありじゃないかなー」
「何にせよジュンは計画を立てるのが上手いんだ。金を貯めて故郷に帰る算段をつけるべきだろう」
帰れるなら帰りたいが、帰れないと思っている。
いわゆる神隠し的なものだから、自分の力でどうこうすることはできそうにない。
「それで、ただ単にパーティを抜けてもらうのも悪いから、これを渡そう。屋台なら3ヶ月は開けるほどの軍資金だ。色々言ったが、ジュンには世話になったところもあるからね」
カインからお金の入った皮袋を渡された。
これを受け取ったらパーティ追放だが、意地を張って付いていけるほどの実力もない。
幸い、ここは海と鉱山、森も近くにある交易都市だから、商売を始めるのにはもってこいだ。
どうやらこれを考えてここに向かう依頼を受けたようだし、格好つけて受け取りを断っても、何かを始めるためにはお金がいる。
ありがたく受け取った。
「わかった。みんな、今までありがとう」
「色々言いましたが、ジュンの活躍を期待しています。屋台が出せたら顔を出しますね」
「もっと強い魔物が出る場所に向かわなければ一緒に行けたんだけどねー。このままだとジュン死んじゃうからー」
「これからはアンタを騙す奴も近づいてくるだろうから、慎重に行動しなさいよ」
「できるだけ早く、人を雇えるようになると良い。だが、金は任せるなよ。自分で管理しろ」
「あぁ。気をつけるよ。ありがとう」
もうスリにあっても取り返してくれるミリアリアはいないから、しっかり注意しないといけない。
そうしてパーティ最後の食事を終え、翌日宿屋の前であっさり別れた。
「さて、気落ちしてても仕方がないし、市場調査と屋台で何が出ているか確認しよう。魔道具の作成はメルリーから少し教わっているし、魔石も幾つかある。なんとかなるだろう」
こうして交易都市での再出発が始まった。
屋台で出したスープや焼き鳥、揚げ物がヒットしたり、痒いところに手が届く魔道具も順調に売れた。
忙しくなったら縁ができた孤児を雇って、やがて店を構えるに至る。
孤児の中の数人と結婚して子供が生まれ、精霊を継承して晩年を過ごすのは別の話だ。




