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姉はいつも夏に来る。

作者: 小雨川蛙
掲載日:2026/06/01

 

 私の姉はいつも夏になったらやってくる。


「あなたの娘も大きくなったねえ」


 私の娘を抱きしめながら姉が呟く。

 六月がすっかり夏として扱われるようになってからもう随分と経つ。

 まだ二歳になったばかりの娘が姉のひんやりとした体が心地よいのか笑い声を漏らしていた。


「旦那に似てすぐに大きくなると思うよ」

「そうね。あなたの旦那。背が高いもんねえ」

「来年の夏ごろには姉さんより背が高いかもよ?」

「それは流石に言い過ぎでしょ」


 けたけた笑う姉の背は小さい。

 私達姉妹は小柄だがそれでも私よりずっと小さい。


「もっと来ればいいのに。夏だけじゃなくて、春も秋も冬も」


 本心だ。

 私は本気でそう思う。

 だって、会いたいならもっともっと会うべきなんだ。


『奇跡はいつまで続くか分からない』


 初めて姉が戻ってきたとき、私より背の高かった姉は私の頭を撫でながら言ってくれた。

 こんな言葉。

 もう二十年近く前のことなのだから忘れてしまえばいいのに私は未だに意識してしまう。

 いや、心の中では今も恐れているのだろう。

 来年の夏はもう居ないのかもしれないって。

 戻ってこないのかもしれないって。


「夏以外に見る幽霊なんて滑稽でしょ」


 その滑稽さを求めているんだけれどな。

 そう思いながら。

 私は見つめる。


 十代前半で亡くなった姉の幽霊は今年の夏も私も日常に溶け込んでいた。

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