『狐の原文帳とヘビのプレスマン』
ある大津波のとき、旅人が、波にもまれている男を助けた。旅人が男にお礼を言われながら連れだって歩いていると、一匹のヘビが波にもまれていたので、旅人が助けてやると、ヘビはかま首を持ち上げて、何度も何度もおじぎをした。旅人が、男とヘビと連れだって歩いていると、いや、ヘビは歩いていなかったが、それはいいとして、今度は狐が波にもまれていたので、旅人が助けてやると、狐は、波にもまれて風邪でも引いたものか、せきをしながらおじぎをし、旅人と男とヘビと狐は連れだって歩くことになった。もう一度言うが、ヘビは歩いていなかった。大事なことではないが、もう一度言ってみた。
旅人と男とヘビと狐は、ある長者が病にかかっているといううわさを聞きつけて、長者のもとを訪れたところ、医者にも病の原因がよくわからず、旅の者でも誰でもいいから見てもらうように命じていたらしく、よくわからないうちに長者の寝床に通された。旅人が、狐つきではないかと冗談を言ったが、笑ったのは、狐だけだった。旅人は、医者ではないので、どうしようか考えていたところ、ヘビが突然長者の首に食いついた。これはまずいと思って、旅人が逃げようとすると、ヘビが片目をつぶって、大丈夫だという合図を送ってきたので、とりあえず待ってみたところ、長者は、目をぱちぱちしてからゆっくり立ち上がり、何事もなかったように飯を食べ始めた。多分、ツボを刺激したのだと思うが、ヘビは何とも言ってくれないので、正確なことはわからない。
長者が元気になったので、狐が原文帳に化け、ヘビをプレスマンに見立てて、遺言を書きとめましょう、と旅人が冗談を言うと、長者が大受けしたので、長者の家の者たちも、主人が全快したものと認めて大いに喜んだ。
波にもまれていた男だけが、何もできず、礼も言ってもらえなかったので、この旅人は医者ではない、長者が治ったのは偶然だ、とねたんでつぶやいたが、誰も聞いてくれなかった。
教訓:人をねたんでも何も始まらない。人助けができる人は、それだけで立派である。




