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『捨てられた男は、まだ終わっていないと思っている』

ーーー野村 海人視点ーーー


最初は、正直どうでもよかった。


あいつがいなくなった部屋は静かだったけど、まあそのうち戻ってくるだろ、くらいに思ってた。

今までだって、何度も喧嘩して、結局は俺のところに戻ってきた。


今回もそうだ。


……そう、思っていた。


一週間が過ぎた。


冷蔵庫の中身が減らない。

洗濯物が溜まる。

風呂に入る時間も、寝る時間も、全部ぐちゃぐちゃになる。


「あいつ、いつまで拗ねてんだよ」


独り言が増えた。


返事が返ってこないLINEを、何度も開いた。

既読がつかないだけで、心臓が変な音を立てる。


――なんでだ?


今まで、女なんて他にもいた。

なのに、あいつだけがいない部屋が、やたら広く感じる。


最初に焦ったのは、夢だ。

毎晩、あいつが出てくる。


何も言わず、俺を見て、失望した顔で背を向ける。

目が覚めると、胸が苦しい。


「……悪かったって」


誰に向けたかも分からない謝罪を、暗闇に吐いた。


そこで、気づいた。


俺は悪くない。


悪いのは、あいつが我慢しすぎたことだ。

ちゃんと言ってくれれば、直すつもりだった。

だからこれは、話し合えば戻る問題だ。

そう思わないと、頭がおかしくなりそうだった。


あいつの生活を、調べ始めた。

SNS。

職場。

帰り道。

交友関係。

知れば知るほど、腹が立った。


俺がこんなに苦しんでるのに、

あいつは普通に生きている。

知らない男と話して、笑っている。


……なんで?


「俺のものだろ」


声に出して言ってみると、少し落ち着いた。

そうだ。

あいつは俺のものだった。


今も、そうだ。


引っ越し先を見つけたとき、正直ほっとした。

逃げたんじゃない。

待ってる場所を変えただけだ。

ドアの前に立った瞬間、全身が震えた。


再会だ。


やっと、話せる。


でもあいつの顔を見た瞬間、分かった。



――まだ、分かってない。



俺がどれだけ壊れたか、何も理解してない。


「愛じゃない」


そう言われたとき、頭の中で何かが切れた。


愛じゃない?

じゃあこの痛みは何だ。

眠れない夜は?

胸を掻きむしりたくなる衝動は?


全部、あいつのせいだ。


ーーーーーーーーーー


そこから先の記憶は、ところどころ抜けている。

仕事を何日も休んだ。

スマホの中身は、あいつの写真で埋まった。

気づけば、あいつの名前をノートに何十回も書いていた。


「戻れば全部解決する」


その一文だけが、思考の中心にあった。

戻らない未来は、考えない。


考えられない。


ーーーーーーーーーー


警察から連絡が来たのは、ある朝だった。


「あなた、接近禁止命令が――」


知らない言葉だった。


接近?

禁止?


「俺が、何をしたって言うんですか」


本気で分からなかった。

あいつを想って、探して、待って、見守っていただけだ。

それの何が悪い?


電話を切ったあと、笑いが止まらなかった。


「はは……やっぱり、周りが邪魔してるだけじゃん」


あいつは、きっと本当は戻りたい。

でも、世間がそれを許さない。

だったら――



「二人きりになればいい」



口に出した瞬間、全てが繋がった気がした。


余計な人間も、ルールも、全部いらない。

あいつと俺だけの世界なら、間違いなんて起きない。

準備は簡単だった。


だって俺は、

あいつのことを、誰よりも知っているんだから。


最後に思ったことは、意外とシンプルだった。


俺はクズなんかじゃない。

あいつを手放せなかっただけだ。

それだけで、世界は俺を狂ってると言う。


「花」


誰もいない部屋で、あいつの名前を呼ぶ。


「もうすぐ、迎えに行くから」


あいつが嫌がる顔を想像して、胸が締め付けられる。

でも、それも一瞬だ。





だって――

逃げ場なんて、最初からなかったんだから。

主人公のお名前は花ちゃんでした〜^^

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