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神饌の戴冠者Ⅰ・Ⅱ  作者: 綴咎
第四章 ハイドロの殺人鬼
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4苦き終幕


 シモンとギャビンとの合流はさほど難しいものではなかった。

 というのも、待ち合わせ時間があったし、そして場所は時計台なのだから会えないという確率の方が少ないだろう。まぁ要するに、拍子抜けするほどすんなりと合流することができた。


 このことについて言及すれば「何を期待しているのだ」と言われるかもしれないな、とメアリーは思う。

 だがそう想像してしまうくらいにはメアリーはコネクターを強く警戒していた。


 警戒。

 期待とは違う言葉だ。おおよそ昨晩殺しきれなかったメアリーたちを狙うだろうと思っているからこその考えで、だからアスター宿場連盟の宿からここにくるまでいつ襲われても可笑しくないなと思っていた。

 だが結局はメアリーたちはこうして無事に時計台までやってきている。

 そしてそれはシモンやギャビンも同様、あまりにもすんなりと行ってしまったので逆に拍子抜けしたくらいだった。


「そういえばギャビンさんは杖とかペンとか使わないんですか?」


 ローランドがあまりにもいつも通りな姿。

 言い換えれば軽装な姿で何も持っていないギャビンを見てそういう。

 言われた本人はというと、最初は驚きに目を見開いてから、楽しそうに目を緩ませて徐にパチンと指を鳴らす。


「アタシはこれで魔術を行使できるの」


 少し誇ったようにいうギャビンの右手、要するに先ほど指を鳴らした方の手の先、そこに小さな竜巻が生まれているのを見て、思わずメアリーとアリオストロ、ローランドは「おおう」と唸った。

 メアリーは気になってローランドを小突きながら、


「どっちが強い?」


 と聞いた。

 もちろんそれはローランドと比べてという意味で、その意味を理解したローランドは「私よりもウンと強いです」と真面目な顔をしてそういう。


 それにメアリーはそういうのも一見してわかるのか、と思うと同時にそのロジックに対して興味を持った。

 やはり剣道や武道といった競技のように見てすぐにわかるような違いがあるのか、それは魔術師同士しかわからないものなのか、知識欲というモノに貪欲なメアリーは更に続ける。


「それどうやったらわかるの?」

「武器を媒介にせず、無詠唱で、かつ小さな動作で行使できるのは熟練の技です」

「はへー、魔術ってそういう感じなんだ」


 中身のない反応をするアリオストロに呆れながらもメアリーは現在進行形で渦巻く小規模の竜巻を見ながら「ほほう」と唸った。


「悠長にしている暇がどこにある。さっさとコネクターをとっ捕まえるぞ」


 本題である事柄を忘れたメアリーたちを前に呆れたようにシモンがそういった。

 今まで関心が向いていた魔術の話題から一気にメアリーたちの表情が引き締まる。「もっとお話ししててもアタシは良かったんだけどね」と自身を褒められて気分が良くなったギャビンがウインクをしながらそういった。


「馬鹿言っている場合じゃねぇ。自警団の奴らに見つかっても面倒だ。さっさと探しに行くぞ」


 シモンが呆れた顔でギャビンを見る。

 ギャビンなりのジョークであったがウケは良くなかったらしい。そんな様子の大人組を見ながらメアリーはローランドとアリオストロの方向に振り返って順路を決めようとした時だった。


「楽しそうなお話をしていますね」


 ちょっと混ぜてくれませんか?

 そう声が響いた瞬間、キンっ!という音と共にガキンっ!と鳴る音。

 更に次の瞬間メアリーの視界から輪郭が消えて、気がつけばギャビンに後方へと勢いよく下げられていた。混乱する頭をなんとか律し、メアリーは状況把握のために全体の風景を認識する。

 そこに映っていたのは同じく後方へと下げられ混乱するローランドと、パチンっと指先を弾かせて風を生むギャビン。それからコネクターと思わしき人物の短剣を器用に止めたアリオストロと、それを援護するように短剣に向かってストレートを入れたシモンの姿があった。


「コネクター!」


 思わずメアリーがその名を口にする。

 鎌鼬のように切り裂く不可視の風をサイドステップで避けたコネクターはすぐさま身を屈ませて、アリオストロの空いた腹に向かって短剣を振るう。

 右足で踏み込み、地を蹴る。

 よほど強く踏みしめたのか、その追撃は俊敏で尚且つアリオストロの防御姿勢を待たずに繰り出された。


 危ない、その言葉が脳裏によぎるよりも早く短剣が迫る。


 だがそれよりも早く反射の域で動いたシモンによって、アリオストロは背中からずっこける形になった。


「あ、痛!」


 どしんっという音を立ててアリオストロが起き上がる。

 膝裏を蹴られたと視認できた頃には、シモンが水の魔術を展開してコネクターの頬に拳をぶつけたのが見えた。アリオストロは数秒、いやコンマの数で行われたコネクターとシモンの行動をやっと理解したのか青ざめる。

 あそこでシモンに蹴られていなければどうなっていたか、それを瞬時に理解して固まりそうになったとき助走をつけて跳躍したメアリーが杖を振り上げる姿を見て、別の意味で硬直した。


 メアリーの杖がガラ空きとなったコネクターの頭上に向かって振り下ろされる。


 寸前のところで気がついたコネクターがそれを逸らそうと短剣を動かそうとするも、シモンが「よそ見している場合か!?」といって拳で穿つのを見て、コネクターは瞬時にシモンの方向を短剣で守る。そして空いた片手で、メアリーの杖を掴み、そのまま壁の方に放り投げた。


 メアリーの軽い体がそのまま壁にぶつかる。


 肺に溜まった空気が「カハっ」という音と共に吐き出されて四肢が脱力する。

 死んではいない。それを遠目で確認したギャビンは素早く隙のできたコネクターに指先を向けて打つ。小さな。けれど無視できないほどの威力を持った周囲の全てを呑み込む不可視の球体が襲う。それを見たコネクターは小さく「■■!」と叫ぶと、突如として焔の壁がギャビンとコネクターの間に生まれた。


 それがギャビンの風魔術を呑み込む。

 その概念ごと燃やし切った焔の壁が役目を終えると、バックステップで後方へと距離をとったコネクターの姿が見えた。


 シモンが視線を外さないまま、頬を切り裂いた跡に指を這わせて拭う。

 どちらも致命的なまでの傷を受けていないものの、複数の負傷跡が見えた。


 アリオストロが剣を持って震える手でコネクターに向ける。

 その後ろ姿を見て、メアリーは後方で呪文を唱えるローランドと隙もなくコネクターを睨むギャビンの方へと視線を向けてから「ゲホ、ごほ」と咳をした。

 それから痛む体を叱咤して、ふらりと立ち上がる。

 幸運なことに近場に落下していた杖をとり、シモンの空いた隣に杖を構えて立った。


「とりあえず、殺人未遂と暴行罪でテメェを処罰するつもりだが、異議異論はあるか?」


 シモンが構えを解かずにそういう。

 そうすればコネクターはしばらく驚いたようにあどけない表情を晒して目を見開き、それから自嘲するように笑った。


「逃れモノだから神殿に引き渡すの間違いでは?」

「いいや?俺にはそんなこと関係ねぇ、今までヒトを散々殺した罰だ、とっととお縄につけ」

「もしや俺の悪行を聞いてないのですか?面白いですね。全く笑えない」


 笑えないというくせに、コネクターの口角は上がっていた。

 だがなんというか、目が笑っていない。ただただ冷め切った瞳はシモンへと粛々と向けられる。

 それにシモンはにひりと笑って、それから「関係ない!」と啖呵を切るように宣言した。


「テメェが医術を行使した野郎だか、セウズ神の意向に反した野郎だろうが俺には関係ねぇ、言っただろ。最初からテメェは殺人未遂と暴行罪でしょっぴくってなぁ!」


 それに口角を上げていたコネクターの表情が一気に抜ける。

 寒々とした空気がヒリツクような熱を帯びて、瞬間的に空気が凍った。それにアリオストロは剣を構え直して、メアリーも警戒体制を深める。いつでも魔術を行使できるように詠唱を続けるローランドと、指先を向けたギャビンは次の瞬間、心臓が痛むような感覚に陥ることになる。


「して……どうしてお前が、お前みたいなのが今更出てくるんだよ!!!」


 それをどう受け止めればいいのかわからなかった。

 悲鳴じみた声。けれど研ぎ澄まされた剣のように磨かれた殺意と憎悪がコネクターを衝動的に動かす。そしてその全ての感情はシモンへと向けられており、振り下ろされた短剣に誰もが反応できなかった。

 シモンを除いて。

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