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神饌の戴冠者Ⅰ・Ⅱ  作者: 綴咎
第四章 ハイドロの殺人鬼
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6悲しき化け物


「思うに殺人鬼コネクターはソピア馬車運営を狙っているわけではないと思うんですよ」


 そうでなければこの間の襲撃の理由と合わない。

 ソピア馬車運営を狙っているのであれば、あそこにいる理由もわからない。わからない。わからないことばかりだ。だが仮定しよう。まず一つ仮定を作ってそれを詰めていけばいい。


 殺人鬼コネクターは誰かを憎む復讐者だ。

 これを仮定として置く。そうすればソピア馬車運営を殺した理由はソピア馬車運営を憎んでの行いだ。だが、ここにメアリーたちが襲われたという事実がある。ということはソピア馬車運営を憎んでいる訳ではない。ソピア馬車運営への間接的な嫌がらせだとしても、メアリーたちとの繋がりはジャックそれからネフレンだけだ。ジャックに関してはハイドロでの接触はない。そしてネフレンに関してはただソピア馬車運営を利用した利用客にしか見えていないはずだ。


 メアリーはそう口に出しながら虱潰しに事実を並べていく。


 だからソピア馬車運営を恨んでいるという線は薄い。

 ではなんでソピア馬車運営が狙われているのか、快楽殺人にしては目的が定まり過ぎている。そしてここで初めてエアリーたちが襲われた。ここには何か繋がりがあるはずだ。例えば行動、例えばもの、前者に関してはハイドロで行ったのは自警団によっただけ、それ以外なら路地裏に行ってバーに行っただけだ。後者に関しては魔術に関するものを持っている。だがそれだとアリオストロは狙われるはずがない。初撃からアリオストロは狙われていた。


「となると、自警団が関与している気がするんですけどそこらへんどう思いますかシモンさん」

「なんでテメェらが先にバーに来て、ギャビンと楽しく話しているのかはわからねーが、昨日の話忘れたわけじゃねーよな」


 薄暗い照明で照らされる室内。

 ギャビンがコップを拭く音だけが響く部屋で真剣そうにメアリーは口元で両手を組んで、それからカウンターに肘を乗っけて考察を披露していた。

 一旦は話を聞くためにシモンは黙っていたが、メアリーに促されたことで口を開く。

 怒りにもにた困惑が混ざった複雑な声色が、メアリーいや、アリオストロに向かっていた。


 アリオストロはすぐに自分が座っていた場所から立ち上がる。

 それから、下唇を噛み締めて頭を下げた。


 その様子にギョッとしたのは頭を下げられたシモンだった。彼はまさか謝れるとは到底思っていなかったからこそ、複雑な表情でアリオストロのつむじを観ることしかできなかった。

 だがその困惑もすぐに終わりを迎える。シモンは真剣な目つきに戻り、アリオストロを問いただすように「俺は昨日の意見を曲げる気はないぞ」と言った。メアリーはそれを傍観の目で見る。そして間に入ろうと昨夜したローランドもこの時には黙ってアリオストロの背中を見ていた。


「俺、やっぱりヒトが危険な目に遭うと知ってて無視できません。でも、それは別に正義感とかじゃなくって、なんというか、その、自分のためのことなんです」

「ほう自分のことなぁ」


 アリオストロはしどろもどろにそい言いながら、頑張って己の心の中を言語化するために丁重に言葉を選んでいく。


「見捨てたら、自分が悪者になっちゃう気がするんです。知ってて無視したんだろう、って責められるんじゃないかって」

「誰に責められるんだ?」

「それは……わかりません。わからないけれど、咎められる気がするんです」


 アリオストロの言葉にメアリーは、気が狂ってるな。

 そう思った。普通痛ましい事件があったとき、己でなくて良かったと思うのが普通だろう。それを責められる。助けなかったことを怒られると思っていることが根本的なおかしなところだ。

 アリオストロにヒトを助けられる技量はない。余裕だって、力だってない。それなのにそう思うことはとても重症だ。それをメアリーが気がつくのだから、シモンだって気がついているのだろう。そう思いながら、差し出されたオレンジジュースにメアリーは口をつけた。


「俺は、咎められない自分になりたい。許される自分でいたい。だから昨日もそう動いた。そして多分これからもそう動いてしまうと思います」

「それを俺に言ってどうするつもりだ」


 シモンがタバコに火をつけた。

 それを口元に持っていて煙を吸って吐き出す。


「実力もないのに首を突っ込む自殺願望者なんて願い下げだ」

「それは、それは違います」

「何が違うっていうんだ?」


 アリオストロはそこで呼吸を整えるように息を吸って吐く。


「自殺願望者ではありません。もう、他責任にもするつもりはない。メアリーとローランドに頼る前提で考えない」

「考えを改めたって、強くなければ意味はないぞ」

「でも、強さがないならパーティーに要らないとは限りません」


 その言葉にシモンが目を見開いた。

 そんな指紋に気が付かず、アリオストロは続ける。


「強さが全部じゃない。俺にできないことはメアリーとローランドのどちらかができる。でも俺にできることはメアリーとローランドにはできない。だから俺は俺の、俺のできることを見つけて、それを伸ばす。伸ばして役にたつ」

「その秀でたものが戦闘に使えなくても、同じことが言えるか?」

「戦闘で足を引っ張るのは、苦しいです。でも、できることはあるはず、今までもそうしてきたし、これからだってそうする。ただ、俺はシモンさんに今までみたいに自己犠牲を前提に、他人の力を当てにして動く俺じゃないんだって、聞いて欲しかったんです」


 沈黙が広がる。

 ギャビンさんも拭いていたコップを置いて、アリオストロの姿を見た。

 一方でメアリーはというと、ちょっとだけ感激していた。ヒトの成長とはこんなに早いものなのか、そんなどうでもいいことを思いつつ、メアリーはアリオストロなりに考えてきたことを良いと感じていた。


 散々メアリーは王には武力は必要ないと思っていた。

 それは今でも変わらない考えで、これからも曲げるつもりはない。だから、アリオストロが導き出した答えはメアリーにとって模範的な回答であった。それがシモンにとってはどう捉えられるかはさておき。


「昨晩のようにどうしても戦闘が避けられなかったらどうする」

「じ、自分の命を優先的に、なんとかします」

「自分よりも才能があるやつを前にして嫉妬心に塗れたらどうする」

「な、仲間に相談してなんとかします」

「お前、全部なんとかします、じゃねぇーか」


 シモンはそう言った後、ぐしゃりとアリオストロの頭を乱暴に撫でた。


「依頼の件はこのままにする」

「あら、昨日は取りやめるって言っていたのに、気が早いわね」

「ガキの成長途中でほっぽりだす大人がいるのかよ」


 そう言ってシモンはカウンターの定席に座った。

 それから横目でメアリーを見て、


「さっきの話の続きだ。お前の考察を聞かせろ」


 そう言った。

 それにメアリーは一旦タンマの姿勢をとる。それから謝った状態で固まるアリオストロの肩を叩く。それからローランドの髪もついでに撫でて「ここからだぞ」と声をかけた。


 また泣きそうになるアリオストロをカウンター席、メアリーとローランドの間に座らせそれからシモンを見る。

 それから苦笑いを浮かべて「単なる小娘の想像ですよ」そう口にした。それから静かにあの考察の続きを述べ始めた。それはただの空想。それはただの考察。それだけなのだが、正直なところ想像して苦に思ったからこうしてメアリーはシモンに意見を聞くことにしたのだ。


「コネクターの目的は多分ですが、報復です。自警団の誰かに対する、お前に関わる全てを殺すという宣言の可能性があります」 

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