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神饌の戴冠者Ⅰ・Ⅱ  作者: 綴咎
第四章 ハイドロの殺人鬼
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4悲しき化け物


 翌朝目覚めた時が大変だった。

 朱色を纏わせて瞼を晴らすように起きてきたアリオストロとローランドにメアリーは渾身の力で笑い転げた。

 どいつもこいつも揃って酷い顔。これを笑わずにどうする。

 朝日が窓から差す。

 暖かなひだまりがメアリーたちを照らす中、バタバタと足を動かして笑うメアリーの態度は間違いなくアリオストロとローランドからしたら泣きっ面に蜂。一通り笑い終わったメアリーは、涙が溜まる目尻を指の腹で撫でてそれから、楽しそうな声で「これからどうする?」と昨夜ローランドに向けて言った言葉をアリオストロに向けた。


「出来たら、シモンさんに会いたい」

「あんなにボロクソ言われたのに?」

「……それはそうだったけど、考えを改めるきっかけになったし……それに俺は依頼を続けたい」


 そう語るアリオストロにメアリーは床から這い上がって「私も同じ」と口にする。

 それから躊躇いがちに、けれど真剣な表情でローランドも「私もです」と言った。


 まぁ、チームとしての目的は決まった。

 だが、まずはシモンとの接触を計らなければならないという問題が出てくる。

 可能性としては自警団。もしくはあの違法バーだろう。


「ちなみにギャビンさんのバーの場所って覚えてたりする?」

「俺は覚えてない。というか、あの時は必死すぎて覚える暇なかった」

「私も同意だな」

「私は覚えてますよ」


 さてこれからどうしようか、そう思ったときローランドが平然とそういう。

 それがあまりにも自然的に言われた言葉だったから、メアリーとアリオストロは固まることしかできなかった。だが、言葉を呑み込んだと二人は一斉に立ち上がってローランドを見る。


「マジか??マジか!?」

「すごいな、いや本当に」

「ふふん、なんと言っても空間の戴冠者ですからね!空間把握能力はとってもあるんです!」


 昨日の自信の無さが嘘のようにローランドは胸を張っていう。

 というか〇〇の戴冠者って、その前者のものが得意とかそんな感じなのか、なんてアリオストロは感激しながら思考する。だがメアリーが記憶力がいいとはちょっと思い得なかった。

 それを言うのは少しだけ憚れたので黙っていたのだが、それは英断だった。もし口にしていたら、間違えなくアリオストロの命は無かっただろう。


「なら、バーに行くか」

「その前にシャワー浴びてきて臭い」

「最低」


 アリオストロがメアリーをひどいものを見るような目で見る。

 それすら気にした様子もなさそうにメアリーは鼻を摘んでアリオストロを見た。


「だけどその前にローランド……先に入ってきな。私は昨日もう浴びたから」

「あ、いいんですか?」

「レディーファーストだよ」

「れでぃ……?」

「ああ、いいから入ってきて」


 メアリーの言葉になんだか納得がいってない様子のローランドがシャワー室に入る。

 それを見送った後、アリオストロが徐に「そういえば俺が寝た後何かあったのか?」と聞いた。

 それにメアリーは答えるか渋った。正直なところ、ローランドは言われることを拒絶するかもしれない。泣いたことなんて好きな男に聞かれたくないだろうし、それにそもそも誰もが自分の弱さを伝言ゲームのように伝えられるのは嫌だろう。

 そう結論付けてメアリーはアリオストロに、


「そういうのは聞くなよ非モテ」

「なんのことかさっぱり理解できないけど貶されてるのはわかるぞ」


 これだからというように肩を竦めれば、アリオストロは額に青筋を浮かべながらそういった。


「あんたが聞くようなことじゃないことは確か」

「そうなのか」

「お、あっさり引くね」

「誰にも……聞かれたくないことくらいあるだろう」


 アリオストロのその言葉にメアリーは目を瞬かせる。

 それからニヤッと笑ってその背中をバシバシと叩きながら「あんたは良い男だよ」とさらっと褒めた。


「それでこれからの話なんだけど」

「ちょっと待って、褒めてから急に真剣なるな。そのスピードに俺はついていけない」

「うるさい黙ってついてこい」


 メアリーの言葉にアリオストロは片手で頭を押さえる。

 それから準備ができたのか「昨日の、……シモンさんとの話し合いのことだよな」と自分から話を振った。

 それにメアリーは頷くことで肯定する。


「多分同じことを言われるよ」

「わかってる」


 アリオストロはメアリーの言葉に顔を伏せる。

 そんな様子のアリオストロにメアリーは静かに「答えは決まったかい?」と口にした。


「正直納得してもらえるかわからないけど」

「別に無駄に納得してもらうために動かなくっていいんじゃないか?」

「どういう意味だよそれ」

「あの話を聞いて、あんたが思ったことを言えばいい。納得とか納得じゃないとかじゃなくって、純粋に思ったことを、自分の考えにどう影響したかってことを」


 そう言えば、アリオストロは目から鱗というように見開いた。

 それから戸惑ったように「それでいいのかな」と口にする。メアリー的にはむしろそれが一番だと思っていたので、ベッドに腰を下ろしてから足を組んでどうしようもないものを見るようにアリオストロを見た。


「あれを理不尽な怒りだと思った?」

「そんなことはない」

「じゃあ、的外れで自己中心的な八つ当たりだと思った?」

「全然」


 メアリーの言葉一つ一つにアリオストロは否定を入れる。

 それからベッドに座ってアリオストロは手を組んで、太ももに腕を置いた。


「むしろ、俺のために怒ってくれているんだって思った」

「間違いない」

「だからしんどかった。そんなことしてくれるヒトなんていなかったから」


 アリオストロは昨日のことを思い出す。

 ひとりのヒトとして尊重されたことを、その中で生きることに対してどう向き合うべきか教えてくれたシモンのことを、最初は怒鳴り声が怖いヒトでしかなかった。けれど、寝て起きて、それで思返してみればシモンはずっとアリオストロを一つの命として扱っていてくれたことを理解できた。


 命に貴賎はないと、ただそう言ってくれていただけだと知った。


 依頼を続けたいと思ったのは今でも死ぬだろうヒトを助けたいという考えがあるからだ。

 でも今はその中に自分が役に立てるヒトであることを証明したい。何かを成し遂げれる存在でありたいという自己中心的な考えが入っている。

 それは良くないことだと思うけれど、でもこれがアリオストロの生きるということだ。

 アリオストロが今を生きることに向き合っていると証明する方法だと自分の中で答えを出したのだ。


「俺さ、うまく言葉にできるかわからなくてさ」

「誰もがいつでもうまい言葉で話せると思うなよ。それでいいんだよ。それがわからないほどシモンさんは馬鹿でもなければ子どもでもない」

「頑張るよ、俺、頑張るから」


 アリオストロが両手を握りしめてそういった。

 メアリーはその姿を見て、アリオストロが見てなことをいいことに優しく微笑んだ。


「シャワー浴びてきました!」

「よし、行ってこいアリオストロ」

「わかった、早めに出る」


 交代するようにアリオストロとローランドがシャワー室を出入りする。

 それを見送ってホカホカと湯気を立てるローランドが「何か、お話でもしてたのですか?」と聞いてきた。それにメアリーは一度キョトンとする。それからちょっとだけ面白くなって「ぷ」と笑った。


「なんで笑うんですか?!」

「いや、似たモノ同士だなと思ってね」

「似たモノ同士?」

「そう」


 首を傾げるローランドにメアリーはベッドから立ち上がって「髪を拭くの手伝うよ」と口にした。

 それから不思議そうに小首を傾げるローランドは西洋椅子に座る。


「まぁ、知らなくてもいい話だからね。気にしないでくれ」

「?わかりました」


 アリオストロよりもよっぽど聞き分けのいいローランドの言葉を聞いて、メアリーはサラサラなローランドの髪を丁重にタオルで優しく拭き始めた。

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