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神饌の戴冠者Ⅰ・Ⅱ  作者: 綴咎
第四章 ハイドロの殺人鬼
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2悲しき化け物


 現在場所は移動してアスター宿場連盟のトリプルルームに戻っていた。

 メアリー、アリオストロ、ローランドついでにシモンが部屋に上がっており、前者三名に関しては椅子に座るシモンの前で正座をさせられていた。

 絨毯が引かれている場所ならまだしも、座らされているのは木の床直であった。既にアリオストロが根を上げて悲鳴を上げており、ローランドは痺れたのか顔を変形させている。

 耐えているのはメアリーのみ、そのメアリーさえもちょっとだけ限界を感じていた。


「それで、テメェらはどうしてあんな場所に?」

「私は止めました……だけどアリオストロくんがどうしてもって」

「いや、そうだけどそうじゃない!!」


 最後はお前だってやる気満々だっただろう。

 そういうアリオストロにメアリーは「余計なことを言いやがって」と舌をうつ。明らかに怯えた様を見せるアリオストロに対してシモンは眉を顰めてからメアリーを厳しい目で見た。


「と、言ってやがるが?」

「まぁ、概ね間違いないですけど、間違えなく発端はアリオストロですよ。ねぇ、ローランド」

「え、あ、はい!」


 そう正直に言えば「裏切り者!!」と悲鳴が上がる。

 裏切り者とは失礼な、裏切ってなどいない、ただ純粋に起きた出来事を陳列しているだけなのだから、そう言われる筋合いはないとメアリーはうんうんと頷きながら思考する。

 そんな反省も後悔も全く見せない三名にシモンは吸っていたタバコを口元から離して、ため息を深く吐いた。


「俺が間に合ったからいいものの、あの後どうするつもりだった」


 ガシガシと頭を掻きながらシモンはこのチームの要である……だろうアリオストロを見た。

 その目は真剣そのものでまるで雪豹のように睨む姿はアリオストロを簡単に硬直させる。そんな姿に堪らずローランドが「初めからコネクターと接触するとは思いもしなかったんです!」と声を上げた。


「相手はソピア馬車運営を狙っていたし、そもそもできることと言っても現場検証くらいだなって思ってて……」


 ガッツリこっちは助けに行こうとしていたけど。

 そんな戯れは流石に口に出さないでおいた。メアリーは空気が読める女の子だった。さて、そんな空気の中ローランドの言葉に納得がいっていないのか、シモンはタバコを口にする。それから深く吸い込んで、煙を短く吐き出した。


「女に守られて、テメェはダンマリか?」


 ギロ、というようにシモンの目がアリオストロを追求した。

 何か言いたげなローランドを置いて、アリオストロが顔を伏せる。ちょっとだけこの空気はアリオストロには荷が重いだろう。それを悟ったメアリーが口を挟もうと唇を動かしたとき、掠れたアリオストロの声がやけに大きく部屋に響いた。


「見捨てられなかったんだ。どこかで誰かが死ぬって、それって見捨てられないだろう」


 アリオストロの言葉にシモン、それからメアリーが僅かに目を見開く。


「それで仲間が危険に晒されてもいいっていうのか?」

「違う!二人は強い!!」


 アリオストロは噛み付くようにそういう。

 どこかその姿は見ていられないほど小さく丸まっており、言葉の割に随分と自信がなさげであった。


「俺よりもずっと強い。だから大丈夫だって思って」

「それで自分を守らせようってか?」


 言葉の揚げ足取りのようにシモンがそういう。

 口を挟もうとしたローランドにメアリーは手で制して成り行きを見守った。


 正直なところ、シモンの言い分は大人として間違っていない。

 そしてアリオストロの思いもまた正しいものだ。

 だからきっとお互いが折れることはないだろうとメアリーは思っている。こういう場合は理解し合えなくとも納得するまでやらしておく、それに限るのだ。


「違う、二人ならきっと救えるって思ったんだ。俺は俺のことを考えてなかった……ただ、そこに助けれる人がいるなら、それを救える強さを持っている人が身近にいるなら、救いたいって思って」

「随分と他責で願望的だな。テメェは自分が弱いというならな、足を引っ張るかもしれないと考えれなかったのか」

「考えたさ、考えたけど、それよりも大切なものがあるだろう」


 そして何よりこの考え方。

 どうにも他人を優先しすぎる考え方。それを今後直すには指摘してくれるヒトが必要だ。こうして真っ向にぶつかって、それでいてローランドやメアリー自身を介入させないでいてくれるヒト。


 どうしてもローランドはアリオストロのそういう仕草を叱れない。

 きっと叱ってもメアリーがなぁなぁにしてしまうだろうし、そのまた逆でメアリーが叱ってもローランドが間に入ってしまう。


 それはいいことだ。

 他人を理解して、庇って、それでいて成長できるのなら、それに越したことはないとメアリーは思っている。

 だが、それだけではヒトは成長できないのだ。

 失敗して叱られて、ミスしてそのミスを受け入れる。


 その積み重ねが成功を呼ぶ。

 成長に導いてくれる。


 同じ轍を踏まないように努力ができる。


 だからこそこの時間は必要なのだ。

 正しい心の元軽率な行動をしたアリオストロとそれを止めなかったローランドとメアリーへの戒めとしても。


 メアリーもメアリーで反省していたのである。

 最初から殺人鬼コネクターに会えると思っていなかったし、結局無駄足になって明日の朝日を拝むことになるだろうと思っていた。だが現実は何百分の一を引いてコネクターと接触してしまったし、何より戦闘が始まってしまった。

 それにより今日この日だけ被害者がゼロになったとしても、チームを危険から守れなかったことは割とメンタルにきている。


 合理的に生きてきたからこそ、結果的に考えなしとなってしまった己が許せないという感情もあった。


「それより大切なものなぁ……自分の命よりも重いもんがあるのか?」

「それはソピアのヒトタチで……」

「……おい、こいつはいつもこうなのか?」

「あ、はい。手を焼いてます」


 メアリーが軽くそういうと、シモンは考えるようにタバコを吸った。


「テメェはアレだ足手纏いだ」

「そんなの知って!!」

「強え、弱えの話じゃねぇ、戦闘において、自分の命を軽視する奴ほど足手纏いになる奴はいない」


 言えているな。

 メアリーは頭を伏せながら、正論を叩き込まれたアリオストロを思う。


「ああわかるぜ?今日死ぬかもしれねぇ奴がいるのなら助けたい。それをできる強さを持っている仲間がいる。そこまでは納得できる。だがなぁ、自分の命を計率に扱って死地に突っ込むのはバカだ、そんなのなんの役にも立たねぇ野郎だ」


 ふぅーとシモンが空中に向けて煙を吐く。


「お前が力不足を知ってても言い出しっぺだから覚悟を決めた……なんて答えてたら俺もここまで怒らねぇよ」


 そしてシモンはアリオストロを見る。

 その両目で見て、いや、睨んだ。


「馬鹿だが根性があるって言ってやったかもしれねぇーがな、死ぬこと覚悟して戦う奴がどこにいるっていうんだ」


 それからトドメを刺すように声を荒げた。


「テメェが死んでも世界はなんも変わらねーんだよ。ただただ書類に一と書かれるだけ、悲しまれて偲ばれるのは一瞬だ。何にも変わらない、何にも変えられない、それでテメェは納得できるのか、今日死ぬやつがただ入れ替わった事実を前に胸を張れるのか!?」


 アリオストロは顔を背けた。

 下唇を噛み締めて、それから静かに涙を零す。ぼろぼろと溢れる涙が床に小さな水たまりを作った。


「お前がそれでいいなら別に言及することはねぇ、だがな、そんなちっぽけな命に巻き込まれる嬢ちゃんたちの気持ちを考えろ」


 そう言ってシモンは立ち上がった。

 ギシッと床が悲鳴をあげる。扉まで歩いて行ったシモンは最後に「邪魔したな」と言って帰って行った。

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