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神饌の戴冠者Ⅰ・Ⅱ  作者: 綴咎
第四章 ハイドロの殺人鬼
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4神への疑心


 そうは言っても、ご都合良く騒動が起きているという訳ではないためメアリーたちはアスター宿場連盟を出てから悩みに悩んだ。

 これからどこに行くべきか、シモンとの合流は望まれないむしろ避けるべきなことである。そこを踏まえて今から行く場所となるともはやソピア馬車運営しかない。


 被害者もそこから出ているのだ。

 ならばソピア馬車運営が使っているルートやら襲われた場所など聞くのが早いだろう。というかそもそもあの場で聞くべきだったな、メアリーは己の失態に苛立ちを抱える。

 あれだけ厚みのある資料があるのだ。事件の起きた場所など書いてあっただろう。

 今すぐ過去に戻ってあの資料を見たい。本が禁止される世界であれを持っておくリスクを考えるよりも情報がないまま放逐されるリスクを考えればよかった。


 まぁそんなことを思っていても過去には戻れるはずもなく、メアリーは項垂れたまま「あー」と声を出した。


「取り敢えず、遠かろうと知らん。ソピア馬車運営に行くぞ」

「マジか?」

「確かハイドロの領地の外れと言ってませんでしたか?」

「行く頃には朝になっちまうよ」


 ブーブー文句を言うアリオストロを肘鉄で黙らせる。

 メアリーは痛みに悶えるアリオストロを無視してからローランドに「目的がなく彷徨うよりはマシだろう?」と言った。


 別にソピア馬車運営につかなくてもいい。

 頃合いを見て戻ればいいことだし、その間に殺人鬼コネクターと接触及び情報収集ができれば御の字。その程度で考えていたメアリーにローランドは「確かに」と同意した。


「ソピア馬車運営が使うとしたら乗ってきたキャビンを引きながらだろう。それなら大通りを通ってソピア馬車運営に迎えばいい」

「そうですね。細い路地ではお馬さんも通れないと思いますし……」


 そうそこだ。

 そう考えればこの捜索も無計画にはならない。むしろ現在の状態で取れる行動の中で一番マシだろう。

 訳がわからなそうなアリオストロを置いて、ローランドとメアリーは話しこむ。


「できたら途中で情報集めたいな。例えば前回の事件現場とか」


 メアリーが複雑そうにそういうとローランドが軽く手を挙げた。

 一体なんだろう?そう思いながら「どうぞ」とメアリーがいうとローランドはちょっとだけ誇らしいように笑顔を浮かべてとんでもない発言をした。


「ギャビンさんに渡された書類でしたらもう全て覚えていますよ」


 メアリーが口をかパッと開ける。

 それからアリオストロも驚いたように「あれを?」と零した。


「はい!速読というのでしょう、そういうのが昔から得意で……」

「そんな能力聞いてないけど!?」


 メアリーの虚しいツッコミが空中に溶ける。

 突然の大きな声に驚いたのか、一瞬肩を跳ねさせると「い、言ってませんので……」と事もなさげにそう宣う。


 ローランドのそんな姿を見て、メアリーは一旦口を塞いだ。

 それからスンッと表情をなくす。


 唐突にそんな感情の出力をしたメアリーに対して、ローランドは慌てて「すみません!先に一途けばよかったですよね!?」と口にするがそんなこと今のメアリーにとっては関係なかった。


 速読と言った。

 ローランドは確かにそういった。鶯鳴の記憶に間違えがなければ速読とは所謂文章を早く読む技術。

 それに疑問が浮かぶ。どういうといわれれば、本がない世界でその能力を手に入れられること果たしてできるのであろうか、という疑問だ。

 

 速読はトレーニングによって手にしれられる技術として有名であった。


 大量の本をイメージ化して読むことで得られる才能ではなく努力で手にするもの。いやそもそも、本がない世界で「速読」なんて言葉が生まれるのだろうか、ローランドのいた環境は本に囲まれていたか、書類に囲まれていたとでもいのだろうか。

 後者は正直想像し難い。前者の方がむしろ想像に難くない。

 だがこの国は本及び書物を禁じているのであろう。


 なんだかローランドを知って行くたびに謎が増える。

 メアリーは慌てた様子で手を動かすローランドを見ながらそうこことのうちで呟いた。


 気になりはする。むしろ興味が湧く。


 だが、今までと当然に聞かなかったことにした。

 もしかしてスキロスの死を受け入れる前のメアリーであれば聞いたかもしれないが、わざわざ仲間の心の柔らかいところを抉ってまで知ろうとはどうしてもできなかったのである。


 代わりにというようにメアリーは先ほどの考えを廃して思考を切り替える。


「前回の事件現場はわかる?」


 まずは調査だ。

 そのためだけにメアリーは悩むように腕を組んでからローランドにそういった。

 そうすればローランドも安心したように安堵のため息を吐いてから、キリッと表情を変える。


「時計台です。時計台の前で殺されているのが見られたそうです」


 出された回答にメアリーはわずかに眉間に皺を寄せた。

 近い。アスター宿場連盟とも、現在メアリーたちが位置する場所とも、どちらも近かった。


 大通りで殺したのであろうか。

 メアリーは思考する。だがすぐにその考えは廃される。大通りで殺したのであればそれは圧倒的なバカだろう。これだけ開けた場所で殺しなど自分を追ってくださいというようなもの、自警団もそれなりに巡回やら何やら増やしていると思うし、加えてシモンが躍起になっても捕まえられない。外部に応援を求めるほどの相手だ。そんな堂々とヒト殺しなんて単純な相手ならまだしも現在まで捕まってない相手がするとは思えない。


 であるならば死体を移動させた?


 そちらの方がまだ頷ける。目的は煽り……ではないな。間違えなく予言と呼ばれるものを大衆の目に向けるための行為だろう。目立ちたいのか?予言を広めるということに関してはそれに間違いはないだろう。だが些かリスクが高すぎる。時計台の近くにある必要はない。それこそそこらの大通りでも問題ないだろう。


 時計台でないと意味をなさない?


 より多くの注目を得る。その先に何があるのだろうか。

 予言はダリアたちの組織と関係あるのはわかるが、広めるだけであれば先ほどの考えた通り時計台である必要はない。


 個人的な目的がある?


 簒奪者ウェヌスタの目論見以外に殺人鬼コネクターが持つ何か別の目的。

 連続通り魔にしては狙われているのはソピア馬車運営のみ。計画的な犯行。予言の告知。


 誰かへの復讐?


 そうなれば時計台にわざわざ死体を作ったのも理解できる。

 誰か一人もしくはソピアへの復讐行為であれば、その殺人は「次はお前だぞ」という意味になり得るのではないか。


「ねぇ、もしも誰かに殺意を持って復讐するなら、あんたらならどうする?」

「そりゃあ、こうゴウって建物ごと吹き飛ばしますね」

「いや、まず居場所を探すだろう」


 ローランドの意見は論外。

 だがアリオスロトの答えは、至極簡単であって抜けたピースの一部でもあった。


 探す。探している。

 殺人鬼コネクターは誰かを探している。それはソピアに連なるもので……そこで思いついたのはジャックの顔。

 だが、ジャックが決定的な復讐心を誰かに植え付ける行動をするかと言われるとそうではないと言い切れる。あれはそう言った類いを避けるのが上手い。ならば誰か、ソピアのヒトビトが亡くなって困るのは……。


「なぁもしかして、殺人鬼コネクターって復讐者なのか?」

「え」

「その可能性がある。確証はないけどね」


 アリオストロがそう聞けば、メアリーは思考を途切らせないまま至極簡単に答えてみせた。

 そしてそれに驚いたのはローランドである。ローランドは「物騒ですね」と的外れな言葉を返してアリオストロに「殺人がそもそも物騒だけどな」と言い負かされていた。


「ちょっと現場を見たい。ローランド案内頼めるか?」

「あ、はい!」


 思考していても仕方がない。

 メアリーはそう思って、ローランドの記憶を頼りに夜のハイドロを歩いた。

 

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