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神饌の戴冠者Ⅰ・Ⅱ  作者: 綴咎
第四章 ハイドロの殺人鬼
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3神への疑心


 青白い太陽の光が地面を照らして影を落とす。

 次第に地平線へと消えた青白い太陽は、代わりというように月を生み落として星の裏側に帰っていった。

 時刻は深夜。

 月の光が天上を照らす最中。メアリーたちは眠ることもできずにアスター宿場連盟から用意されたトリプルルームで各々のベッドの上で寝ようと努力したり、ゴロゴロと体を動かしたり、ベッドサイドに置かれた明かりをつけたり消したりと落ち着きのない仕草で今宵が明けるのを今か今かと待っていた。


「今この瞬間にも殺人鬼コネクターは動いているんですよね」

 

 ゴロゴロと体を動かしていたローランドが、ぴたりと動きを止めてそういった。

 寝ようと努力するもアリオストロの電気攻撃のせいで意識を手放せないでいられるメアリーが「そうだね」と適当に返す。あの後、アスター宿場連盟まで送られたメアリーたち一行は抵抗する暇もなく宿に押し込まれた。

 子どもは寝るものだ。

 そう言われて仕舞えばどうすることもできない。

 今この瞬間にも犠牲者が出ているにもかかわらず、メアリーたちは何もできない。何もできることはなかった。


「なぁ、やっぱり俺たちで行かないか?」


 アリオストロがそういう。

 電気を弄るのはやめたらしい。あかりの灯る部屋で、もう一度アリオストロは「俺、調査したい」と言葉にした。


 それにすぐには答えは出なかった。


 メアリーもローランドもそのことに対して否定的でだったからとかではない。

 ただ同じ気持ちを抱いているが、その危険性を知っているからこその躊躇があったのだ。それに部屋に入れられる前にアスター宿場連盟のスタッフに「こいつらが夜間出ようとしていたら止めろ」と釘を刺されていた。


 この状況で部屋を出るのは難しいだろう。

 そんな思いもあって、メアリーもローランドも口を閉ざす。それに何を思ったのか、アリオストロは、


「知っているのに知らなフリなんて俺できないよ」


 と言う。

 この聞き分けのない子どもをどうするか、メアリーは一度ローランドの方へと視線を向ける。

 だがローランドは困った様子で固まっていた。言うなれば、叶えてあげたいけど現実的に無理、その気持ちを受け入れてあげたいけど、どうすれば良いかわからないと言った様子だ。そうだった、メアリーは片手で頭を押さえる。どちらかといえば、ローランドはアリオストロ側なのだ。恋する乙女であることをすっかりと忘れていた。


「なぁ、メアリー、ローランド」


 布団に背中からガバリと倒れ込みながらアリオストロが情けない声を出す。

 それにローランドは耐えきれなかったのか、ベッドに座り、ぐっと背筋を伸ばした。嫌な予感がする。メアリーは掛け布団で自分の顔を隠す。


「やりましょう。メアリーさん」

「だろうと思ったよ」

「ローランド!」


 感嘆の声をあげるようにアリオストロがローランドの名前を呼ぶ。

 これでは二体一。民主主義的な国であったのであれば、間違えなくメアリーの敗北であった。だがここは神が収める神聖独裁政権がまかり通っている国だ。メアリーはその思想を胸にめげない。


「そもそもアスターのスタッフの目を盗んで出れないだろう」

「そこはこう、メアリーが考えてくれるだろう?」

「適当か。しかも私に過剰な期待をするな」

「でも、メアリー。命がかかっているんだぞ……?」


 その言葉にメアリーは「うぐ」と声を鳴らした。


「そうですメアリーさん。知らずに被害が出るのと、知っていて被害が出るのは違うのです」

「それはそうだけどさ」


 メアリーは掛け布団から顔を出す。

 真剣な目でメアリーを見るアリオストロとローランドに更に罪悪感を感じながら、視線を泳がせた。

 そんなメアリーに追い討ちをかけるようにアリオストロが、


「メアリーだってヒトの命の重さをよく知っているだろう?」

「スゥーーーー」


 それはそうだ。

 メアリーは鶯鳴の記憶が正しければ医者だった。

 その命の重さを知っていたし、何よりも救わないといけないとまるで亡霊に憑かれたように日々有り余る論文を読み、そして自らもヒトを救うための論文を書き続けた。手術が失敗しないように細心の注意も払ったし、寿命で亡くなってしまった患者にも誠意を持って対応をしていた。


 だからこそ、メアリーはヒトの命の重さを誰よりも知っている。


 メアリーは二人に背を向ける形でゴロンと体を動かした。

 それを否定と受け取ったのか、情けないくらい小さな声で「メアリー」とアリオストロが呼ぶ。それに対してメアリーは冷静を保ちつつ、


「今外に行っても止められる可能性は低いよ」


 と言う。

 それにアリオストロは目を見開かせて、それからローランドは嬉しそうに「わかってます!」と声を上げた。


「それにバレたらシモンさんに怒られる」

「おう!」

「はい!」

「なんでテンション高いんだよ……」


 呆れた様子でメアリーは寝ていた体勢から起き上がり、ベッドに腰を下ろした。


「それに普通に危険だ。ストリートチルドレンがいるってことはスリやヒト殺しが常習化されている可能性だってある」

「おう」

「わかっています」

「それに模倣犯にあうことも可能性としてなくもない」

「わかった上でだ」

「はい」


 メアリーは片手で頭を押さえた。

 これは何を言っても引かないな、そう理解したからだ。これでメアリーが寝たとしよう。そうすれば必ずアリオストロとローランドはメアリーに気がつかれないよう部屋を出て殺人鬼コネクターを探しにいくだろう。それはそれで面倒だ。

 そう考えてメアリーは自分を上手く納得させた。


「わかっているなら早く準備するぞ」


 メアリーはサイドテーブルに乗っけていたポーチとズダ袋、それから立てかけた杖を持った。

 それに二人は元気よく答えて自分たちの荷物を持ち出す。アリオストロは剣をローランドはペンのような杖を。それを視界の端で見送ったメアリーは「ああ」と思い出したように口にする。


「アリオストロ。あんた戦うことになったらその剣を盾にして使って」

「お、おう?」

「あんたは言って仕舞えば戦う才能がない。いや、ヒトを殺す才能がない」

「……はい」


 嘔吐してはいたことを思い出したのか、アリオストロは手の空いた方で胃を押さえた。

 本人に自覚があればいい。それだけで生存率というものは上がる。「それから」そうメアリーは続けてローランドを見た。


「基本的に私とアリオストロが時間を稼ぐ。その間に魔術の準備をしてほしい」

「あ、その、無詠唱魔術ならすぐに撃てます」

「ちなみにどのくらいの威力?」

「無詠唱なので弱まりますが、ひとりくらいを倒せる旋風くらいは」

「……環境への効果は?」

「積乱雲を生むことはありません!」


 それは本当のことなのだろうか、疑いの目を持ってしてメアリーはローランドを見る。

 言いたいことがわかったのだろう。ローランドはそのふくふくとした頬を丸めて「本当です!」と声を上げた。


「まぁそれならいいか。基本的に遠距離攻撃をローランドが私とアリオストロは近距離攻撃。殺すのは必要であれば私がする」

「わかりました」

「よろしく頼む」


 作戦は決まった。

 作戦と言って良いのか少しだけ不安だが、それでも肝心なところは話し合えたから良いか。そう思ってメアリーは親指の腹で窓を指さした。


「ここから出るよ」

「は?」

「……本気ですか?」


 ちなみにだが現在メアリーたちが泊まっているアスター宿場連盟の部屋は二階にある。

 そう言ったこともあり若干引き気味な二人は、窓の外から地面がどのくらいの距離か確認した。まぁ、想像していた通り、いや想像以上に高い。落ちて怪我をする可能性だってあるのに、そう思った二人だがメアリーの次の言葉で黙ることしかできなかった。


「ヒトを助けたいんじゃなかったの?」


 暫くしてふたり分の無言の悲鳴とひとりの軽快な着地音が響いた。

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