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神饌の戴冠者Ⅰ・Ⅱ  作者: 綴咎
第四章 ハイドロの殺人鬼
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6殺人鬼コネクター


 メアリーの言葉はこの国ではとても異質でそれでいてい中立的であった。

 セウズ神の統治を信じているアリオストロもローランドもその言葉に何も言わなかったし、加えてシモンとギャビンは沈黙を纏いつつも目つきが変わった。面白い、と言えばいいのか、それとも奇抜な回答に悦を得たのか、シモンは少しだけ肩を震わせながら「そうか、そうか」とだけいう。


 店内にはイカした曲も何も流れていない。

 それだけがちょっと悲しくって、メアリーはクイッと目の前にあるジュースを飲んで紛れさせた。


 インフラが握られ、堕落仕切ったヒトビトは芸術なんてものと離れたのだろう。

 建築に見られる美学はあれど、こうした細やかな、この国発祥の音楽や絵など、そう言えば見たことがなかった。メアリーは唐突にそんな考えを見つけ出す。


「さっきの話はメアリー。お前だけの考えかそれともこのパーティーでの思想か?」


 そんな感じで感傷に浸るメアリーにシモンはそう聞いた。

 名指しされたような状況にアリオストロやローランドは肩をびくつかせる。そう急に聞かれて答えられるものでもないだろう。メアリーは少しだけ二人が気の毒に見えた。

 けど、それはどうやら杞憂だったらしい。


「俺は、劣性の民とか優生の民とかそういうの、を、どうにかしたい、です」


 続くようにローランドが口を開く。


「私は正直、よくわからないです。その、それが当たり前だったし、それに、……でも今は劣性の民のことをよく、その知りたい。今まで無視してきたものに、ちゃんと向き合いたい」


 再びバーに沈黙が訪れる。

 けれどそれは最初に感じた緊張感に程遠い雰囲気だった。ギャビンは嬉しそうにアリオストロとローランドにオレンジジューが入ったグラスを渡す。その行動から及第点だったのかな、とメアリーは思った。


 シモンが何回目かのタバコに火をつける。


 消耗が早いな、そんなことを思いつつメアリーが黙ってシモンを見ていれば彼は大雑把に「お前たちに任せたい任務がある」と言った。

 それにローランドの顔が晴れる。アリオストロは安堵して、メアリーはこの窮屈な空気から逃げれたことを素直に喜んだ。


「あ、そうよ。今のはアタシとシモンの前だからよかったけど、他の前でそんなことを言ってはダメよ?異端者使いされちゃうからね」

「わかりました。ありがとうございますギャビンさん」


 気を使ってそう言ってくるギャビンに百も承知だというようにメアリーは頷いた。

 そんな和やかな、和やかと言いていいかわからない空間にシモンが咳払いする。すぐに話を聞く体勢に戻ったメアリーを見て、シモンは視線だけではなく顔を横に向けて、メアリーたちをその目で見た。


「殺人鬼コネクターを捕らえることが本当の頼みたい依頼だ」

「殺人鬼を……」

「捕らえる……?」

「……正気かい?」


 思わずメアリーがタメ口でそういう。

 それに気を良くしたのか、ギャビンが楽しげにカウンターに肘をついて、重ねた手の上に顎を置いた。


「彼、本気でコネクターを裁判にかけようとしているのよ」

「それは一体どういう意味ですか?」


 ローランドがすかさずそう聞く。

 それにシモンはタバコの煙を一度吐いてから、苦々しいというように、


「自警団はコネクターを逃れモノとして処理するつもりなのよ」

「俺はそれが許せねぇ。あいつは殺人という罪でしょっぴかせる」

「それは、コネクターをヒトとして扱い。その上で罪を償わせると?」

「ああ、神殿になんて渡さねぇ。やつの犯した禁忌など知るか、俺は奴を殺人の罪で処罰し、このハイドロに優劣関係なく法が適応されることを知らしめる」

「ね、面白いヒトでしょ?」


 厳つい表情でそれを断言するシモンは至って真面目であった。

 それほどこの街を愛しているのだな。そうメアリーが思うには遅くなかった。なんというか久しぶりにマルっと信じれそうな大人と出会った気がする。そう思いながら、メアリーはアリオストロとローランドを振り返って「それでいいよね」と言った。


「俺は問題ない」

「私も同じく問題ありません」

「よし、ではシモンさん。それはそうと最初の依頼とは話が変わってくるんで報酬量はもちろん上がりますよね」

「がめついな」


 メアリーは二人の言葉を聞き、それから指紋へと振り返りハンドサインでお金のマークを作る。

 それに呆れたようにシモンが答えつつも「依頼書をよこせ」と手で支持した。

 急いでアリオストロが己のポーチに入れていた依頼書をシモンに渡す。そうすればシモンはギャビンに「書くものを」と言って手招きした。ギャビンはそういった対応に慣れているのか「はいはい」と言ってスタッフルームのような場所に向かう。


 その間にメアリーは「そういえば」とシモンを見た。


「最初にどうして私たちに追わせる形で接触してきたんですか?」


 そう言えば彼は顔を正面に戻して煙を吐く。

 それから「ああ」と言って、


「お前たちが明らかに自警団の奴らに尾行されていたからな」


 とトンデモ発言をした。

 メアリーたちの間に長い沈黙が横たわる。それからワナワナと口を動かしたアリオストロが「び、尾行!!?」と叫んだ。


「ええ、なんで……」

「そんなのジョセフ団長様の命令だろう。コネクターの件で焦ってるからな」

「それはなんでか聞いても?」


 メアリーがそう聞けば、シモンはタバコを人差し指と中指で持って、口から遠ざけた。


「理由は知らない。だがコネクターが出始めてからジョセフは躍起になってコネクターを神殿に渡すことに執着している」

「浄化されることの畏怖では?」


 ローランドの言葉にメアリーは「浄化ねぇ」と呟いた。

 聞く限り大粛清に聞こえるのはどうなんだろうか、そんなことを思いつつ再びガラスに唇を近づけた。


「いや、俺も当初はそう思ったが……勘に過ぎないがそれだけではなさそうに見える」


 シモンはそういうとガラス製の灰皿にタバコを押し付けて捨てた。


「動きが過剰なんだよ。大体、他の事件や事故を放置してまで捜索を続けているのはやり過ぎだ」


 だからか。

 メアリーはジャックがわざわざメアリーたちを自警団本部に向かわせた理由をそこで初めて悟る。

 要はコネクターに執着するジョセフを見せて、それがある種の事件の鍵だと知らせたかったのだろう。口頭で言えばいいものの、あえて行動した上で知らせてこようとするジャックの遠回りなやり方に呆れる。

 どうせジャックのことだ、これでその答えに行きつかなくても、そこまでのヒトだった。なんて言葉でメアリーたちを評価するのだろう。


 一旦頭の中で整理しよう。

 メアリーは思考の海に足を踏み入れる。

 殺人鬼コネクターの情報を得るという依頼は自警団ではなくシモンからの依頼だった。

 シモン曰く、自警団は逃れモノとしてコネクターを表立たずに処理するつもりで、シモンは殺人の罪としてコネクターに罰を与えたいと思っている。自警団とシモンは内部的に対立しており、そのため自警団はこの先メアリーたちにとっても厄介になる……邪魔になる存在だ。

 そしてコネクターとジョセフの間には何かしらの因縁があると思っていい。

 そうでなければ他の仕事を後回しなんてことは出来ないであろう。


 メアリーの真似をしてオレンジジュースを飲むアリオストロとローランドの目が輝く。

 そしてごくごくと喉を鳴らす音が聞こえたところで、スタッフルームからギャビンが羽ペンと十枚程度に見える紙を持ってやってきた。


「はい、これ」

「ああ」


 そうして渡された羽ぺんでシモンは一桁、そう、一桁増やした。

 ゼロを書き足して、糸桁増やした瞬間メアリーの今までの思考が吹っ飛ぶ。金は好きだ。これでほとんど融通が効くことをメアリーは鶯鳴の記憶で痛いほど知っていたからだ。

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