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神饌の戴冠者Ⅰ・Ⅱ  作者: 綴咎
第三章 法という名の理不尽
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2簒奪者たち


 ダリアと名乗った女は、パチリとウインクをしてからやれやれというように肩をすくませた。

 聞き分けのいいと自負するメアリーはその行動を見てから目的が殺すことではないと推測して、素直に聞くことにする。


「一体、簒奪者のダリアさんは何のようでしょうか」


 メアリーの言葉に、ダリアは少しだけつまらなそうな顔をしていた。

 それはメアリーが“お姉さん”と呼称しなかったからだろう。正直そんな細かいことを、そうも思うが、話が進まないのならばそう呼ぶしかない。メアリーは諦めたようにため息を吐いてから「お姉さん」と付け足した。


 そうすればダリアは満足がいった様子でニコニコと笑う。

 ジャックとはまた違った笑みの浮かべ方だ。彼は何もかもが面白いというように笑うがダリアは可愛い子どもを相手にするような笑みをこさえる。


 心臓に悪い笑みと言えばいいのだろうか、要するに別のベクトルでメアリーにとっては話したくない人種であった。


「ハイドロ領の話が聞こえたからね。私、思わず楽しそうで来ちゃったのよ」


 軽快にそう答えるダリアにメアリーは顔を顰める。

 ハイドロとダリアに何が関係するのか、それを思考しようとしたとき、隣から重々しい言葉が疑念と懇願を含んで空間に響いた。


「北の街ポスのあの爆破はあなた達が?」


 アリオストロの言葉にメアリーは息を呑む。

 陥落した北の街ポス。それが簒奪者ウェヌスタによるものだとは知っていたが、それを初めに切り出すとは思ってもいなかった。今は敵対したくないところだ。それはアリオストロもわかっているはず。なのにどうして、そんな疑問は一つの答えに収束する。


 ジャックが煽ったのだ。

 アリオストロが感じるスキロスへの罪悪感を煽り、決定的な対立構造を作ろうとしたのではないのか、そんな予感がする。

 これはまずい話の方向性だ。メアリーは手汗を握り締めながら、引き攣りそうな頬をなんとか制御して話題をすり替える。


「ポスのことは置いておいて、ハイドロと言いましたが何か引っかかることがありましたか?」


 そう言いながらアリオストロの太ももをつねる。

 それでも「だってメアリー」というアリオストロを睨みを効かせることで黙らせた。


「あら、いいの?北の街ポスのお話は」

「聞きたいです」

「アリオストロ、あのさ」

「いいじゃない。坊やの好きにおしゃべりさせてあげなさいよ」


 今自分がどういう立場なのか本当に理解しているのか。

 そう言ってやろうとしたメアリーの口はダリアによって止められる。虎の尾を踏む可能性があるそんな話題をさっさと流したかったメアリーだったが、現実はうまくいかなかった。


 どうしてそんなにもメアリーが北の街ポスの話を避けようとするのか、それに関しては全てアリオストロのせいだと言える。

 彼はスキロスの一件のせいで視野が狭まっていた。そんなアリオストロが北の街の件を出されて冷静さを事欠いて無責任な発言をしたとする。商会などに所属するジャックとは違うのだ。彼は笑って冗談として流してくれるかもしれないが、ダリアは未知数だ。この話をきっかけに神都に攻めてくる可能性だってある。それができるだけの強さがあるし、加えて相手は認められていなくとも独立を宣言した地区の幹部。


 これはただのメアリーとアリオストロが対応する話ではない。


 戴冠者として次期王候補としての立場を弁えて発言しなければ、最悪の事態になる。


 だからこそ、メアリーは一旦冷静になるためにもアリオストロを黙らせたかった。

 黙らせたかったのだが、それも今封じられたことでアリオストロは知らぬうちに窮地に立たされている。


 どうする。どうすればいい。

 メアリーは必死に考え込む。このままアリオストロに自由に発言させるべきではない。それをアリオストロに伝えるにはどうすればいい。


 そう思考を回しているとローランドが徐に「うんん」と咳払いした。

 注意が一気にローランドへと向かう。その中で、ローランドはかつてないほど冷静に真面目にアリオストロを見て「王候補者様、どうしますか?」とただそれだけを聞いた。


 その言葉にアリオストロは一瞬何のことか、口を開いて固まる。

 メアリーはその間にローランドに内心助かったと思いながら同じように「決定権は確かに王候補にある」と言った・


 そこでようやくアリオストロは自分の今の立場に対して思い出したらしい。

 言いかけた「あんたらがスキロスを殺したのか」という言葉に対して、苦虫を潰したように呑み込んで、それから落ち着かせるように息を吐いた。


「俺たちを助けてくれた民がいる。是非礼をと思っても彼女の安否がわからない」

「へぇ……そう来るのね」


 ダリアは誰にも聞こえない程度に声を潜ませそう言ってから、笑顔の種類を変えた。

 今までの聖母のような笑みから、値踏みするような感情を交えた深い笑みになる。場の空気が完全に変わった。流石のアリオストロでもそのことを察することができ、細かく息を切ってからアリオストロは重々しく続けた。


「礼を踏まえ彼女に会いたい。それはできるか?」

「なにぶん北の街は広いからね。名前も知らなければ何もできないわ」

「……スキロス。ブルゴーニュの屋敷でメイドをしていた」

()()()()()()()()()ねぇ」


 含みを持った言い方はブルゴーニュが死んだことを察するには十分だった。

 いや、元々安否に関してはメアリーもアリオストロも期待はしていない。シャルルが生きているだけマシだっただろう。なんて言ったってブルゴーニュは北の街のポスの領主。北の街の顔ということだ。それを生かしたまま乗っ取ることは至難の業だ。旧体制の終わりとして殺すことが何よりも楽なことで、当然の末路だろう。


「それにスキロスねぇ」


 その言葉に身を乗り出しそうだったアリオストロを何とか、足を踏むことで止まらせ、メアリーが代わりに「聞き覚えが?」と問うた。


「……いえ、ないわね。どこかでひょっこり生きてるか、爆発に巻き込まれたんじゃないかしら」


 事もなさげにそういうダリアに思うところはあった。

 だが、生存の可能性が浮かぶだけマシだ。アリオストロは唇を震わせてから「そうですか」と零して、その話は終わることになった。ダリアは背もたれに半身を預けて優雅に足を組む。その動作だけでも目を見張るのだから、備忘とは時に攻撃となるものだ、そんな考えがメアリーの中に浮かぶ。


 スリットから覗く白色のハリのいい太ももに凝視するメアリーとは違い、しっかりと目を合わせていたローランドが気落ちしたアリオストロの代わりに次の話を進める。


「ハイドロの件ですが、簒奪者ウェネスタとして何かあるんですか?」


 直球的な質問にダリアは笑みを深くした。

 片手に顎を添えて「そうね」と零して続ける。


「ハイドロ……というよりも、リトスね。今のあなた達に来てほしくないの」


 ダリアの言葉に誰もが顔を顰めた。

 どういう意味か、理解ができない。今は、という言葉が更に疑問を深める。そんなメアリーたちに気がついたのか、くすくすと喉を鳴らしてからまるで獲物を狩るライオンのように眼光を光らせメアリーたちを睨んだ。


「あなた達には資格がないの」

「資格?」

「そう、資格。ねぇ、あなた達は、私達ヒトビトが犯した原罪を知っている?」

「原罪?」


 首を傾げるメアリーにダリアは首を横に振って「それも知らないなんて」と言った。

 もしかしたらメアリーだけが知らないかもしれない、そう思ってアリオストロとローランドを見るが、彼らもピンときていないように見える。そんな三人にダリアは更に溜息を吐いた。


「私たちヒトビトが神を殺した罪の話よ」

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