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神饌の戴冠者Ⅰ・Ⅱ  作者: 綴咎
第二章 戴冠者を襲うもの
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3ジャックの再来


 神都ニフタにある城を出る。

 あの神聖な空気は何処へやら、ヒトビトが賑わいを見せる声が聞こえる。城から見えるニフタの光景は圧巻で、渦巻状に縦並ぶ家屋を見てげんなりとした気持ちにメアリーはなった。これからここを登るのか、そう思えば立地の悪さに悪態をつけたくなるもの、同じことを思ったてだろうアリオストロもなんだかどことなく嫌そうであった。


 そんなメアリーたちは一度道の端っこの方へと向かってから、金髪の少女の方向を振り返った。

 そんな対応をされるとは思っていなかったのだろうか、驚いたように肩を跳ねさせて少女は持っていた飾りのある杖を胸元で強く抱きしめる。まぁ、先ほどまで命を狙われていたのだから、当然な反応だろう。メアリーはそう思いつつ手を差し出すことにした。


 こう言うのは躊躇っていても正直なところよくない。


 だからさっさと終わらそう。

 そう思ってメアリーは「改めて」と言葉を紡いだ。


「改めて初めまして、記憶の戴冠者のメアリー。メアリー・パートリッジだよ」

「お、俺はこいつに選ばれた次期王候補のアリオストロだ」


 躊躇いがちにそういうアリオストロにメアリーは少しだけ驚く。

 自らそう名乗ったのは初めてのことではないか、彼の決意がどれほど重いのかそれを目の当たりにしたような気がして、メアリーは成長と呼ぶべきか、それとも成れの果てと呼ぶべきか、この状況にちょっとした蟠りを感じた。


 そしてそんなメアリーたちの事情など知らない少女は大切そうにその名前を「メアリーさん、アリオストロさん」と繰り返して呼ぶことで噛み締めていた。


「私は空間の戴冠者のローランドです」


 よろしくお願いします。

 そう言う彼女は頭を勢いよく下げた。金髪が光の輪を描いて散らばる髪をキラキラと光らせる。彼女のつむじが見えた頃、パチパチとどこからか拍手する音が聞こえた。

 一体誰だろうか、思わずメアリーたちはばっと視線を音のなる方向へと向ける。

 そこにいたのは黒いローブを着た男だった。

 フードをかぶっていることでその相貌は見えない。ただわかるのはその背丈がメアリーやアリオストロ、ローランドよりも高いこと、そして鼻を通して香ってくる臭いが草木を燃やしたような独特の匂いであること。


 それを嗅いだことのあるメアリーが思わずその名前を忌々しく呼ぼうとしたとき、彼――推定ジャックはまるでその行動を咎めるように「しぃー」と人差し指を口元に持っていった。


「ちょっと話したいことがあるんだ……いいよね」


 聞いているわりには今日引けんのない強い言葉。

 その声でアリオストロも目の前の人物の正体に気が付いたのだろう。体が強ばり、表情が硬くなる。その様子を見たローランドが身構えるのを見て、メアリーは手で制した。


 北の街ポスの件で問い詰めたことは沢山ある。


 もっと言えばスキロスの件でと言いたくなるが、要はメアリーたちもジャックには用があった。

 だから静かに先導する彼の後ろを黙ってついていくことにした。そうするしかなかったのではなく、今度こそ、自分たちの意思でそうすることを選んだのだ。


 案内された場所はただの大きな家屋だった。

 玄関近くに垂れ下がった「アスター宿場連盟」の文字がなければ、ジャック個人の別荘か何かだと思っていただろう。なぜなら彼はノックもなしに堂々と扉を開けたからだ。ノックぐらいはしろよ。アリオストロは最近身につけた常識を元にそう考える。でも、開いてしまったものは仕方ない、メアリーが軽く会釈するのを見てから、同様に姿を真似て中に入った。


 アスター宿場連盟と掲げた家屋の中は木材でできたシンプルな二階建ての内装であった。

 円形の木材でできたシンプルな机にそれに合わせて背もたれ付きの椅子が四脚。そのセットが五個ほどあり、そのどれもが満員であった。

 奥にはか受付嬢がいるカウンターがあり、彼女がにこやかに「お帰りなさいませジャック様。ご指定されていたお部屋は準備が整っています」とだけ伝える。

 騒がしい店内であるはずなのに、彼女の声は明確に聞き取れる。

 ちょっとした不思議な感覚に襲われながらも、ジャックが迷いなく二階に続く階段を上がるものだから、落ち着かないままメアリーたちもそれに続くしかできなかった。


「いやぁ、大変失礼したね」

「お構いなく、ジャックさんはいつも失礼ですから」


 個室のような場所に連れて行かれて早々に言われたのはそんな言葉だった。

 彼はそんなメアリーの言葉には一切不機嫌になった様子はなく、むしろちょっとだけ楽しそうに笑いながらコートを脱いで立てかけれらたコートハンガーに置いた。

 そうするとメアリーとアリオストロが見たことのある服装が出てくる。

 東洋風の着物とインナーを合わせた不可思議な格好のジャック。彼はそのまま長方形の机に備え付けられた窓側の長い椅子に腰を落とす。それを見計らって、メアリーもアリオストロもローランドも反対側、対面する形で腰を下ろした。


「君がそんなつれない反応するとは思いもしなかったよ」

「スキロスの件忘れたとは言わせないよ」

「ああ、彼女。彼女のことは申し訳ないと思ってるよ」


 そうは思ってもいない言いぶりに、アリオストロが奥歯を噛んだ。


「スキロスを騙したんですか?」

「酷い言い方だな。彼女は自分から選んだんだよ。……正直なところ彼女も一緒に君達と逃げてくると思ったけど」


 そう言ってジャックは笑顔を浮かべて「まぁそれは終わったことだ!」と元気に返した。

 アリオストロはそれに納得がいってないようで更に詰めるように「終わってない!」と立ち上がって吠える。ローランドはあわあわとした様子でメアリーの隣に座るアリオストロの顔を見た。

 それにメアリーは小声で「ここまで来るのに色々あったんだよ」と投げやりに説明する。

 それで一旦は納得してくれたのだろう。押し黙るローランドをいい事にメアリーはアリオストロを援護した。


「彼女を利用したことは否定しないんですね」

「お互いギブアンドテイクだからね。彼女は僕を利用して君達を逃した。君達は彼女を利用して逃げた。そして僕は彼女を利用して君達を逃し、彼女は僕を利用して富を得た」


 ねぇ、ギブアンドテイクでしょう?

 思わずメアリーの目が据わる。この言い回しはただアリオストロの罪悪感を引き出しているだけだ。

 そして、黙らせるための武器でもある。


「まぁ、君の新しいお友達の前で過去の話なんて無粋だろう?堅実的な話し合いを始めようじゃないか」


 アリオストロはその言葉に苛立ちも隠さないまま座った。

 そうすることしかできないと思ったから、沈黙を貫くアリオストロを横に、メアリーはこれ以上ジャックの掌で踊らされるのはごめんだと思い、意識を変える。


「それで、あんたは私たちになんか用でもあるのかい?」

「そうだね。有り体に言えばそうだ。北の街ポスの一件がまさか僕のせいにされて指名手配を喰らっているんだよ」


 困ったなぁ。と肩を竦めるジャックは「これじゃあ告知もできやしない」とさも本当に困っていますと言うようにメアリーとアリオストロ、ローランドに言う。


「北の街のポスの一件て何?」

「どうやら君たちがあそこを離れてからすぐに『簒奪者ウェヌスタ』というテロ組織が北の街ポスを占拠したらしくってね。それを誘導したのが僕なんじゃないか、ってあらぬ噂を流されたんだよ」

「は?」


 理解のできない単語にメアリーは思わず口をポカリと開けた。

 そしてそれはアリオストロもローランドも同じで、ローランドに至っては戦慄く口をしどろもどろに動かす。


「ど、どう言うことですか?ウェヌスタは主に南で活動しているはず……それがどうして北に」

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