序章 予言
人の罪よ、人の業よ、今この時、晒される日が来た。
豊穣の地は枯れ果て、
世界は嘆き、
この地に芽吹く命は悉く消え去るでしょう。
どうか、受け入れ、諦め、罰を受けるその日を待つのです。
だが、玉座に座る正しき王の言の葉で、
世界は救いを与えるだろう。
〈予言一部〉
1
その人は死んでいた。
確かに記憶の中のその人は死んでいた。
心臓と呼ばれる器官から血を流して、その人は凸凹のない床で四肢を投げ出すように死んでいた。
可笑しなものに囲まれた部屋で、死んでいたのである。
孤児院の先生の部屋くらいに大きなところに、メアリーの知らないものが多く部屋を飾ってあった。
それは例えば太陽よりも深い青色の光が漏れ出ている四角い何か、それから羊皮紙には見えないような白色の薄いものに沢山の絵が描かれた何か、ときには線のようなものが床に散らばっていて、緑色に発光する筒のような透明なものもある。
そんな不思議な夢を、メアリーはいつも見ている。
十二歳の頃から、ずっとずっと気が狂ってしまうほどの時間見ていきたのだ。
床に転がったその人は、まるで薔薇の花を散らしたように鮮血を流している。よく見ればその口は半開きになっており、少しだけ出た八重歯がまるで「なんで」というように輝いていた。
どうしてこの人は死んでいるのだろうか。
そんな疑問を感じるには十分なほどの時間を有した。原因はわかる。
彼女の背中から胸にかけてまるで一直線に抉り取ったような小さい穴が空いてるからだ。
その直線上を見れば、短くなった鉛筆のような形をした硬質な何かが役目を終えたとばかりに煙を出して転がっている。これが原因だと、メアリーは知っている。なんとなく、本当になんとなくそう思うのだ。
メアリーはふと視線を上に向ける。
そうすれば床のように滑らかな白い天井があって、その中央に長細い目が痛くなるような白がある。
なんでこんなにも白い部屋なのだろうか、メアリーは視線を下に戻してから静かにしゃがんで……と言っても感覚的であって、メアリーの体はそこにないからしゃがむという言葉があっているかわからない。でも、確かにしゃがんで、メアリーは膝を抱きしめてそこに顔を伏せた。
「早く目覚めないかな」
声にならなかった言葉が空気中に溶ける。
それは誰に向けて話された言葉ではないものの、でも確かにどこにもいない誰かに向かってメアリーは祈っていた。早く目が覚めますように、ランやオーガッシュ先生と会えますように、小さな小さな祈りは、けれども応えるものはいない。
メアリーは知っている。
これが自分の意思でどうにもならないことを、願っても祈っても、泣いて喚いても誰も助けてくれないことを。
だから今日もこうして、青ざめた顔を伏せて、紫色になった唇を震わせて、小さく細い肩を縮こませながら目覚めのときを待っていた。
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