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神饌の戴冠者Ⅰ・Ⅱ  作者: 綴咎
第二章 ヒトビトの原罪
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6黄金の街


「俺もそう思うけど、なんでかって敢えて聞いていい?」

「まず価値観が違いすぎる」


 思えば最初に会った時からウィリアムの価値観はヒトと違った。

 所謂厨二病とか、強さに驕ったヒトとかそういうのじゃない。ずっと自然体で、こちらに合わせようともしない。善悪というものがなく、ただそこにいるだけで厄災となる。気に入らなければヒトを殺すし、ヒトの道理を知りながらもそれを「ふーんそうなんだ」程度にしか考えてない。


 ダグザへの気遣い以外にヒトの性質というべきかそういうものがない。


 ヒトを軽んじているわけではない。

 そう例えるなら蟻のように見ているのだ。そこにいることは知っている、そこにあることは知っている。けれどそれに何をしようが、何をしないだろうがどうだっていい。

 ただ今は目的を持っているから対話に応じるだけ、そしてその対話も一方的でこちらに有無を言わせない。


 何よりもその圧力。

 もたらされた絶望は旱魃にあったような、オアシスだと思った場所が蜃気楼だったみたいな。そんな絶望感。何度思ったか、あれは自然だ。ヒトも環境も考慮しない、そして何よりも平等で身勝手な自然。


 そして本人の自称。

 その全てが太陽神の名前であり、科学文明が発達しない世界で「恒星」という概念を知っているという点。

 メアリーと同じだれか別のヒトの記憶を持っている可能性も否めないが、正直なところあれほどまでの殺意と理不尽さを体現できるものをヒトとは呼びたくない。


「そういえば、セウズ神の他に神がいるなどあり得るのでしょうか?」

「それはなんで」

「え、だって、そもそも、神というのはセウズ神を示す言葉ですし……ウィリアムさんがセウズ神のような行いをしているとは思えないし……」


 そこでメアリーはこの国に神という概念がない、もしくは曖昧であることを悟った。

 他宗教の存在を知らないからこその疑念だと思う。だが、メアリーは神と呼ばれるものがヒトの住む地域でたくさんいることを知っている。だからウィリアムが太陽神であることを名乗ったとしても違和感はあれど、頷けるが、アリオストロとローランドは違うのだろう。


 アリオストロとローランドのいう神とはインフレを全て握った恩恵をくれる神のことをいうのだろう。


 メアリーにとっての神とはヒトを超越した存在のことをさすが、そう言ったとしても二人はきっとピンとこないことだろう。


「正直。ウィリアムが本当に神なのか、そうでないのかは関係ないと思う。ただヒトという存在の範疇を超えた、超越者だと思えばいい」


 それを神と呼ぶのだが、二人はその説明で納得したらしく頷いた。


「その、もしかしてウィリアムさんのような方って複数いるのかなって思ったんですけど」

「ほう」

「であれば、簒奪者ダリアさんの言っていた『神殺し』も理解できるかなって」


 思い出すのはダリアの言葉。

 予言と呼ばれるもの、正体不明の不思議な言葉の羅列。


『人の(つみ)よ、人の(ごう)よ、今この時、晒される日が来た。豊穣の地は枯れ果て、世界は嘆き、この地に芽吹く命は悉く消え去るでしょう。どうか、受け入れ、諦め、罰を受けるその日を待つのです。だが、玉座に座る正しき王の言の葉で、世界は救いを与えるだろう』


 今まで気にしていなかった言葉が嘘のように明確に聞こえた気がした。

 メアリーはさらに記憶を掘り起こすようにウィリアムの言葉を思い出す。


『故郷を滅ぼし、至宝を盗んだ鼠に、わざわざ通りを弁えてやるほど俺は寛容ではない』


 神殺し、故郷を滅ぼす、至宝を盗む。

 ダグザの故郷。ウィリアムと対等な存在。ウィリアムの自称太陽神。

 であるならば、ダグザの正体は……。


「ダグザも神様……?」

「はぁ?」


 メアリーのぽつりと投げ出された言葉にいの一番に反応したのはアリオストロだった。

 アリオストロはまるでメアリーに「正気か?」というように反応する。だがローランドは納得がいったのだろう。小さくこぼすように「ダグザも超越者ということですよね?」と言った。


 その言葉に是というには正直根拠がなかった。


 何しろ会話をしたことがない。いつもウィリアムの側にいて、必要であればウィリアムを止めてくれる存在。それ以外にアクションはないし、反応もない。殺伐とした空気を齎すこともないし、反対に慈悲を与えるような素振りも見せない。

 だからダグザが神であるのか、判断がつかなかった。

 だが神でないという根拠もない。


 ヒトであるのならば、正直ウィリアムの態度が納得できなかった。


 いやもしかしたらゼウス神にとってのエウロぺみたいな立ち位置にだったりするかもしれないが、それにしては不敬と言われるような行動しかしていない気がする。それに立ち振る舞いが教養を持つヒトのそれだ。この文明、書物を禁じる文化、そう言った世界でダグザはあまりにも不可解な存在であった。


「それなら神殺しも納得できる気がする。要は超越者、神の故郷を滅ぼした……っていうことになるでしょう?」

「まぁ……確かに……」

「でも、ウィリアムさんのような超越者が負けるようなことあるんでしょうか、しかも故郷を滅ぼすって」


 可能なのか、そう聞かれれば、確かに難しいことだろう。

 セウズ神が自ら殺したのであれば、ダリアはヒトビトの罪とは言わなかっただろう。だから神を殺したのは、ダグザの血統を殺したのは、間違いなくヒトビトだ。神の信仰をセウズ神に奪われて零落していた?いや、そもそもウィリアムが太陽神、所謂軍神であってのあの力で、ダグザは別の、例えば愛とか契約とかそういうものを司る存在なのかもしれない……と思えばヒトビトでも簡単に殺せるのかもしれない。


「でもそれが本当なら、俺たちの祖先やばいことしてるってことになるよな」

「あはは、そうですね。まさか超越者の故郷を滅ぼすとか……」

「…………やばくね?」

「……とってもやばいです」


 アリオストロとローランドの顔が一瞬で青ざめる。

 ウィリアムのあの強さを身にしみて理解できているからこそ、報復という言葉に恐れを抱いたのだ。

 震える手を誤魔化すためにアリオストロは話題を変える。


「だとしてもウィリアムはその国の超越者じゃないんだろう?なら、ただの国滅ぼし……それもダメか……」

「もしかしたら、その国で祀られていた神がウィリアムとか?」


 アリオストロの小さくなる声に対してメアリーがなんともないようにそういう。

 神を殺した、ダグザが神である、そういった根拠が薄い話よりもまだこちらの方が信じれた。神が零落して悪魔になるとか、精霊になるとか、どこかで聞いたことがある。信仰されていた民が殺されたことで闇堕ちした……そして唯一の信者を連れているの方がなんとなく想像がついた。

 いや、信仰している相手に取るような態度ではなかったけれども。


「どっちにしろ、なんか……とんでもない話になっていますよね」


 途方もないイフに耐えきれずローランドがそういう。

 それに対してメアリーは諦めたようにアリオストロの肩に手を置いた。


「正解がどうであれ、この国のトップになるってことはその問題をどうにかしなきゃいけない」

「嘘だろ……」

「国の責任者みたいなものですからね……」

「特に他国とのしがらみを放置すれば戦争になりかねない。宗教が絡まっているなら特にな」

「センソウ……シュウキョウ……」


 放心するアリオストロにメアリーとローランドは追撃するようにいう。

 知らないでは許されない。どうにかしてこの国の原罪を理解しなければ今後の国の運営に影響が出るだろう。そういうのも加味して、ダグザの大釜を返還するときに聞けたらいい。それじゃなくても知っていそうな民に聞ければいいのに、そうしてメアリーはコロシアムに白熱する観客席を見る。皆それぞれが黄金を纏った華美な格好をしている。それが血と煤、骸の上で手に入ったと知っているのか、知らないのか、それはわからない。


「黄金の街……か」


 知らないことは罪なのだろうか、知ることが罪なのだろうか。

 彼らの中には罪が宿っているのか、メアリーにはそれがわからなかった。

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