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神饌の戴冠者Ⅰ・Ⅱ  作者: 綴咎
第二章 ヒトビトの原罪
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1黄金の街

 コロシアム。

 あらゆる領地からやってきた強者が、最強という称号を得るために行われる催事。

 優勝賞品は魔術の結晶とも呼べる大釜。ルールは一つだけ、魔術の使用不可。相手を殺すか、敗北を認めさせるか、戦士たちが覇を競い合う競技。

 それこそがリトス最大のバトルコロシアム。総勢三十二人が参加する戦いである。


「ここまで聞くと選別の儀と似てるよな」

「国規模のコロシアムのようなもんだからな。似てるも何も同じ性質だろう」

「あはは、メアリーさん……」


 巨大円形闘技場の観客席。

 今か今かと始まりを期待する観客の熱を感じながらどこか座りが悪そうな顔でそう言うアリオストロに、メアリーは至極当然というようにそう言った。

 現在メアリーたちはコロシアムの観戦、もっと言えばへロスの応援に来ていた。通常現代社会であるのならチケットなどの販売によって客の制限をするもんだが、文明時代は古代。そんな世界で観戦チケットなんてものはなく、全ての席が自由席、早い者勝ちでもあり席に座れないものは後方で立って見ているヒトもいる。


「早くきてよかったですね」

「本当に」


 ローランドの言葉にメアリーは小さく頷いた。

 へロスが一回戦目の出場であることを知り、メアリーたちは朝早くから観客席の一番前を陣取っていた。へロスは来る勝負のため別行動していたため知りもしないが、それはもう早くきていたのだ。現実的にいえば日の出前と言えばいいのか、まぁ要するにみんなへロスの武運を祈って寝れなかったともいう。


 まぁそれが功をなしてこうして前列に腰を落とすことができたのだからよかったことだろう。


 終わりよければすべてよし。

 そう言うことにしてメアリーはこの思考を切ることにした。


「ふ、ふわぁ」

「ローランド、寝ないようにね」

「だ、大丈夫です!ちょっと今だけ眠いだけで」

「そしてアリオストロはうとうとするな」

「おーおう」


 両サイドで今にも夢の旅に出そうな二人に釘を刺す。

 そうすれば、ローランドからぎくりとしたような言葉をもらい。アリオストロに関してはほとんど半分寝かかっていた。メアリーはうとうとと頭を揺らすアリオストロを横目にみる。

 それから隙放題の左脇腹に向かって、拳を叩き込んだ。


「ごへぇ」


 殴った右手を振ってメアリーは何事もなく前を見る。

 怨みがまし視線が左側から感じても特に気にした様子もなくただ始まるのは待っていた。


「あははは」


 ローランドの乾いた笑い声が聞こえた時には、コロシアムのスタジアムに恰幅のいい男が入ってきた。

 それは中央に着いた瞬間、観客を見渡すように頭を動かす。その様子を見て、場慣れしているな、なんてどうでもいいことをメアリーは考えた。男は周囲を見渡し終わった後、喉を鳴らすように「ん、ん゙」という。そう言えば、賑わっていた観客席がすぐにシーンと静まり返った。


「バトルコロシアムにようこそ皆さま!」


 その言葉に、観客の熱は再度ヒートアップする。

 響く雄叫びと言えばいいのか、歓声と言えばいいのか、そう言ったいくつもの声が飽和して最終的には「わぁ!!」と言う声に収束された。

 そんなスタジアムの様子に満足したように男は続ける。


「私はリトス領主、シャルドネと申します」


 そこでメアリーは小さく「娘が殺されたことを知らないのか?」と呟いた。それに反応したのはローランドで「もしかしたら伝わってないのかもしれません」と言ってくる。その線が高いだろう。と言うのも、娘を殺されていると知ったらコロシアムなんてやってるほど余裕はないだろう。親子関係がどうであれ、戴冠者と言うラベルで見ればアンジェリカは手放したく……。


「う」

「どうしたメアリー?」


 頭を酷く強く揺さぶられる。

 あの時の声が聞こえてくるようだった。


 どうしてそんなに冷静なの、どうしてそんなに他人事なの、どうしてそんな考え方をするの。


 頭の中で先ほどまで考えたことの言葉が拒絶される。

 そんなこと容認していいのか、利用されるなんて考えていいのか、それでしかものを測れないのか、そう言った考えが頭の中をぐるぐる巡って気持ち悪さを与えてくる。

 どうしてなんてこっちが聞きたい。

 どうしてこんな考え方をできてしまうのか、どうしてそれを考える癖に容認はできないのか、どうして今まで無視できていたことが無視できなくなってきたのか、そんな悩みは誰にも打ち明けることのできないまま蟠りを作って己の心の中に鎮座する。


「ごめん、大丈夫」

「本当に?」


 なんとか頭から気持ち悪い考え方を振り出してそう答えれば、ローランドが心配するようにそう言った。

 その瞬間。赤毛の少女――ランの幻覚がチラつく。


『本当に大丈夫?』


 あの時確かに聞いた言葉とローランドの声がまるで重なったように聞こえる。

 あの時、あの瞬間、あの場面で自分はなんと言ったのか、このどうしようもない悩みを打ち解けることができたのだろうか、それとも拒絶されることを恐れて結局できなかったのだろうか。きっと後者だろう。だからメアリーは今ここにいて、ランはここにいないのだ。


 そのことが重くメアリーにのしかかる。


 責任と言えばいいのか、それとも罪悪と言えばいいのか、そんなわからない言葉が喉を締め付けてメアリーを窒息させようとする。それがなんとも不快であり、それでいて快楽でもあった。罪を自覚したこと、罰を望むこと、それをよかったと思う自分がいる。その反対にこんなことなら何も知らない自分であればよかったのに、と思う自分だっている。


 矛盾している。


 常にメアリーは矛盾している。

 思考回路と倫理観が、十六歳の自分と三十歳の鶯鳴が、知覚と本能が、それら全てが相反して反発しあっている。これが罪に対する罰なのだろうか、この苦しみがただのメアリーでなくなった自分への罰なのだろうか、そんなことを思い出した時に想起するのはへロスの言葉だった。


『ヒトの罪はヒトの内側から生まれる、だが、罰は違う。罰はヒトの外側から与えられるものだ』


 ならばメアリーの罪はまだ心に残っている。

 へロスの言葉が本当なら、メアリーにはまだ贖い続ける権利がある。それは安心であり不安であり、やっぱり矛盾していた。それでも先ほどの矛盾よりかは心が楽になった気がした。


「大丈夫、大丈夫だから」


 何が大丈夫だろうか、自分で言っておいてそんなことを感じてしまう。

 そんなメアリーを見て、アリオストロとローランドは目を合わせる。どうする?言葉にしなくてもわかる疑問は答え出ないまま宙ぶらりんになった。


「今回、主催を勤めさせていただきます!」


 わぁっと声が上がる。

 それだけ民衆には人気があるのだろうか、ズキズキと痛む頭を片手で押さえてメアリーは無理矢理視線を会場に向けることでなんとか持ち直そうとした。

 そうすれば、視界に身振り手振りをするシャルドネが見受けられる。まるで演説だ。他人事のように、事実メアリー自身にとっては他人事なのだが、まぁ興味なさげにメアリーは聞き流す。

 なんだかかんだか喋り終えた後、シャルドネが声を張らせて宣言する。


「ではこれより、バトルコロシアムの開催を宣言します!どうか皆さま最後まで最強が生まれるその瞬間を見届けてください!」

「わぁぁ!!」


 歓声が。破裂するばかりの歓声が闘技場を埋め尽くす。

 それに耳を押さえながらもメアリーはシャルドネが「それでは最初の戦士たちを紹介させていただきます」と言う声に意識を戻す。そうすれば、シャルドネが一歩下がり右手を上げた。


「まずは勇敢な戦士サタナス!」


 そうして左手を上げて続ける。


「そして勇敢なるものへロス!この二人の仁義なき戦いをどうぞご覧しょうあれ!」

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