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神饌の戴冠者Ⅰ・Ⅱ  作者: 綴咎
第一章 東の街リトス
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4ウィリアムという男


「ヤァ、昨日ぶり。それで心は決まったかな?」


 通された執務室で今日も書類の山を作るジャックはそう言った。

 昨日と全く変わらない部屋でメアリーたちを迎えたジャックはソファーに座る間も無くそう聞く。まるで答えはわかっているというような反応に少しだけ苛立ちと不満を抱えるものの、そう言ったものは一切無視してメアリーたちは断りもなくソファーに腰掛けてから返答した。


「コロシアムには出させてもらう」

「いやぁそれは良かったよ。早速、参加応募をこちらから出しておこうか?」

「いや、それはへロスさんがもう先にしていました」


 そういえば、ジャックは目を丸くさせて、それからニヤついた。

 それのなんともムカつく顔だろうか、心の中でメアリーは唾を吐いく。そのくらいムカつくし、なんと言っても腹正しかった。全ては自分の思う通り、そんな余裕さえ見せる。

 そんなジャックに悟られないようにメアリーは頬を緩ませないように頬肉を叱咤した。


 へロスの言う通り「コロシアム()()出させてもらう」と言った。

 その言葉は嘘ではない。ただし、ジャックの望むように景品を渡すとは言っていない。


 今までやられてきた、もしくはやってきた常套句。

 その入れ知恵はもちろんメアリーだ。本当のことを言うが真実は伝えない。このことを高らかに提案した時のアリオストロとローランドの表y上は一生忘れないだろう。もし万が一、三度目の人生を歩むとしたら流石に忘れておきたい。


「と言うことで、コロシアムに出ます以上です」

「待て待て待て、君たちそれで帰るつもりかい?なんかもっとないの?」


 さっと立ち上がったメアリーたちにジャックはまるで真新しいおもちゃを取り上げられた子どものようにそういった。

 それ以外?参加表明以外に何が必要なのだろうか、思わずメアリーはアリオストロを、ローランドはへロスを見て首を傾げる。そんな様子の四人に対して、ジャックは態とらしく「おほん!」と咳払いした。


「へロスが仲間になったとかさ、近況報告見たいのないの?」

「うわ、なんで知ってんだ」


 アリオストロはまるでドン引くようにそういう。

 その顔は最大限まで引き攣っており、影の協力者に向けてするような表情ではないことは確かであった。それに苦笑いをジャックは浮かべる。それからどこか安堵したような表情で「彼が仲間になったならいいんだ」と言った。

 その言葉の意味がわからずメアリーたちは更に首を傾げる。

 そうすれば、ひとり机上に置いた紅茶と思われる液体が入ったカップを取り、その湯気を「ふぅー」と吹いて消させた。


「昨日の様子からして、きっと義理堅い男だと思ってね。あの場ですぐに仲間になるもんだと思ってたから、昨晩はヤキモキしたよ」

「なんであんたがヤキモキしてんだ」


 メアリーの言葉に、ジャックは目を瞬かせてから喰えない顔で「そりゃあ、コロシアムの勝率は上がれば上がるほどいい」となんてことないように言った。情緒的なことを言ってくれるのだろうと期待したわけではない。

 それはちょっといいこと言ってくれるかなとか思わなくないが、期待するだけ無駄だと今回の件で察知した。


「へロスさんは仲間になりました。みんなの意見でそうなりましたマル」

「おお、メアリーそれは大雑把では?」

「あんたにはこれくらいだけでいいだろう」


 そう言って肩をすくめるメアリーにジャックは取り敢えずと言うように「ほら、まだ僕聞きたいことあるから座って座って」と言ってきた。

 こちらは何も話す気はなかったが、へロスが首を横に振ったのを見て皆嫌がるように席に座った。そんな様子を見て、さらに愉快そうに喉を鳴らすジャックは「本題にいこう」という。

 仕掛けてくる。

 それはメアリーたちの誰もが思ったことだ。

 今ままでのどこか緩んでいた空気はピンと糸が張ったように張り詰めていく。


「現実的な話をすれば、君たちがコロシアムで勝つと言うのは至難の技だ。これは強い強くないと言う意味ではなく、先頭にはどうしようにも運というものがあるからだ」

「セウズ神に祈れって?」

「おや、メアリー。君はセウズ神に懐疑的なのかな?」

「全員がセウズ神に祈ってたら意味ないだろう」

「それもそうだ」


 メアリーは敢えて話が逸れるようにグレーの位置から意見を言う。

 それによって依頼に対する言及を避けたのだ。別に口約束を破ったから死ぬわけではないが、今後の信用や信頼を賭ければ間違えなく依頼を失敗したと言う看板は背負いたくないだろう。

 特に発信力のあるジャックを前にそれをしたくない。

 して仕舞えば、どうなるかわからないからだ。


 だからあくまでコロシアムには出ると言ったが依頼を受けるとは言っていないと言う体制を作りたかった。


「まぁ話を戻そう。そしてその運要素をどうにかするには情報が必要だ」

「金取るのか?」

「君たち最後まで僕の話を聞こうか」


 だからメアリーはここに来る前にジャックの発言に茶々を入れると言う作戦を話した。

 気を緩ませない、依頼の話に飛ぶのを阻止する。それから、コロシアムの参加以外にジャックの提案するものを受け付けない。

 それがメアリーたちにできる最大限の抵抗であり防衛だった。


「要は僕が情報を与えようか。と言う話だ」

「要らん」

「話を聞こうか」


 もう「話を聞こうかbot」になりつつあるジャックを横目にメアリーは躊躇なく茶々を入れたへロスを見る。

 案外こう言うのに拒否感を出すかと思ったが、そんなことはなくノリノリでやっていた。もしかしたらそう言う才能があるかもしれない。メアリーの視線に気がつきメアリーを見るへロスに首を横に振ってから再度ジャックの話に耳を傾けた。


「これでも僕はこの国一番の商人だと自負してる」

「とんでもねー商人だけど」

「メアリー?」


 ついには「話を聞こうか」とも言わなくなったジャックにアリオストロは機嫌をよくした。

 と言うのも今まで色々やられてきた日々、後悔も罪悪感も与えてきた相手がこんなにもペースを乱されているのを見て胸がすくような気分になる。このままこのペースが続けばいいのに、そんなことさえ心に感じていた。


「まぁそろそろ本格的なところだ。くれぐれも邪魔しないように」

「わかった」

「はい」

「はーい」

「ウッス」


 几帳面なへロスとローランドの返事に比べてもう雑でしかないメアリーとアリオストロの返事に、らしくない苛立ちをジャックは浮かべる。なんというか、いつもよりも短気といえばいいのか、それとも雑といえばいいのか、そんな印象がメアリーの中に浮かんでは消えていった。


「君たちに情報を売ろう。それもビッグな情報だ。対戦相手からその相手の弱点、そいつの好みや嫌いなものまで全部調べてあげるよ」


 途方もない例えに皆が一様に首を傾げた。

 対戦相手まではわかるがそれ以降の情報が濃すぎて何もわからない。それに困惑していると畳み掛けるようにジャックは続ける。


「運要素は全て廃止てあげるって言うことさ」

「異議がある」


 ついていけなくなった話にそう言ったのはへロスだった。

 彼の顔は真剣そのもので、ぎらつく瞳には怒りが滲んでいるようにみえる。


「それでは相手を愚弄している。俺は俺の全てをかけて戦うだけ、戦士として認められない」

「何を言うんだい。君たちは魔物狩りの時に相手を知らずに戦いに行くのかい?行かないだろう?情報を聞き、徹底的に戦うそれの何がいけないって言うんだ」


 ジャックの言葉は的を得ていた。

 確かに相手が魔物であれば、どんな相手でどこに住処があってなど調べるだろう。だが、コロシアムはそうではない。相手はヒトでそこには各々賭ける思いがある。

 そう、アリオストロは理解している。

 だからアリオストロは口を開いた。


「それは魔物だからだ。殺し合いとか言ってるけど、敬意を表して戦うんだろうそう言うのって」


 まさかアリオストロが援護するとは思っていないへロスは一度目を見開いてから優しく笑った。


「と言うことで、話すことは以上です。じゃあ、コロシアムの日を楽しみにしていてください」


 それを見送ってメアリーはさっさと扉のほうにへと向かう。

 それに倣ってアリオストロ、ローランド、へロスが扉の向こうへといこうとした時、ジャックは最後と言うように引き止める。


「ところで、君たちさっき誰かに会ったかい?」


 それはコロシアムのことでも引き止めるための言葉でもましてや依頼のことに関する言葉でもなかった。

 純粋な、いや確定したような言い方。疑問符はついてはいるが、決して疑っていないと言うようなそんな迫力を持ってそういう。

 だからそれにメアリーはにっこりと笑っていった。


「さぁ、なにぶん大通りを歩いていたので」


 そういえば、ジャックは押し黙った。

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