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神饌の戴冠者Ⅰ・Ⅱ  作者: 綴咎
第一章 東の街リトス
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5新き仲間


「ちょっと、相手を殺さないって本気かよ!?」


 不殺の誓い。

 聞いているだけでは簡単に聞こえるが、実際は違う。相手よりも倍の力が無ければ不殺などできない。ヒトを殺すことよりも生かすほうがずっと難しいのだ、そのことをメアリーはよく知っている。


それをへロスが誓った。


それだけ強いという自負があるのか、またはメアリーたちのために誓ってくれたのか本意はわからない。

 だがそれだけ強いと思えるのは安心材料だ。

 そして安心材料とともに不安要素でもある。


「ああ、本気だ。決して殺さない。さすればジャックによる悲劇は生まれないだろう」

「だけどそれだとへロスの身が危ないだろう!!」

「問題ない」


 至極真っ当なアリオストロの言葉にローランドも高速で頷く。

 ヒトは死んでほしくない。けれどそれで仲間の命を危険に晒すのは間違えている。それを知っているからアリオストロは必死に撤回するようにへロスを説得しようとした。

 だがそれでもへロスは譲らなかった。何が彼をそうまでして奮い立たせるのか、メアリーは一向に理解できない。


 メアリーはまるで初めて見る生き物を目にしたようにへロスを見る。

 その視線に気がついたのか、へロスは大丈夫というように微笑んでみせた。その顔が何かとダブる。

 それはいつも安心していた微笑みのような、そしていつもそばにいてくれたヒトのような。そう言うなればオーガッシュ先生が時々見せる優しい微笑みと似ていたのだ。


 それに気がついた時、胸がドキッと鳴った。

 まるで都合が悪いものが目の前に死神の姿をして映ったような、そんな不安感がメアリーを襲う。


「何も無鉄砲に言っている訳ではない。ちゃんと自信を持っていっている」


 だから、大丈夫だ。

 そういう言葉にもやはりどこかオーガッシュ先生の面影を感じた。


「だけど、その、俺の我儘で」

「そんなことはない。ヒトを殺さない決意。それも突き詰めれば強さになるだろう」


 へロスの強い言葉にアリオストロは視線をへロスに向けた。

 ローランドはずっと何かを考えているようで、顔を伏せている。その中メアリーだけが何か置いてかれたような、いや置いてきてしまったような感覚を覚えていた。大切なものをものを自ら手放したような、そんな今更な後悔がやっとメアリーに追いついて喉を締めてくるようなそんな感覚。


「へロスさん。その不殺はウィリアムにも適応させるつもりでしょうか」


 メアリーを置いて話だけが進む。

 それを感じながら、メアリーはローランドの質問の意図を探す。

 ジャックの強さは知っている。

 地属性魔術でどれほど敵を圧倒したか目の前で見ていたからだ。そしてそれが本気ではないこともなんとなく察していた。そんなジャックがあえて「最強」と評した男。それに意味を見出すのであれば勝てるはずもない大きな壁として見たほうがいいだろう。それに不殺を掲げるのは実際ウィリアムという男を知らないメアリーからしても無謀であるような気がした。


「ウィリアムに関してはその実力を知らないうちにはなんとも言えん」

「そうですか、よかったです」


 ローランドの言葉にメアリーとアリオストロは目を合わせる。

 それはどういう意味なのか、なぜよかったと言えるのか、ローランドはウィリアムの強さを知っているのか。そんな疑問が疑惑として生まれる。だが、その次の言葉でその考えは変わった。


「私はジャックさんの強さを身をもって知っています」

「それは、どういう?」


 メアリーの言葉にローランドは情けなさそうな表情を浮かべる。


「実は神都ニフタに行く際に護衛としてジャックさんがついていてくれたんです」

「……なるほど」


 そうであるのならば、ローランドの言葉にも納得する。

 あの力を沢山見たということだろう。それならばローランドはジャックの口から「最強」と出たとき複雑な感情を抱いたのではないだろうか、そこまで考えて思考を振り落とす。たとえ本当にそうであっても今は関係のない話。

 というか、あのヒトは北の街ポスにも出現してローランドの護衛もやってたとか行動力の擬人化かよとメアリーは考えてしまった。


「ジャックさんは強いです。それこそ私が見てきたどの魔術師よりも、そしてどの戦士よりも強く彼こそが最強の座にいると思ってしまうほどにはその実力に関して私は疑ったことはありません」


 それ以外は疑ったことあるんだな。

 メアリーは遠い目をした。


「そんな彼をもっていして最強と言わせるのであれば、不殺を掲げた時点で勝てるとは思えません。普通に戦って良くて引き分けだと思っています」


 そこまでジャックは強いのか、へロスはあの怪しげな商人の印象を芸達者として覚えなおして頷いた。


「ならば最初から本気を出させてもらう。悪いがアリオストロそういうことだ。ウィリアムとの戦いでは不殺は一度封印させてもらう」

「いや、本当にコロシアムだけでも嬉しいぐらいだから、そんなに気にしないでくれ!今回のコロシアムだけってことにしよう?!」


 アリオストロの悲鳴じみた言葉にへロスは微笑んで頷いた。

 今後の旅、どのような敵が出てくるかわからない。少なくとも第三陣営に簒奪者ウェヌスタもいるわけで、ここでへロスが全ての戦いに不殺を掲げたとしたらチームの戦闘力がまた無くなってしまう。


 というかいつから全ての戦いに不殺を掲げると言ったのか、コロシアムの中だけという話であっただろう。


 メアリーはそうは思ったがなんとか話がまとまる中で水を差すようなつもりはなかった。

 まぁヒトは皆が皆パーフェクトコミニュケーションを取れるとは限らない。今回はそういうことだったとして処理をしよう。そう決めて、メアリーはやっと話の中に入った。


「方針は決まったとして、コロシアムの情報とか集めなくてもいいの?」

「そこらに関しては俺もある程度先に調べてある」

「コロシアムってどのくらいの規模なんだそもそも、何回戦すれば勝てるんだ?」

「そう言えばそうですね」


 本筋がコロシアムの話に戻る。

 それを感じながらメアリーはへロスを見た。そうすれば心得たというように「五回戦だな」と言った。メアリーはそこでおや、と思う。もしかしてそんなに数は多くないのだろうか、そう思ったがそれは思い違いだった。


「四つのブロックがあり、その中で八人の勝ち抜き戦が始まる。そこで三戦。ブロックの優勝者同士の戦いが一戦、最後に最終ブロックの勝者との勝負が一戦。合わせて五回だ」


 ということは、総勢三十二人でのバトルということか、結構ヒトいるな。

 メアリーは引き攣った口角をそのままに「それって一日でやるの?」ときいた。

 この時代模様からしてソファーやクッションなどは望めない。であるのであればお尻の危機だ。硬い石に腰下ろして何十時間も考えるだけでゾッとする。


「いや、最初の四ブロックは四日間かけて行われる」

「ではブロックの優勝者の戦いは一日で終わるスケジュールということですね」

「ああ、決着は五日で終わる」

「ちなみにへロスはもうコロシアムの参加の申し込みはしたのか」

「している」


 おお、話が早い。

 メアリーはアリオストロの質問の答えに素直にそう思った。というのも手続きにジャックの仲介を挟みたくないという気持ちもあったからだ。素直に嬉しいと思う。そんなメアリーの心情を知らずに話は進む。


「じゃあ、あとはジャックさんに話すだけで終わるな」

「それが一番嫌なまであるがな」

「いうなメアリー」


 アリオストロは嫌悪感を隠さずにそういう。

 メアリーも同様にその過程をすっ飛ばしたいと願うようにいうが、約束してしまったものはもう仕方ない。


「では、ちゃっちゃと報告を終わらせてしまいましょう」

「行くかぁ……」

「露骨に嫌がるなアリオストロ」

「お前にだけは言われたくない」

「行くぞ」


 やんのやんの言いながら、メアリーたちは席から立ちアスター宿場連盟の宿の出口へと向かって行った。

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