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第9話 キス

どのキスが彼女を惑わせたのか。

 結局生徒会はいい案が浮かばないからともう一度私を昼に呼び出し、全員参加型のイベントを考案させられた。


 私は参加者全員に簡単で可愛い罰ゲームの内容を書かせた紙を箱に入れ、宝探しゲームで宝のボールを探し出せなかった人にその箱に入った紙を取ってもらって罰ゲームをして貰い、最後に残った1名のみに賞品を与えてみるのはどうか、と案だけ投げた。手伝わない。尚、宝のボールは、人数が減ってやりなおし毎に、人数より1つ少ないボールを、参加者に目隠しをして執行部員に隠してもらう。


 それだけを伝え、早めに生徒会室から出ようとした私の腕を第一王子が掴んだ。


 私は慌てて振り払う。


「親しくもない異性の体に触れるなど、有ってはならない事です。王子でもある身、御自覚ください。そこのレイニーアに慣らされてしまったかも知れませんが、社交界では通用しません、王子なのですから確りして下さい」


「ふむ。私に触れられると大抵の婦女子は頬を赤らめてそっと手を添えてくるものだと思っていたが、やはりお前は違うのだな。面白い。正式に生徒会へ入れ」


「お断りします」


 色々とダメだ。なんだこれは。生徒会長はもうレイニーアの魔手に掛かっているのではないのか?ギッとレイニーアを睨みつけ、なんとかしろと言外に伝えるが、レイニーアにも予想しなかった反応だったようで、目を見開いてあたふたしている。


「そもそも婚約者がいらっしゃるんですから、このようなやり方は不適切です」


「あれは面白みがない。上品で美しく、足るを知り、私に求めてこない。二人の茶会を設けても、私の話に同意するばかりで、自らは政などの話ばかりで面白い話題の一つも振って来ない。これならば、内政の腕も有り、私を反応で楽しませてくれる其方の方が余程良い」


「それは貴方を立てて一歩下がった場所からサポートして下さると言う意思表示であって!妃としては相応しい事かと思います!私やレイニーアの方が貴方には相応しくない。それに、私にはもう心に決めた方が居ますので」


「っは!もしや兄とは言うまいな?」


 ここでどう答えても面倒になる事には違いがない。


「…ご想像にお任せしますよ」


「いやっ、不潔!不潔だわ!兄妹で結ばれようなんて!」


「レイニーア、一つ言っておく。私と兄は1滴も同じ血を引いていない」


「は…?じゃあなんで兄妹面して同じ家に住んでるの…?信じられない…!!不潔だわ…!」


 不潔だと…?私とお兄様の努力も知らずに…!!


「他家のお家騒動に口を出す気か。私も兄も、どれだけの苦労と理不尽に晒されてきたか知りもせず…!!!!」


 いくら前世の記憶があったって、悪意に塗れた大人の男と堂々と渡り合うのに何度心を潰しかけたか…!


「ふむ。ではその口調は、幼い頃から大人と渡り合うために身に付けたものか。大したものだ。騒動が起きたのは其方が3つの頃だろう?その頃から遣り合って来たのか?」


「当たり前です。兄の物である当主の椅子に他の誰も座らせずに済んでいる事から察してくれても良いんですが」


「そんな優れた者なら余計に生徒会に欲しい。会長相談役としてな。私がお前の案で手腕を振るえば、父上も結果に満足するだろう」


 何処まで人を馬鹿にすれば気が済むんだこの王子は!


「…私が考えたものをさも自分で考えたかのように発表したいという事であれば王家へ訴えた上で辞退しますよ。会長である貴方が差配せず、どうやって王たる資質を問えるというのですか。――しっかりしろ、お前は王子なんだろうが!!楽を覚えてしまえば、実際王になっても大事な決断などを他者に頼る癖がつきますよ。まあその点で言えば、今の御婚約者が一番貴方に相応しいのですが。王の目は確かだと言う事ですね」


「いいや。お前だ。お前こそ私に相応しいだろう?」


「私は自領の事にしか心を砕いたりしませんよ。他の領の事などどうでもいい。そんな妃は貴方に相応しくない」


「兄の役に立つ為か?健気なものだ」


「ええそうです。決して貴方の役に立つ為に動いたりはしません」


 王子は心底おかしそうに笑った。


「気に入った、必ずお前を手に入れてみせよう」


「…イベント前のみ、昼に相談だけならと言っていましたが、そんな事を仰るのならばもう二度とこちらには来ません」


「嫌です、そんな不潔な人にもう生徒会室に入って欲しくないです~!」


 焦った顔のレイニーアにはあまり余裕がない。心配するな。私も入りたくない。


「俺の決めた事だ。レイニー、楯突くか?」


「は…ぁぁあっ、あたし…っ!」


 ぶわりと涙を零したレイニーアが生徒会室を出て走り去る。会計と書記が後を追って行った。


「……来ないと言ってるでしょう。では、御機嫌よう。二度と話しかけないで下さい」


 王子達生徒会メンバーは全員同じクラスだ。全く顔を合わせないという訳には行かない。その事が非常に鬱陶しく感じる。休み時間、全てお兄様の所へ行ってもいいのだろうか…。


 そう思いながら生徒会室を出ようとすると、いきなり腕を掴まれた。王子だ。カッとなって振り向くと、唇に柔らかい感触。ついでべろりと舐め上げられた。目の前が赤く染まる。殺してはいけない、殺すな私。お兄様に迷惑が掛かる。殺してはいけない…!!


 真っ赤に染まった視界の中、王子が吹き飛ばされて壁に激突する。そこに血がついていない事に安堵し、唇を拭いながらお兄様の元へ走った。


 いつか、お兄様と。そう思ってずっと取っておいた唇へのキスを、あんな無能そうな王子に盗られるだなんて…!!


いつの間にか私は自分が泣いている事に気付いた。…ダメだ、こんな顔でお兄様に逢うと心配させてしまう…。


「アリル?どうしたんだ、こんなところで…何があった?」


 お兄様の教室の近くまで来ていた私は、すぐにお兄様に見付かってしまった。何故かさっきの王子のキスの痕が残っているような気がして、何度も何度も唇を擦る。


「アリル?アリル、やめなさい!真っ赤になっているじゃないか!」


 お兄様は私の腕を取って自分の胸に顔を埋めさせるよう抱き締めてくる。


「……服、汚れます……っ」


「何で汚れると言うのかな」


「……王子の…唾液で…」


 思い出すとまた涙が零れた。

 兄の声が一段低くなる。


「何をされたか、話してごらん」


「…っ、ふ、ぅっ…無理矢理…キ…っキス、を…っ」


 嗚咽で聞きづらいだろう私の告白を聞いた兄は眼を青く輝かせた。


「浄化・ヒール…あと、これは消毒」

「ぅん…っ?」


 兄の唇が覆い被さって来た。その舌がゆっくりと唇を辿って清めてくれる。


「んっっ…お兄様…」


 長いキスだったのか短いキスだったのか、沸騰した頭では上手く時間も思い出せない。


「…嫌だった?」


 真っ赤になった私は首を振る。嫌な訳がない!いつか、と思いながら夢見てたキスだ。お兄様はやはり私の気持ちに気付いておられたのだ。


「私は、お兄様を愛しているのですから、嫌な筈がありません……嬉しい……」


「今日はちょっとショックな事もあったようだし、私と一緒に早引けの連絡を入れて帰ろうか」

「はい…っ!」


 教師へと連絡を入れ、私とお兄様は誰も居ない馬車止めに……いや、厄介な先客が居た。レイニーアだ。


 今は色々あって、レイニーアの相手をする気力がない。


「……なんですか、笑いに来たのですか」


「いや、全く笑えない。君も生徒会に居るのなら、迷惑な会長を止めてくれれば良かったのに」


 ふと顔を上げてレイニーアは私の泣き腫らした顔を見て目を瞠る。


「会長が何か…?」


「ウチの可愛い妹に噛み付いて来る厄介な野犬だよ。首輪を付けて置いてくれないか」


 レイニーアの顔が醜く歪む。


「デュラン様だけでは飽きたらず、リベル王子まで…!節操がなくてはしたないわ!最低!!」


「妹は被害者だ。無理矢理されたと聞いた。こんなに泣いて、誰の所為だと思っているんだ!現実を見ろ!悪いのは王子だろうが!」


 びくっとレイニーアは身を竦ませる。本気で怒っている兄を見るのは初めてだったか。私達は感情が高ぶるとそれぞれの能力が暴走する。私は王子を殺さずに済んだけど、お兄様はどうも私の為にかなり怒っていらっしゃる。


 青く輝いた目からバリアのような透明に光る壁が形成され、レイニーアを心から拒んでいることを露にされている。


 色々ありすぎてショックを受けている私はなかなか涙を止められない。レイニーアなんかにこんな弱い顔を見せる心算なんてなかったのに…!


 レイニーアはまるで私が傷付く事などあるとは思わなかった、とでも言いたげな驚いた顔をしている。ああ、もう、お前は私を見るな!


「行くよ、アリル」


 そんなレイニーアを無視するように自分達の馬車へと向かう。いつまでもぐずぐず泣いている情けない私を、お兄様がお姫様抱っこで馬車へと腰掛させてくれた。午後の授業は休んでしまったが、私達はこの学園で過す3年分の勉強は既に自習済みだ。滅多なことでは勉学で困ることはないだろう。


「気鬱が晴れるまで私はお前の傍にいるよ。明日も引き摺りそうなら明日は学園を休もう」


「そ…、んな、訳、にはっ…」


「可哀想に…こんなにショックを受けて混乱して…こんな時に気持ちを明かした私も悪いな。すまない」


「いえ…っ!いえ!嬉しかった、です。凄く…っ!妹としてしか、見られてないかも知れないと、不安、でした、から」


「じゃあ」


 ――家に帰ったら、もっと私の気持ちを伝えてやろう――


 小さく囁かれたその言葉に顔を真っ赤に染めながら私は頷く事しか出来なかった。





「ワイス、見たか?」


「ええ、驚きました。マギですね彼女は」


「稀に王家の血を引くものから発生するという。私に相応しいと思わないか?」


「さて、私からはなんとも。レイニーの事は良いのですか?」


 王子は楽しそうに笑う。


「さてな。どちらにしろ、一番私に相応しい女を見つけたのだ。今はそれ以外はどうでもいい気分だ」


 ご機嫌な様子でチェスの駒を弄ぶ王子に、副会長のワイス――ワイオティス・セブリナ・ゲッティンデルトは眉を顰めてため息をついた。



お兄さんはちゃんと血の繋がりのない妹をどうやって娶るか算段中だったようです。

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