第7話 騒動
ヒロイン大暴走の続きですね
入学式のある日など、直ぐに終わってしまう。HRで自己紹介をして次の日からの持ち物などを指定されたプリントや選択授業を記入する用紙や詳しい冊子などを配られるくらいだ。私もお兄様も先に学園指定の物は揃えておいたので購買などに寄る必要もない。
お兄様も新しい教室などに案内され、新しいクラスメイトの自己紹介くらいで終わっている筈だ。私が前世居た世界では入学式に在校生が居る事は少なく、対面式というものがあるのが普通だったが、こちらでは各学年の足並みを揃えてあるようだ。
馬車止めに向かっていると、また後ろからぶつかろうとしてくる面倒くさいレイニーアを背負って投げ飛ばす。
「しつこいにも程があるぞ。殺されたいのか貴様…!」
「きゃ…いやぁああああ!殺人鬼だわ!殺される~!!」
最初から見ていた同クラスの人間は、流石に何度もこういう事を繰り返しているレイニーアを見ているので胡散臭そうな顔を向けているが、それを知らない人々はギョッとした顔でこちらを眺める。
「闇ギルドと組んでうちに誘拐を仕掛けてきた女が言う台詞じゃないだろ!!」
その台詞に更にぎょっとした顔がレイニーアに向けられる。
「散々ぶつかって来たり階段から落とそうとしてきたり、なんなんだお前は!!今日何回目だ!」
段々足を止めた人で回りに人だかりが出来ていく。
同クラスの人間はああ、やっぱり、という顔で頷いている。
「アリル!!どうしたんだい!何かあったのかい!?」
人ごみを掻き分け、お兄様が私の方へやってくる。ダメだ。お兄様が来てしまっては!レイニーアに被害を受ける人間筆頭と言わざるを得ない。
「お兄様ダメです!危険です!レイニーアです、逃げてください!先に馬車で帰って頂いて結構ですから!!」
「デュラン様!?やはり私の事を心配して…!嬉しいですー!」
「ッァアアッ!」
お兄様に集中していた私は、レイニーアに思い切り突き飛ばされ、野次馬の方まで飛ばされて転ぶ。私の肌はレイニーアのような特製ではなかったようで、大きく足に擦り傷が刻まれた。
こちらに向かってくるお兄様にレイニーアは大きく腕を広げて抱きつこうとしてお兄様に頬を思い切り叩かれた。
「え…?」
「私の妹に何の恨みがあるんだ、君は。毎度毎度……私に近づいて欲しくないという話を幼い頃にしたと思うが、もう一度言わせて貰う。私にもアリルにも近づくな!」
珍しいお兄様の険しい顔に周囲がざわめく。基本的に兄は人当たりが良く笑顔で居る事の方が多いのだ。
レイニーアは叩かれた頬を押さえて呆然とお兄様を見つめている。
座り込んだままの私の傍に来ると、傷口を見てお兄様は顔を顰めた。
「酷い…痛いだろうアリル、すぐに治してあげるから」
ふわりと青い光が放たれ、私の傷が癒える。
「もう帰ろう、ほら、馬車まで連れて行ってあげるよ」
ひょいと私をお姫様抱っこし、兄が馬車へ向かう。
「は、恥ずかしいです、あの、もう治りましたので、お兄様…」
「直ぐに助けに入れなかった私の不手際を詫びさせて貰えないのかい?」
「もう…お兄様ったら…ではお願いします…」
馬車へ向かう私達の会話を聞きながら、人ごみがざわめいている。
「今の…セイクリッド?」
「そうよね…凄い……扱える人がこんな身近にいらっしゃるなんて……しかも公爵様…」
「初めて『癒し』を見た…!感動的……!」
ざわめきは耳へと伝わり、お兄様が皆に認められている事にくすぐったい気持ちになる。嬉しい!
馬車へ乗り込み、お兄様への賛辞をBGMに家に帰った。
すっかり人が居なくなり、ぽつんと一人になった馬車止め。レイニーアは本来馬車で登校した訳じゃない。
「なんで?なんでデュラン様がセイクリッド…?それはあたしの筈なのに……」
唇を噛み締めて、長い時間立ち尽くしたレイニーアはやがて重い足取りで自分の家に戻った。
(ありえない、ありえないけれど、それよりも私だってセイクリッドであると証明する為に、第一王子の怪我イベントが起こらないと…!そのまま王子と…という未来もあるけど、やっぱり…やっぱり私はデュラン様が…!でも一応他のキャラも攻略しておいて味方につけて置く必要があるかも知れない…。特に第一王子は王族だから権力の面では申し分ない……デュラン様、待ってて下さい。アリルの洗脳のマギから私が必ず助けて差し上げますから…!それまでは…それまではデュラン様の傍から一時離れて第一王子を一旦攻略します……でも私は必ずデュラン様の元に帰りますから!)
決意を固めたレイニーアは、王子の攻略情報を思い出しつつメモを取る。他攻略キャラの情報も。殆どが生徒会、そして風紀に1人。生徒会攻略ゲーとも呼ばれたこのゲームだ。自分も生徒会へ入ろうと決意した。
(今年は第一王子の入学という事で、1年でありながら生徒会長はリベリスト・アッケンバル・フェリオ・デ・ロード=メッサニア王子だ。その他役職も、その御友人たちである攻略者で占められている。ただ、今回は副会長の筈だったデュラン様は、既に公爵家当主としての仕事がある為、生徒会には居ない。これもイレギュラーな事だ。本来は当主は乗っ取られてしまう為、仕事で早く家に帰らなければならないなんて事はなかったのだ。だからきっと私の知っている役職とは違って繰り上がっている筈だ。庶務として生徒会へ入れないか訊いてみよう…。でも、おかしい。どうして私の知ってる情報とデュラン様の情報がこんなにも違っているの?他のキャラもそうなの?――アリル?もしかしてアリルも転生者…?私とデュラン様の仲を引き裂いて自分だけがデュラン様を独占する心算、だとしたら辻褄が合うわ…)
レイニーアはぎりっと唇を噛む。
「負けたりするものですか…!デュラン様は渡さない……!!」
少し短くなってしまいましたが、キリの良さそうなところで切りました。
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