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第5話 襲撃

お馬鹿さん達のおはなしです

  ――5年後、兄が11歳の時に、それは起こった。


 代理当主のエッケンベル・シスト・マルデローニが何処かの賊を連れて養父の契約書を持って迫ってきたのだ。


 正直に言おう、私はこの小物が此処まで思い切るとは思わなかったし、今でも思えない。多分何処かの親戚と組んで乗っ取りに掛かってきたと思うべきだ。


 この5年、私は頑張った。海辺をリゾート化し、その周辺に私の自慢のパンやレストランなどの食事や軽食を提供する場所、お洒落なカフェなどを提案し、設えた。張り切ってデザートも考えた。


 全部私の渾身(こんしん)の出来だ。塩の工場はビーチとは違う場所に作り、定期的に売りに出している。にがりの誘惑に負けて豆腐を作ったが、今の所きな粉豆腐ケーキや豆腐ドーナツなどに使われている。副産物というか、豆腐にする前の豆乳は、自然といつの間にか牛乳の代替品としてカフェやスイーツに使われるようになった。


 お土産屋にはコーヒーを淹れるセットや真珠を発見できた為、そのアクセサリなどが並んでいる。今は真珠貝を集め、核となる尖った欠片の埋め込みから養殖で育てている。我が領はかなり発展したと言っていい。誘致した服飾店や宝飾店、小物店など、全てそれぞれ軌道に乗り、利益を出している。


 領民は豊かになった。農地は今でもビートや豆、小麦を植えており、農民全体にも余裕が出来、ちょっとした贅沢くらいは出来るレベルだ。――そう、領地自体の価値が跳ね上がっているのだ。


 一層暗殺者などや怪しい書類に気を配っては居たが、随分直接的な方法に出たものだ。さて、犯人はエッケンに全ての罪を押し付け、私に恩を売って養父になろうと何処かで待機している可能性もある訳だが……馬鹿の面をとっくり眺めてやろうじゃないか。


 そしてもう面倒になった。名だけでもお兄様に家督を継がせ、内政は私がやる。もしもどうしても解らない事があればヘクトに訊いてやる。いい加減エッケンにも、養父面でうちに入り込む他人自体にも辟易(へきえき)してきたのだ。


 子供当主だと舐められたって構うものか。骨身に沁みて解らせてやれば済む話なのだから。お兄様に迂闊(うかつ)に手を出す奴は必ず死ぬと。どうせ殺すならとことんやる。歯向かおうという相手が居なくなるまで殺し続ければいいだけの話だ。


 この程度の相手にサイまで加わると過剰戦力なので、サイにはもし私の目を盗んでお兄様の部屋に向かう者が居れば処分するように頼んでおいた。


 そういえばエッケンは私の力のこともお兄様の力のことも知らない。知らないままで別に良かったからだ。


 家の周辺の結界に侵入者ありと反応が有った時から、私はお兄様の部屋の前で待機している。兄には下手に何かを言うと危険に飛び込んで来そうだったので知らせていない。どすどすと品のない足音がこちらにまで響く。お兄様が出てきそうだ。私はそっとお兄様の扉の前より5m程前に飛び出しサイに目配せし、階段に並んだ賊とエッケンを見た。


「は…はは、貴方が悪いのですよ!清廉潔白である事を要求し、少しでも多めに報酬を頂こうとしただけでも是正(ぜせい)され、息が詰まるようでした!書類も一度少し偽装書類を紛れ込ませただけで刑罰を要求し、鞭打たれ…それ以降貴女は私に領主印すら預けようともしない。どんどん発展していく領に関係する特許は全て貴女が持っていて割り込む余地もない。遣り甲斐も見返りも見込めない仕事を後4年も続けるなんてまっぴらなんですよ!とっとと私に当主の座を渡して死んでください。そうですね、2年後くらいには死亡届を出しておいてあげます。さあ、サインなさい。大人しくサインすれば痛みなく殺してあげてもいいでしょう。書かなければずっと拷問が続くと思ってください。ザシャ!娘を捕らえろ!」


 呼ばれた男は前に出ようとしてそのまま動きを止めた。――ああ。目の前が赤い。

 つうっと男の首周りに赤い線が走ったかと思えばその首が転げ落ちる。


「――言いたい事はそれで終わりか、エッケン」

 転げた首をエッケン目掛けて蹴り飛ばしてやる。

「なっ…?はあぁっ!?なんですかこれは…」

「もういいな?全員死ね」


 バリバリッと音が響き、男達が火花を散らして燃える。ライトニングボムという雷魔法だが範囲魔法にきちっと敵が納まると気持ちいいな。全員が魂を返して息の音も心臓の鼓動も反応が無くなってから、男達を結界に包んで骨ごと焼き尽くした。血飛沫はクリーンという魔法で綺麗にする。証拠隠滅なんてこんな程度で済むのだ。これでもう誰かが此処で死んだなんて解りもしないだろう。塵は窓から捨てておいた。


 ――人を殺した。それがなんだ。お父様を殺したのだって私だ。今更何の感情も動かない。

 お兄様が部屋から出ようと暴れているのが解る。でもこんな所を見られたくもないし、お兄様を人質に取られるのが一番不味いのだ。出るも入るも不可能な結界に阻まれてお兄様が頑張っている間に私は残りの敵を殺す。全て終わってから、お兄様は結果だけを受け取れば良いのだ。


 そっと外に出て索敵魔法を使う。――居る。大体一個小隊程度の私兵か。()()()()駆けつけた事にしたいだろうに、そんな都合のいい集団で動いてたなんて不自然じゃないでしょうかね、どっかの親戚のおっさん。後ろでふんぞり返ってるけど、馬が可哀想だからダイエットしろ。――いやもう必要もなくなるけどね。


 私は庭木の土で顔や髪、服などを汚し、いかにも()()うの体で逃げ出したように外に出る。

 すると、笑ってしまうようなタイミングでおっさんは私の元に駆けつける。


「どうしたんだね!?何かあったのかね!」

「……いいえ…なにも…」


 怯えたように身を竦ませ、オッサンの腕から逃げる。触るな。


「怖いことがあったのだね?大丈夫だ私は君の味方だ。賊は私が倒してあげるからもう大丈夫だ」


「――何故…」

「ん?」

「何故、『賊』と言い切ったか詳しく伺っても?」

「え――あ?」


 風で部下を1人巻き上げ空中に固定する。そのまま両手両足をそれぞれの方向に重力を働かせて正しく4ツ裂きにする。


「あぎゃぁああああああ!!!」


 そのまま魔法を解くと、4つに分かれた死体がどちゃりと地に落ちた。


「話が聞けるまで、アンタの部下はああやって死んでいく。最後にはアンタがああなる。嫌なら計画を話せ」


「…な…君がやっている…のか……」

「はい、聞いた事にお応え頂けなかった為、罰ゲームです」


 また1人4ツ裂きにされ、先ほどの青年と重なるように死体が落ちる。

「待て、話す。話すから!」

「ほお?ではどうぞ」


 ――ああ、目の前が赤いなあ。必死な面してどう答える心算なんだ。

 ――おっさんが連れてきた部隊は、全員地上から1m程浮いている為、誰も逃走出来ないで居る――

「情報を!情報を聞いたんだ、君の家の代理当主が反乱を起こそうとしてると!」

「嘘が混じってますね。――もしかして私が子供だからって舐めてますか?」


 またひょいと部隊の者が1人巻き上がり、手足が――その途端、青年の口から絶叫のような声が響き渡った。


「賊と代理当主を言葉巧みに(けしか)けたのは子爵です!!それを我らに助けろと言われて来ました!!嫌だ死にたくない!」


「なっ貴様…!!」


 怒りで顔を赤くする子爵のおっさんは、後ろから今の青年の言葉を後押しするような声が続々と上がっている事に憤慨している。まあ、でも――。


「素直で良い子達……でも残念だなあ。それなら付いて来ちゃダメだろ?どうして付いて来ちゃったの」

「それはっ…命令で……」


「命令されたらいたいけな子供を意のままにするお手伝いをする心算で来ちゃったんでしょ?じゃあだめだなあ。私のチカラさえ見てなければ帰してあげても良かったんだけど」


 ――フレイムバースト。

 子爵の連れてきた私兵が全て炎に飲まれて塵と化していく。


「あ……あああ、ゆ、許してくれ、ちょ…ちょっと目が眩んだだけなんだ!この領に!」


 言いながらも、短剣を隠し持って襲い掛かろうとした体を土で拘束する。

 にこりと笑っておっさんを振り返る。


「オッサンは絶対許さない」


 手足の先から細切れになるように風がその身を切り裂いていく。


「いいい”っ痛ぁああああ”!!!たす、助けぁあああああ!!!!」


 ぼろぼろと情けなく泣きながら懇願されても、私の心がおっさんの為に動くことなど無い。

 最後は頭部も細切れになるよう風を操作して終わる。後は4ツ裂きの兵士と共に燃やすだけだ。


「ほんと、どうしようもない大人が多すぎるだろう」


 馬ごと燃やしたに関わらず、塵の量は風が吹けばその辺の土ぼこりと混ざってもうどれやら解らない。


 そんなことよりお兄様を迎えに行ってあげなければ!

 慌てて家に駆け込み、お兄様の部屋の結界を解除する。


 待ちかねたようにバタァン!!とお兄様の部屋の扉が開く。その手が真っ赤に腫れて血が出ていることに私は目を(みは)る。


「お兄様!!?その手は!!!」

「扉が…開かなくて…ッ」


 ぼろぼろと泣きながらお兄様は私を抱き締める。土で汚した事を思い出して慌てて私はお兄様を離そうとする。


「ダメですお兄様、汚れます!」


「汚れなんかよりアリルのほうが大事だ!!!なんで…なんで一人で無茶するんだ!!僕はいつでも守られるばかりで……どうして守らせてくれないんだ…」


 抱き締めるお兄様の体が震えている。私はお兄様をぎゅうっと抱き締め返した。


「お兄様が出て来ると、人質に取られる可能性があって危なかったのです…私がお兄様を守りきる自信がないのが悪いんです…本当に申し訳…」


「僕がもっとサイに教わって強くなれば…っ、僕も傍に居ていい?――頼むよ…アリルの傍にずっと居させて…」


 あぁ…そうか、これがもし逆だったら、私は泣き(わめ)いて居たに違いない。


「解りました、お兄様がちゃんとサイに認められれば、私の傍に居て貰っても大丈夫です。2人で頑張りましょう」

「うん!!!――うん……っ」


 安堵と共にお兄様の目から大粒の涙がぼろぼろと零れ落ちる。2人で泥汚れをシェアしてしまったのをそっとクリーン。私も安心してお兄様が戦えるように守備の魔法も磨こう。そうしたらきっとお兄様も笑って下さる…。ただ。


「お兄様、人を殺すことになりますよ。耐えられますか?」

「……アリルの手だけ汚す方が耐えられない…」

「お兄様……ありがとうございます…!」


 子爵一行は行方不明と扱われ、エッケンも同じように処理させた。少しヘクトのチカラも借りた。そして、11歳にして、お兄様は公爵家当主となった。これまで以上に身辺に気をつける事にした。


 サイからは学園入学までにある程度免許皆伝して貰える様に2人で特訓もしている。書類などは全て私が処理し、特に問題はなかった。暗殺者が増えた事以外は。


15で当主予定だったのですが、早まってしまいました。お兄様は転生チートがない分勉学に忙しいので、仕事はほぼアリルが肩代わりしています。お兄ちゃん頑張れ!

読んで下さってありがとうございます!少しでも楽しく読んで頂けたならとても嬉しく思います(*´∇`*)もし良ければ、★をぽちっと押して下さると励みになります!

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