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第15話 輪廻

短いですが、きりの良いところで切りました。次回で最終回です

 その光の中で、レイニーアはどんどんと縮んでいた。


「ぁ…ぁは…バッドエンドですか!?私やり直せる(リセットできる)んですね!?」


『えぇ、やり直し(生まれ変わり)なさい、このまま輪廻に飲まれ、赤子から。次の世ではもう記憶を残したりしません』


「ぇ…っ!? 待っ…」


 もうその時には言葉を発する事等出来る状態ではなかった。赤子となり、胎児となり、受精卵となり、ぷつりと消える。これは優しい殺人だ。レイニーアは今生、居なかった事になったのだと私は思った。


『今頃、どこぞの女の腹に宿ったと思いますが、貴族である可能性すら低いでしょう。最も多いのは平民と下民なのですから』


 下民とはスラム層の住人を指す。私達はこんな女神の一面を知らずに居た為、ごくりと唾を飲む。


『(こんなのは違う、やり直したい)と、彼女の頭の中はそればかりでした。望みを叶えて差し上げたまでですよ』


 にこりとようやく女神が笑みを零す。王子の腕は軽く震えていた。同じ穴の狢だ。似たような事でも考えて居たのだろう。その考えを肯定するかのように、女神は王子を見つめる。


『貴方も、やり直しを希望ですか?』


「いいえ、とんでもない事です」


『そう。真に人を好きになった際には貴方の婚姻は成るでしょう。人を心から好きになる努力を、私は貴方へ求めます。ゆめ忘れぬよう』


「はい」


『セイクリッドよ、マギよ、私の能力の一端を継ぎし者よ。貴方方の婚姻に、私は心からの喜びを覚えます。次代には両方を継ぐ者が現れてもおかしくないでしょう。その身を大事にして下さい。――私からの祝福です』


 ふわりと女神から放たれた淡い光が私達を包む。暫く発光していたが少ししてその光は落ち着いた。


『不死ではありません。少々死にづらくして置きました。何かあっても時間稼ぎ程度にはなるでしょう。貴方方を寿命で迎えに行くのを楽しみにしていますよ』


 この世で最も極上の絹ですらここまで滑らかではないだろうという御手で私とお兄様の頭を撫で、女神はふわりと宙に浮かぶ。何事も無かったかのように、ただ晴れやかな笑みを浮かべて。


『この婚姻に祝福を!』


 ――すとん、と納得が胸に落ちた。女神は最初から、誓約を横破りしたレイニーアに報復をする心算であったのだと。そしてその結びなおしの邪魔を危うく王子は成そうとした。決して良い感情を持たれては居なかっただろう。王子は呆然と震えながら腰を抜かしてしまっている。自分がどれだけ危うい橋を渡りそうになっていたか悟ったのだろう。


「王子。継承問題よりも心を大事にしたパートナー選び、頑張って下さい」


 呆然としたままの王子と、手出しを出来かねる兵士達を置いて、私とお兄様、サイとヘクトは式場を後にする。


 絶対にこれを結婚式だと認められない。これはただの誓約を結ぶ儀式だ。しかも横入りも入って滅茶苦茶だ。


 自国に戻って、ヘクトの信頼する神父に祝福だけ頂いて盛大な式を執り行う心算だ。なんなら神父役はヘクトでもいい。結構様に成っていた。祝詞を唱えるヘクトを思い出して小さく笑いがこみ上げる。


 それを見たお兄様が同じように笑っているのに気付いて、こそっと耳元に囁きかける。


(ヘクトの祝詞ですか?)


(アリルも?)


(やっぱり神父役をヘクトに頼みます?)


(…一番感謝している人だし、これ以上信頼出来る人はいないからな、そうしようか)


 くすくすと笑い合う私達を、ヘクトが怪訝そうな顔で眺めている。いつも取り澄ましているヘクトの焦った顔を見たのも、今日が初めてだった。


「ヘクト叔父様、国に戻ったら、神父役をヘクト叔父様に頼んでもいいですか?」


「!!? 何故私なんだ!?信頼出来る神父なら…」


「私達が一番信用出来るのはヘクト叔父だからですよ」


「!!」


 ぐ、っと息を飲んだヘクト叔父様は眉間に皺を刻みながら口を開いた。


「……まあ、そういう事ならやってやらん事もない。付き合いも長いしな」


 物凄い顰め面に反して、耳が赤い。本当に良い人に後ろ盾になって貰えたと実感する。


 ドレスや小物等はきちんと仕舞い込み、乗ってきた平民用の馬車から貴族用のクッションと揺れ対策の効いた馬車へと買い替え、馬を繋ぐ。必要な水や食料を積んで今度は急がず、15日掛けて国へと戻った。


 休養して貰っていた侍女やシェフに戻ってもらい、門番にもまたお願いをする。これ以降、レイニーアを警戒する必要がない事だけは伝えておいた。門番は少し首を傾げていたが、納得してくれた。


 男爵家では娘が消えたと一時期大騒ぎになっていたそうだが、娘の部屋に淡く光る手紙に気付いたそうだ。其処には、『本人の要望を叶え、生まれ変わりをお手伝いしました。次の生が良きものになるよう祈って下さい』と書かれており、両親のどちらもがその手紙を読んだ瞬間に、その手紙はふわりと光の粒になって天へと昇ったそうだ。


 そこで、女神の関与を確信し、何故、という気持ちを抱きながらも気持ちのやりどころがなく、涙したとの事だ。親不孝この上ない。


 王子は暫定で継承権を剥奪された。心から好きになった女性が王妃に相応しいかどうかも解らない状態では継承権は任せられないと王族に判断された。今は女性を吟味しながら観察しているらしい。


 式場は誓約を必要としない為、正規のものではなく、イベント会場でも神聖な雰囲気のある場所を選んだ。


 シンプルでも品の良い教壇を据え、顰め面で神父の衣装を着たヘクトが教壇に立つ。


 私達は笑顔で祝詞を唱えるヘクトに答え、誓いのキスをする。抱き締めあう私達の上に、精霊の撒く花が舞った。臨席してくれた友人や親族に祝って貰って、充実した結婚式をする事が出来て嬉しい涙が頬を伝った。


…バレたと思いますが、作者の贔屓キャラはヘクトです。黒髪ロングの少し神経質そうな眉顰め系美中年です。

読んで下さってありがとうございます!少しでも楽しく読んで頂けたならとても嬉しく思います(*´∇`*)もし良ければ、★をぽちっと押して下さると励みになります!

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