第13話 別邸
なかなか思い通りに進まないようです
暫く危ない、という事で来客を指定した人物以外を邸に入れない様に門番に言っておく。特に王子を通さないよう命令したが、相手が王族という事で難しいかも知れない。レイニーアは随分前からとっくに危険人物として伝えてある。
一度破壊された神の誓約は、結びなおすのに1月の期間を要する。この1月をどう不干渉で乗り越えるかが問題だ。1月後の再婚についてはヘクトに連絡もしておき、用意を任せてしまった。1月の間どうしようか。私達二人は他の人間とも1月の間神の誓約は出来ないが、その1ヶ月の間に浚われて意識を奪われたりしてしまえば。やり方如何で無理矢理他の誰かと結婚させられる可能性がないわけじゃない。
3つほど離れた国に、親父が道楽で立てた別邸がある。其処で1月をやり過ごすのも悪くないかも知れない。この別邸の事は、他の誰も知らない事だからだ。正妻・愛人と囲っておきながらまだ遊ぶ為に建てられた別邸だ。使用してない間は管理人に報酬を払っていたが、滞らせなくて良かった。
私の価値観ではそんな無駄な物は手放すべきだと思っていたからだ。ただ、お兄様が、きな臭い事が続きそうだから、念の為に避難場所として確保しておいた方がいいと言ったので残しておいた。それが役に立つ時が来たのだろうか。
門番の方がにわかに騒がしい。こんなタイミングで現れるとすれば、誓約を破った当人くらいだ。そっと様子を伺うと、思ったとおりレイニーアが門前で騒いでいる。今回使ったゲームのアイテムが何か、他にどういうアイテムがあるのかを知りたいが、聞き出せるとも思えない…何よりこの家にレイニーアを上げたくない。
「デュラン様ー!貴方を縛る誓約は、このレイニーアが解いて差し上げました、今なら私の手を取ってくれても大丈夫です!アリルから逃げるチャンスです…!1月後、私と…!私と婚姻しましょう!」
…寝言が聞こえる…。でも、やはり誓約を解いたのはレイニーアか。どうやったか知りたい…でないとこの先結婚する度に無駄にされてしまうかも知れない。
「…お兄様、どうします」
「……非常に不本意だが、カラクリは知りたいな…。しかし、逆に他の怪しい手を使って此方に何を仕掛けて来るか解らない……今日の所は手紙だけ掴ませて返事を聞いてみようか…」
お兄様は、デスクでさらさらと手紙を書いた。物凄く嫌そうな顔で書いているなと思ったら、レイニーアとの婚姻を仄めかすような誘惑と共にその際に同じ手口で誰かに婚姻を破られると困るから、それを防ぐ手立てを自分も知っておきたい、と言ったものだった。確かに微妙な顔になる内容だ。
お兄様はそれを家令に持たせ、門番の所で止められているレイニーアに渡しに行く。受け取ったレイニーアは少し不満そうな顔をしたが、手紙を受け取った事で一旦戻っていった。
「…一旦返事を待つか…引っ掛かるほど頭が悪いかどうかは解らんが…」
「うーん…でもレイニーアはお兄様が関わるとIQ2くらいになってますから…」
「IQ?」
「あー…頭の良さ?数字が多い程頭が良く、低いほど頭が悪いです。お兄様からの手紙という事で、きっと明日には返事があるでしょう。反応次第で対応を変えれば良いと思います」
「まあ、今は返事を待つ事以外は…レイニーアの反応から、王子が何かを察してこないかという事だな。アリルも、王子に狙われてる事、忘れないでくれよ」
忘れた心算は無かったけど、お兄様の危機の方に気を取られて自分は二の次になっていた。自分にはマギの力もあって抵抗が出来る事で楽観的になっていたかも知れない。お兄様はバリアは使えるけど、その外側を固められれば為す術がない。
「ごめんなさい…お兄さまの次に自分の事も考えます…。でも、出来ればずっと私の傍に居て下さい…私に守らせて下さい」
「アリル…私にも守らせてくれよ」
「勿論です、お兄様」
次の日、レイニーアからの返事が届いた。
「お兄様…これ…」
「都合が良いが都合が悪くもあるな。身の回りに気をつけねばならない…」
『デュラン様とアリルは一度誓約を破られていますので、2度目はありません。私との結婚であってもデュラン様が1度破られているので、一度結婚すれば、もう破られる事はないです。アリルも同じです。王子と結婚すればもう逃げられないです』
後はお兄様への愛を延々書き綴ってあったが、其処はスルーし、重要そうな情報だけを読み取っていく。どうやら他には重要項目は1点だけ。
『王子はデュラン様を人質に取ってアリルを娶ろうとしてるようですが、大人しくしていれば特に何もしない約束なので、大人しく拘束を受けて下さい。アリルも暴れられないように処置する予定ですので』
肌がピリつく。多分それは私が大人しく王子に良いようにされるほど弱体化させられるという事だろうか。やはりレイニーアは迂闊に家に上げられない。それがどんな手段かは書かれていなかった。誓約の方もだ。
飲食物なのか、結界型なのか、散布型なのか、吸入式なのか、呪術のようなものなのか。備えるのが難しい。しかもこの書き方。王子とレイニーアは組んだようだ。解消させた本人が組んでいるのだ。いつ婚姻が出来るようになるのかはレイニーアから漏れていると思った方が良い。
「ふざけた真似をしてくれる…!マギやセイクリッドを封じる方法があるって言うのか…」
ギリッと歯軋りが漏れる。此処と3カ国移動するのと、どちらが安全だろうか。
「学園は1月、休みを申請しよう。タリス、申請してきてくれ」
「はい」
家令に命令をした後、何も仕込まれないように注意をしてから送り出す。
「どうしますか、お兄様。1月此処で篭りますか?別邸へ行きますか?」
「此処に居る方が期間ギリギリで押し込まれそうな気がするな…。道中に気をつけねばならないが…」
「結婚はあちらで済ませてしまえば、行きに気をつけさえすればかなり安全かなと思います」
防備を固めた馬車だと目立ってしまうが、簡素な馬車でもしバレると突貫された時に危ない。
だが、バレてしまってはそもそも意味がない。別邸がバレたら来られてしまう。なるべく平民の使うランクの馬車と平民の服をサイにこっそり手配するように頼む。
そんなバタバタした最中に、全く空気を読まない暢気な甘えた声が門の方から響く。
「…レイニーアか…」
「お兄様…手紙の内容が調子に乗らせていると思いますが…近寄るのは危険です」
「…どうすべきかな」
「………私なら離れて会話をしても不審に思われないでしょう。不在だと言ってやります」
「――気をつけろよ」
「はい」
私は門から200m程はなれた場所まで歩いて行き、レイニーアに声を掛ける。
「お兄様は今不在だ。明日にでも出直せ。ヘクト叔父様と大事な話をしに行っている」
「ヘクトお義父様の間違いでしょ。なのに、婚姻も成っていない今の貴女が此処に住むのは間違っているんじゃないの?」
レイニーアはこちらをキッと睨みつけて言う。
「何処かの頭のオカシイ女に解かれなきゃ、今頃領主伴侶としての気品すら身について居たかも知れないがな。いやあ。何処のピンク頭に邪魔されたものやらな」
「なっ…誰が頭のオカシイ女…っ!ふ、ふん、どうせ貴女にはゲーム知識がないんだから、抗いようもないでしょう?大人しく諦めるのね!」
ニヤニヤと笑うレイニーアから、手段を聞き出すのは無理そうだ。チッと小さく舌打ちをする。
「まあ、いくら騒いでも今はお兄様は居ない。明日以降に出直せ。泊まりになるかも知れない事を考えると明後日の方が確実だろうがな」
「~~~~~明後日なら確実に居るのね!?出直せばいいんでしょ!!」
こういう頻度で訪ねて来られる事を考えても、やはり此処で篭城は悪手だな。
怒りを表すようにガツガツと荒い足取りで去り、馬車へ乗り込む音が響く。私は背を向けて家へと戻った。
「お兄様。最低でも明日まで、上手くいけば明後日まで来ないでしょう。今日中に荷物を纏めてサイの調達した馬車に、平民の服。荷物は最低限で…、従業員の方々には、危ないので1月の間休養して貰って、賃金だけは払っておきましょう」
「そうだね、急いで準備しようか」
避難するとはいえ、1月だ。そこまで大仰な荷物にすることは無い。夕方までには従業員にお金を渡して邸を後にし、サイを含めて3人で3国先の別邸へ向かう。場所を知っているものは居ない。この、当主の机の引き出しの隅に残されていた地図以外には。
平民ランクの馬車で3国分の移動は、思ってた以上に疲弊したが、重量軽減のマギなどを駆使し、なんとか到着出来た。現地の管理人に鍵を貰って入る。本邸と比べるとかなりこぢんまりしているが、3人で住むには問題ないスペースだったし、部屋も全て分けられた。現地でシェフと侍女を雇う。1月未満のタイトな雇用だったが、少し多目に賃金を出してなんとか確保できた。
「なんとか…なりそうですね。式場などが何処にあるか、確認して欲しい、サイ」
「はい」
スッと消えたサイは有能だ。今迄頼んだ事を失敗した事はない。
「移動時間に10日掛かったから、あと18日で婚姻可能な筈だな。邪魔が入らないとは思うが…実際に婚姻が終わるまでは気を抜かずに注意して行こう」
「解ってます、ちょっと距離の近いこの期間、なんだかもう夫婦みたいで嬉しいですね」
くす、と笑うとお兄様も少し嬉しそうに笑って私に口付けてくれた。
小さい家で暫くの間身を寄せ合って暮らすのも楽しい2人です
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