閑話
足掻く人々のお話です
●レイニーア
あたしがヒロインたる証であるセイクリッドへと覚醒するのは、瀕死の怪我をした第一王子を癒す力が発現する事で成される筈だった。それは渡り廊下の事故。時期も解っていた為渡り廊下の様子には気を使って観察していた。
問題の、王子が通りかかった上で瓦礫が降って来た時、来た、と思った。3Fから落ちかけている王子を、風紀委員長のルーデル様が引き止めている。いくら攻略キャラがチートでもあんな体勢じゃ長く耐えられない筈だ。会長の落ちてくる地点辺りへ駆け寄る。もう直ぐだ。もう直ぐ私のセイクリッドが覚醒する…!
心配そうな表情を装いながら、心の中では期待で一杯にしながら落下予定地点で第一王子の落下を待っていると、赤い光が王子を包む。上でバランスを崩しかけている風紀委員長も赤い光が包み、安全な地点まで移動させられる。――あたしは呆然とした。3階で窓際に居たアリルを見ると目が赤く輝いている。――マギか!あたしの邪魔をまたするのか!こんな事は認められない!
やはりアリルは聖乙女♥セイクリッドを知っている。転生者に違いない。だからヒロインであるあたしを邪魔して悪役令嬢の運命から逃れる心算なのだ。カァッと頭に血が上るが、瓦礫で怪我をした生徒を見て、試してみる事にした。
(ヒール…!!ヒール!ヒール!ヒール!)
全く青く輝かない事に絶望を覚えつつ、あたしは自分の教室へ戻る。怒鳴りつけてやりたいアリルは既にこの教室には居ない。スキップして1つ上の学年へ行ってしまった。この燻る怒りをどうぶつけてやればいいだろう。あたしのゲーム攻略をここまで無茶苦茶にされてしまうなんて。
しかも、デュラン様と婚約したと聞いた。あたしのデュラン様と!!王子もアリルを妻にしたいと言い出すし、こんな事が起きるのも全部アリルの所為だ!あたしがセイクリッドの力を覚醒さえすれば少なくともあたしは王子の歓心を買った筈だ。
近いうちに何処かで正体を暴いてやる…所詮アリルは悪役令嬢である事を知らしめてやるのだ。
「ヒロインはあたし…!デュラン様はあたしのものなんだから…!」
その後、早々にデュラン様とアリルが結婚したと聞き、あたしは盛大に久々の癇癪を爆発させ、また地下の座敷牢に入れられた。
もう、待っては居られない。ただの悪役がヒロインの邪魔をするなんて許されざる事だと、アリルに言って聞かせねば。私はアリルへの手紙を、彼女の靴箱に入れた。昼休みに校舎裏の花壇前まで来るようにと。
【090-●●●●-●●●● 上記『携帯番号』というものを知っているなら、昼休み、校舎裏花壇前まで来なさい】
かくして、彼女はまんまとやってきた。こいつはNPCじゃない。プレイヤーだ。
「貴女、自分が悪役令嬢だって解って行動してるの!?」
途端に彼女は首を傾げた。
「悪役?…令嬢?」
…まさか?そんな…事が…いやいや、惚けているだけだわ!
「惚けないでよ!聖乙女♥セイクリッドってゲームをやったでしょう!?」
「なんだその変なタイトルは…私はゲームはマ●オとカー●ィとゼ●ダくらいしかやったことはない」
「!?貴女転生前は男だったの!?」
「失礼な事を言うな!前世の話だろう?女だったよ!」
「女の癖に有名乙女ゲーの聖♥セイをやった事ないなんて信じられない!」
「乙女ゲー…ああ…なんかキラキラしたパッケージの…面白そうと思ったことがないからやってない」
「ここはその聖♥セイのゲームの中なのよ!ヒロインのあたしが結ばれるべきデュラン様と悪役のアンタが結ばれるなんてバグも良いところなのよ!ありえないんだから!解ったら身を引きなさいよね!」
すると、アリルはその綺麗な顔を歪めて私を睨む。
「私はこの世界がゲームだと思ったことはないし、精一杯お兄様と2人で生き残ってきた。何一つ恥ずべき事はしていないし身を引く必要があるような事もしていない。お前はこの世界がゲームだとでも言う心算か!話にならない!失礼する!」
うっすらと赤く変色し掛けた目を逸らし、彼女は教室へ戻っていく。
「なによ…ゲームじゃなかったらなんなのよ…攻略対象は全員出て来るし、全員名前も同じで、学園もクラスも同じ…現実な訳がないじゃない…あいつが単なるバグキャラなんだわ…」
あたしは、アリルの居なくなった校舎裏に暫く佇んでいた。
●リベリスト王子
するすると流れるように俺の手の内から零れていく。何故こんなタイミング良く俺の打つ手から逃れる事が出来るのか解らない。これもマギやセイクリッドの能力なのか?兄妹である事を弱みとつけ込み、婚約を持ち込もうとすると、親戚宅へ養子に出た挙句に先に婚約をされているという始末。
キスだけは初めてのようだったな。なかなか新鮮な反応だった。あれは良かった。たった唇を合わせて舐めた程度であの反応。楽しいったらなかった。好きな男と一緒に住んでいて、あれだけベタベタにくっついていて、キスもした事がないとは!デュランの野郎はとんだ腰抜けだ。
では今あいつを抱けばきっと初めてに違いない。流石に王子である俺を殺さないよう自分を抑えながら反撃して来ていた様だし、死ぬことはない。それより反応が気になる…ああ、あいつを俺の下に組み敷いてみたい…。
父にマギ且つ内政手腕のあるアリルが如何に王妃に相応しいかを話すと、婚約を解消させ、俺の今の婚約を解消して、アリルと俺との婚約を強制させる方向で話は進んでいた。
そこに間諜からの報告が入る。「只今、結婚式を挙げ終わったところ」だという。何故もう少し早くに連絡しない!?結婚式を邪魔する事だって可能だっただろうに!だが、間諜曰く、物凄いスピードでの挙式だったそうで、気付いた時には教会へ移動が終わっており、駆けつけた時には式が終わり、神との誓約も終わっていたという。
神の誓約を破ったものには相応の報いが返ると言われている。だが、それは祝福を授けた精霊の格に依っては報いの程度も変わるものだ。一体どんな妖精からの祝福と誓約だったか問い質すが要領を得ない。姿はほぼ見えなかったが、消えていく際の一瞬だけは見れたらしく、大きかった事は確実だ、との事。
大きさはその精霊の格を表す。下手に手出しが出来なくなった。後日、結婚式の写真を見ると、輝くように微笑む女神の降臨が映し出されていた…。
流石にこれはお手上げだ…。どうにか…どうにか出来ないものかと誓約の抜け道を探してみるが、シンプル故に幅が広い。付け入る隙が見当たらない。こんなに俺を煽っておいて、逃げられると思うなよアリル…そのうち、何らかの方法でデュランと別れさせてやる。
そう、例えお前が未亡人となったとしても。
自らの破滅を以ってしても自分の望みを優先するのかどうか、というところでしょうか。
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