川
一人の藩士が、城下町で切腹した。
政を顧みず、贅沢三昧の藩主が年貢を上げる事に対して、再三諌言したが聞き入れられず、遂には主を諌めるために、腹を切るに至ったのだ。
しかし、城下町の中心で、大衆の面前で切腹した事に、恥をかかされたと思った藩主は怒って、藩士の遺体を領内に流れる川に投げ棄ててしまった。
その年の秋から、大雨が降り、風が吹き荒れ、川が氾濫して、作物が不作になってしまった。
不作がいつまでも続き、これには藩主のみならず、領民まで困ってしまい、藩士の祟りだと噂するようにまでなった。
或る日、藩士の嫡男が朝起きると、枕元に手紙があった。読んでみると、死んだはずの父の筆跡でこう書かれていた。
ならぬことはならぬ。為すべきを為せ。
嫡男は手紙を母に見せ、二人は決心した。
その年も、天候が荒れ、川が氾濫しそうになっていた。
嫡男と母は白装束で身なりを正し、川に飛び込んだ。二人は流されて、遂に遺体も見つからなかった。
すると、荒れていた天候は収まり、川も静まり、その年は豊作となった。
領民たちは喜び、藩主もこの話を知り大いに反省して、以降は質素倹約に努め、政にも精を出して名君と言われるまでになった。
この話は今でも地域に残っている。
話に出てくる川は三洲と呼ばれており、必ず三人で川に近寄ってはいけないと、今でも伝え続けられている。