1話 ハナシという彼女
最初から回想を入れると、げんなりする人もいるかもしれない。
俺だって物語の初めはワクワクするようなバトル展開、はたまた続きが気になる構図にしたい。ただ、それをやってしまうと、俺の人生はフィクションで嘘になってしまう。
いやー自分の人生を書くとなると、小説のセオリーが通用しないから困った。
とは言え嘘も書けない。
まぁ……なんだ、このやり方をやらないと、いろいろと面倒な説明文ばかりになってしまうから、我慢してくれると助かる。
あれは、高校入学前。俺と三神の人生の歯車が噛み合ってしまった瞬間だろう。歯車って、ありきたりな表現方法だが、それ以外に比喩しようもなかった。
短い回想……スタート。
……
………………
「…………そうか、なるほど……。君は素晴らしい考えをできる人のようだ」
褒められると、むず痒い気持ちになるだけで。
「普通だよ、普通。こんなことで褒められても恥ずかしいだけ」
「そんなことはない、自信を持つといい」
『東井ミサ』は、普段と同じ、柔らかい笑みで俺を見つめている。他から見ると男言葉のような話し方は違和感だろうと思う。だけど慣れきった俺にはこれも普段通りのミサで問題ない。
ミサに褒められたのは、A4サイズの紙を数枚束ね【無題】と書かれた表紙、その物体の内容である。
「この三神って主人公、最後はどうなるんだ?」
「やっぱりハッピーエンドで終わらせようと思う」
そう言ってストローを口にくわえ、炭酸の効いたレモン系の飲み物をいっきに飲み干す、のは喉が悲鳴を上げたので中断した。ミサが内容を読み終えるまで顔には出さなかったが、内心落ち着かなかったからだろう、飲み物を注文していたことすら忘れていた。
「ふふふっ、それも君らしい」
真っ直ぐに俺を見つめ、惚れてしまいそうになるくらいの柔らかい笑みをまた浮かべる。より可愛さが増している気もする。
「それで本坂」
今度はニヤニヤ含みの表情に変わる。
「これだけではないんだろう? まさか大切な昼食時間に小説を読んで欲しいという理由で会いたいわけでは」
「な、なにを言う。いつも読んでもらってるじゃないか」
なにかを言われても、冷静に対応できるよう心に準備していた言葉を使う。俺の小説を読むのはミサだけで、いつも読んでもらっているのは嘘ではないし大丈夫なはず。
「まるで準備していたような言葉だ、相変わらず嘘は苦手かい?」
バレバレって怖い。女の勘って怖い。
「う、嘘なわけあるか」
「ならそろそろトイレに行かせてもらっても良いだろうか、そのまま教室に戻って次の授業の用意もしたい。女っていうのは大変だよ」
明らかにわざとだ。なにか確信をもっての発言。
「いや、すみませんでした、はい。あります用事が」
気付かれてるのに、一人芝居をする気力はない。
「さあ、言ってもらおうか」
この質問は、もしかすると本当の意味で気付かれてしまう不安もあった。だけどミサのことだ、気付いていても何も言わないで微笑んでくれるかもしれない。
「いやー、そのーあの。ミサはどこの高校に行くのか聞きたい」
………………
……
壇上で話す少しだけ頭の寒そうな校長に興味はなく、ふと物思いにふけていた。
入学から一ヶ月後に待っているのは、どうやらやる気の無さらしい。この時期には真新しいことも目新しいことも無く、ようするに心のどこかには緩みのようなものが発生する。
それでも微妙に偏差値の高いこの学校には、その緩みを思いきり表現するような頭の弱い人間もいない。
世界平和を本気で願う俺のこと、何もなく高校生活を過ごしていたいと思う。
そして一ヶ月に四回はあるこの集会は、全ての生徒が体育館へと強制参加で、いつも校長の叱咤激励に始まり愚痴で終わる、なんとも歯切れの悪い集会である。
一ヶ月もの経験と情報があれば、結構なことは理解してるんだろうと自画自賛っぽいことを言ってみる。
相変わらず聞き流すだけの作業の聴覚に、受け止める話し声がかけられる。
「昼飯はどこで食べるん?」
友人と言えば友人になるだろう、お互いに深くは知らないが浅くもないはず。
名前は確か、
「山田花子とか」
「誰が山田花子やねん」
「おっと心の声が」
木坂ホナミ。本坂な俺の名前は、木と本という惜しい差に親近感を覚えたらしい木坂が、トイレから出てきた俺に話し掛けてきたのを記憶している。ファーストコンタクトにしては、なんとも言えない心情。
「まぁええけどな。そんで、どこで食べるん?」
「どうせ部室で昼食だろう」
「なんや、今日も部活やなんて青春しとるなー」
「他人事みたいな言い方だな同級生」
「うちはあれや、青春する若者を見るのが青春」
「変わった趣味としか」
朝から昼食の話しなんて気が早過ぎないのか、そんなツッコミに木坂は「ダイエット中で腹減ってしかたないねん」と答えてくれた。今日もエセ関西弁は軽やかに饒舌のようだ。
そろそろ新入生も気が緩みがちになる季節、勝って兜のなんとやら。
校長の愚痴はそれで終了、各自解散となる。
教室に戻った俺は、一時限の授業の準備を始めた。
無難に授業を受け、空腹という言葉の文字通り腹が空になってきた時間帯には昼食タイムとなっていた。
「ほな、はよ行こか」
チャイムと同時に終了した、授業の束縛解除を合図に木坂がひょこっと俺の前に現れる。顔を覗き込む木坂のショートな髪が垂れる。
「あー、そうだ。ついでに購買に行かない?」
俺は言う。トン、と持った教科書とノートを机に軽く叩き揃える。
「ほな、購買にレッツゴーや」
揃えたけど、なんだかんだで適当に机の中へ放り込んだ。
「うーん」
「どうした」
「うちに似合う消しゴムってどれやろか?」
「それなら…………そこの青と白がナナメに線が入ったカバーのやつ」
地味に大量な消しゴムの豊富さにはいつも驚くが、見渡したなかでなんとなく木坂に似合う物に指を差す。
「ならこれ買うことにするわ」
「ついでに買ってやろう、ほら渡せ」
「お、良いん?」
「手書きは大変そうだから」
「おぉー、ありがとうや」
「ほぉ、本坂、青春しているんだな」
東井ミサは、購買部制服の、エプロンに似たその服を着こなしてはそこに居た。ストレートな髪が今日も綺麗に束ねられている。
「な、なにか勘違いしてない?」
「古い知り合いの恋路を邪魔はしないが、せめて声援くらいは送っても構わないだろ?」
「何を言うとるん? 邪魔して貰った方が恋は燃えるんやけど」
おい、お前らはノリノリだな、おい。
「ってそうだミサ、言ってなかったけどおめでとう」
「何にたいしてだい?」
「生徒会に入ったから」
あぁ、そのことか、それを言いたげな納得した表情から変化して、
「激励に感謝しよう」
ひょいとスカートの端を摘んで持ち上げ、お姫様がやるような礼を俺に見せた。いろいろと冗談なのは分かるが、ミサがやると本気にも見えて何とも言えない。
「それとモテモテな本坂に頼み事があるんだが」
「頼み? なんだよ」
「まあ、伝言の方が正しいかな。暇になったら伝える」
「んー。了解」
それでは、ミサはその言葉を残し去って行った。あ、いや。ミサはその言葉を微笑みながら言っては去って行った。こっちの方が正しいかもしれない。
「そや、ついでにインク買ったらどうや?」
「パソコンの印刷に使う?」
「そうやけど?」
「それはパソコン部の友達からタダで貰う約束したから大丈夫」
「そかそか、それなら良いんやけどね」
腕を組んでオーバーに笑う木坂を見ながら、なにげにしっかり者なんだなと俺は思う。
レジまで行くとミサのお出迎えで、手際の良いスムーズなレジ打ちの早さに関心してしまった。
買った物を鞄に入れ、C棟へと向かう。この学校の校舎は、A棟、B棟、C棟で構成されていたりする。クラスの各教室、職員室があるのがA棟。保健室に家庭室や放送室のよう、特別な教室があるのがB棟。
運動部や文化部に縛られず、全ての部活動に使用される部室で構成されているC棟。俺と木坂は、その部室だけで構成されたC棟に用事があった。 C棟内部もきっちり構成されていて、外に出る回数が多い運動部は一階や二階付近に部室が多く、移動の少ない文化部は上の階に位置していたりする。
もちろんエレベーターもない。最高四階まであるので、下の階にいる運動部部室が上階にいけば、運動がてら良いのに、と何度思ったことか。
そんな俺は文化部に所属していて、部室は四階に位置している。 全く、運動が苦手だから文化部に入ったのに意味がないじゃないか。
C棟、そこはもう基本的に生徒の自由地帯で、何がなんだか分からない。壁には部員募集のポスターが至る所に貼られ、試しにそこの野球部ポスターを朗読してみると『部員! 求む! 君も一緒に彼女を作ろう! 野球部』なんて、ツッコミを入れるためのポスターから始まり、『PKで勝ったら一万円! サッカー部』と、怪しいものまで色鮮やかなツッコミの練習ができるポスターばかりだ。
もちろんこれは色の濃い面子を紹介しただけで、まともなポスターの方が若干は多い。
昼休みとなれば、ほとんどの生徒はC棟に集まり自由な時間を過ごしている。走り回る足音や床に座り雑談する人まで、多種多様の十人十色。
教師に怒られる気もするが、何となく「普段は頑張っているからこれくらいは大目にみよう。ただし、他ではめり張りをし、きちんとルールを守るように」みたいな雰囲気を感じられる。
まあ、学校としてもC棟の自由を対価に、学力の高水準と清く正しい雰囲気での地域への好評価を得るのなら安いほうだろう。
もちろん、生徒も自分達の楽しい自由を守るためにC棟以外の校内生活は、制服の乱れなく、床に座り込んで話すようなことはしないようだ。なんとも分かりやすい人達なんだ。
騒がしい一階を過ぎ、木坂の昼食は楽しみという話しを聞きながら二階を過ぎる。ダイエットの理由は、夏になったら海に泳ぎへ行くためということまで聞き、三階を過ぎる頃には静かな廊下を歩きつつ一緒に泳ぎに行こうという誘いに曖昧な返事をし、階段にうんざりしてきたときには無事に四階に到着した。
一階に比べれば騒がしさは雲泥の差がある。文化部に所属する人には内向的なイメージがあるが、間違いではないようだ。
そして俺の参加する部活動、それは、
「そういや、なんで本坂は文芸部に入ったん?」
「うおっ?!」
「ん? どしたん?」
「あ、いやなんでもない。小説書くの好きだったから」
自分の心を読まれているかのようなタイミングには驚いた。
「そっかぁ、うちとおんなじ理由やったんやね」
「俺がいなかったら寂しかっただろう部長さん」
「そうかもね」
がちゃり、とドアノブに鍵を入れてロックを解除する。
ようこそ文芸部に! 部員は二人です!
……。
…………。
悲しい感じは否めなかった。
木坂ホナミ。文芸部所属。文芸部部長。
本坂テルユキ。文芸部所属。文芸部部員。
なんとも簡単な全紹介である。
昼休みは、いつも通りに談笑しながら飯を食べ、残りの時間に談笑しながら小説のテロップを考える、いつも通りの昼休みだ。
パソコンが一台だけ置いてあり、きっと卒業した顔も知らない先輩が使っていたものだろうと思うのだがあるなら使わせてもらっている。
俺はパソコンで個人の小説を作成、木坂は手書きの方がいろいろと意欲が出るらしく手書きで作成している。パワーバランスとしては良いと思う。
そして昼休み、授業、授業と時間リレーして、現時刻は放課後になる。
もっぱら授業内容を知識として補強することはしない。『睡魔に対抗する力に全力を挙げ、そのせいか授業内容に配分する力は見当たらないが、まあ仕方ない』なんて学園物の主人公が言ってそうだが、その通りだ。
俺はただの一般人、しかし授業にやる気がないのは同じ。
まあ仕方ない。
鞄に入った教科書の重たさが、そのまま体の疲れになりそうなので、明日も使う教科書を机の中に入れて軽量化しようとしていたら。
「あらま、置いといてみ? 担任に怒られるで」
「経験者は語る?」
両方の肩に手を置かれ、頭の上から話し声が急に聞こえたが、俺にフレンドリーに接する女子はこいつを抜いたら他にいない、と思う。
「そーやな、女の子には厳しい重さやったから置いといたら怒られたんや。担任は女の敵や、もう世界大戦勃発やで」
「そっか、よし。それなら部室に置こうか」
「……その方法があったんや」
「おい」
ニヤリとしているであろう木坂の言葉は聞かなかったことにして、部室に向かう。もちろん教科書は部室に置いておくことにする。
さて、いきなりだが少し見て欲しいものがある。
それは小説だ。
文芸部に所属して一ヶ月。テロップが完成するような本腰で製作したものではなく、ふらっと気まぐれに書いたものについて。部員が二人だからって適当な部活内容ではない、そんなことを証明したかったからである。
と言っても、完成もせずボツになった短編だ、まあ短すぎるのは許してほしい。
読んでる間に、俺は部室に行くことにする。
【タイトル:無題】
部長的指摘コメント文章
『関西弁は世界一や。あと誤字あったで? 気をつけたほうが良いんちゃうん?』
毎日、眺める外の景色。
僕はそのどうしようもないくらい飽き飽きとした、外の景色を変えたかった。
どうしたら良いのか、その結果には早く辿り着けた。
だけど、どうしたらそれを実行できるのか分からない。
実行に必要なお金もないし権力もない。
そうだ、今から勉強してお金と権力が手に入いる仕事に就職したらいいのか。
そこから僕は頑張った。
毎日、勉強をした。
病気になっても勉強した。
そして、頑張ったおかげで一流の大学へ入った。
そこからもまた頑張った。
どの仕事に入ったらお金と権力が手に入れれるか調べ、見付かったらその仕事に入るために有利な資格も取得した。
卒業するころには就職活動をする他の人達を尻目に、僕は目標としていた仕事に就職。
そこからもまだ頑張った。
お金は給料のやり繰りで大金を貯金することができたが、ただの社員では権力がない。
面白い企画書を提出。会社に有益なアイディアを渡す。人柄も良く思われるために愛想よいコミュニケーションもした。
そうして時間が流れるにつれて、私の地位は副社長までになった。
わざと副社長を目指したのだ。
社長になってしまうと、会社を守るために頑張らなくてはいけない。
私はあの外の景色を変えたいだけだ、そんな面倒なことはしたくない。
そして、あの頃憧れた、外の景色を変える準備ができた。
何十年振りだろうか。
ワクワクやドキドキといった心をもったのは。
休暇の日に、秘書を連れてあの景色の場所まで行った。
久しぶりに見に行くあの飽き飽きした景色は、既に変わってしまっていた。
川は埋め立てられ、木々は刈り取られ、コンビニや駐車場、大型量販店へと既に変わっていたのだ。
私は喜ぶべきだ、必要な経費を抑えることもでき、他人の力で目標が達成されているのにも関わらず、世間から冷めた目で見られる心配もない。
こんなにも有り難い事はない。
しかし、晴れ晴れしい気持ちではなかった。
そして私は行動した。
あの飽き飽きとした景色を、もう一度見るために戻そうと。
相変わらず木坂部長は、眠っていた。いやいや、眠ろうと思って寝たんじゃないのは分かる。
書きかけのテロップの上で、すやすや眠っている=限界突破したわけだろうなーと思う。
それが部長の方針なら従うしかないので、起こさないようにはしよう。
行き詰まってしまい、とっくの昔に電源を落としたPCを前に何と無くすることもなく、ただ椅子に座っていた。いつもはこんなことはしない。暇になったら校内を歩いたり、他の部活動を見たりと、それなりに暇を潰す行動のパターンがある。
しかし何故だろう、今日はこのままでも良いような気がしている。いや、外に行こうと思えば行ける。
それなのにこうして、ただ待ちぼうけ自分から、みたいな暇を持て余している。
木坂部長の寝顔は、なんだろう、可愛かった、よだれ出てるし。
じゃなくて。
俺は椅子から立ち上がった。
なにかないかと必死に必死を混ぜ合わせ考えた結果、用事の件を思い出した。ミサからの用事の件。
俺の自意識過剰かもしれないけど、寝ている木坂を残して行くのは不安な気がする。
この睡眠ペースなら、次期の冬眠も繰り越し延長しそうな勢いで眠っている。
「あぁん……本坂…………そこは触らんといてぇ……」
………………。夢の中の俺、いいか絶対になにもするな。そう思いながら木坂を起こす。起きた木坂は「なんで起こしたーん? 良い夢やったのにー」なんて愚痴を言っていたが気にしないことにする。
あーだこーだと愚痴る木坂とたわいもない口論をしながら、気付けばC棟から離れていた。そしてもう一つ気付けば、そういや木坂も同行していた。
苦いコーヒーを飲み込めないような、もやもやしたなにかもありはしたけども、今更引き返せと言う度胸もなく、まあミサが何も言わなければ木坂が居ても問題はないだろう。
井東ミサ……は、古くからの知り合いで幼なじみと言っても良い。
騎士のような話し方が確立していたのは、曖昧ながら小学生からだったように思う。
性格も騎士道のなんたるかを知っているかのような性格で、正々堂々、これがピッタリな人もいないように思える。
出会った十数年の経験から言えるのは、あんなに格好良い女性はこれから俺の人生でもそうそういないんじゃないかと言い切れるくらいだ。
「なんでにやけてるん?」
「に、にやけてない」
木坂の読心術は、評価に値してしまう。今度からは気をつけよう。
「あ、そうだ。ミサがどこにいるか分かる?」
多分あそこだろう、程度の情報しか持ってなかったから、どうせなら確信した情報が欲しかった、木坂なら知っているかもしれない。
「それやったら知ってるで」
「よし、それはどこ?」
「井東さんならもう帰っとったんやけど、ほら? あのー教科書を机の中に入れたら怒られるーって話してたときに」
「なら部室からここまで降りて来た意味を見失ったぞ。なんてこった、またあの四階を駆け上がるのか」
「井東さんに用事あったん? なら言ってくれたら良かったんやけど?」
「木坂がいても、ミサは何も言わないし大丈夫だと思う」
「ちゃう、まだ寝たかった」
「そっちかよ!」
運動不足が仇となってしまい、部室に到着するころには心拍数は平均以上の数値になっていた。部室に戻る途中で木坂の階段を駆け上がるスピードが速くなり、いつしか争いになり、負けたくなくて、走って、疲れた。
ばか木坂め。
そのあと俺達は、というか俺は、いつものように部活動を終えた。木坂はまた寝ていた。
「おーい木坂。教科書置いて帰るから、明日は早く部室に来いよ、聞いてるのか? 部長が鍵を持って来ないと大変なことになるんだぞ」
「うーん……」
「聞いてるのか、これ」
不安ながらも心地良く寝ている人を起こすのは、俺の良心が痛むのでこれ以上はなにも言わない方がいいだろう。
俺はこのまま木坂も置いて帰ることにする。木坂はこのあと体育館で行われる、町内の物好きな老人達に空手を教える指導をしなければいけない。
「またな、このあとも頑張れよ」
「ほなまたなー……」
「聞いてるのか、これ」
学校で木坂とわかれ、家に帰宅する頃には日が沈み始め、今日一日も、そろそろ終わりそうだ。
よろよろと、残業の終わったサラリーマンのようにベットに倒れ込んだ俺は、そのまま目を閉じて夢の世界に入ろうとしたのだが、
「ねぇ! 遊ぼうよ!」
「遊ぼう遊ぼう!」
弟と妹の無邪気な圧倒的武力によって叩き起こされた。
本坂ミクと本坂リク。
俺に似ずに可愛い顔をした双子の弟妹が夜空に輝く一等星のような、汚れの無い目で俺を見ている。
ただ、体力ゲージ点滅中の俺にとっては、その聖なる光りによって致命的なダメージを受けている。俺は闇属性かもしれないが、遊んでやることにして、解放されたときには、まさに死ぬように眠っていた。
しかし、
「お〜いテルユキ起きろ〜」
「…………」
「起きないと……こうだから〜」
「……痛いっ!! 痛い痛い痛い!!」
今度は酒臭い姉によく分からないプロレス技かなにかをかけられ、
「な、なに」
「久しぶりにゲームしよう」
「い、今は何時だと思う」
「んー、四時半」
「今日も学校だから寝たい……。あと姉ちゃんも仕事あるだろ」
「今日は休みなのら! そしてお姉ちゃんの言うことが聞けないならこうだ!」
「分かった分かった分かった分かった分かった分かった!! だから止めよう!」
俺に力があったなら、この知らない技から抜け出せただろう。そんなことを思いながら朝まで姉に付き合わされることになる。
……いつか俺の部屋に鍵を取り付けたいと思う。
目覚ましが起きる合図を知らせる、その前に起床。これを自分自身で成せたなら、清々しい朝になっただろう。
今の俺は清々しくないし、というか清々しいのは俺ではない。
「朝は良いぞ。しゃきりとできる。うん、スタートという感じもするし」
この騎士様は規則正しい生活なのは、なんと無く想像できる。だからって生活環境を他人に押し付けるのはダメだよ。
「あと三時間だけ寝かせてくれ……」
「今、たった今、起きたのなら。どうせならそのまま起きててくれないだろうか? 私の我が儘で……すまない気もしてしまうが……、悪い事をやっているつもりもない。構わないだろ?」
「あと……二分……」
「起きないとキスするぞ?」
「……はえ?!」
「嘘っぱちだよ、君の姉はやはり君の事を知っているようだ」
「それで、なんでまたミサが?」
目の覚める言葉のおかげか、あのあと一向に眠たくはならなかった。姉の策略に負けた気がして、朝から陰鬱となりながらも姉に感謝しよう。
「君の姉に頼まれたからだよ」
「断った方が良いんじゃないか」
「昨日は朝方まで付き合わされたと聞いた、それが原因で遅刻されても困るそうだ。それで、確実に起床させる為に私が派遣された、そういうわけだ」
「なるほど、適任な役職」
身支度の終わった俺は、朝から眠い冴えない顔でミサを見ていた。元から冴えない顔だろって言うな、現実は厳しいんだ。
「あれ、それで姉ちゃんは? 今日は休みじゃなかったけ」
「未だに成長している胸の大きさにちょうど良い下着を買いに行くと言っていた」
聞かなきゃよかった。
「私も女として君の姉を羨ましいと思ってしまう」
羨望の眼差しは俺ではなくて、姉にしてくれ。
「あ、なら朝食は買うとするか」
「ふふっ、本坂。胸はないが私も女の端くれだぞ?」
「幼なじみが朝食を作ってくれるのは現実では存在しないイベントと思ってた」
「ゆで卵しか作れないが」
「やっぱり現実は厳しい」
うん、無難にコンビニ弁当を買うことにした。
学校へ向かう最中、いろいろと懐かしいと感じていた。
小学校に所属していた頃は、まだ善悪の判断ができない未熟な子供、集団で行動して不審者から身を守るという方法を親に取らされていた。集団と言ってもミサと二人だったけど。
中学生になれば、誰が悪い奴かくらい判断できるようになり、知らず知らずにミサと登校や下校をしなくなっていた。
昔と同じ体験しているとなれば懐かしい思いになるのは当然の摂理。
なんだか年寄りみたいだけど。
たわいない会話を繰り広げていたらいつのまにか高校に到着していた。
楽しい時間は勢いよく過ぎていった。
重要なことだけ言えば、今日の昼休みにミサに会わなければいけないことだろう。
校門でミサと別れ、俺は迅速に行動する。部室に置いていた教科書を拾わなければいけない。
上履きに履きかえる前に、木坂がいるのか確認のため寄り道することにして、正面口を見据えつつグラウンドに向かう通路を進み、グラウンド側から文芸部室の見える四階を見上げる。窓もカーテンも閉じられ、明らかに無人の気配だ。
何故か、にやける木坂部長の表情が思い浮かび、とっちめてやろうと考えたが、まあまだ時間はあるさと言い聞かせる。さて、教室に行こうかと思ったら、
「そこの君っ!!」
早朝ということもあり、人のいない静かなグラウンドに声が響いた。そこの君、とは俺のことで間違いなさそうだ。
視線を声の方へ向けると、そこには金色の髪をした長髪で、顔の整っている、なのに寝癖付きな、
「木坂は誘拐した!」
可愛い人がいた、じゃなくて、ええええ?! い、今、なんて言ったこの人は。
「木坂ホナミは私が誘拐した!」
いきなり誘拐って言われたが、なんなんだ。
唸っていると、
「だから木坂ちゃんは誘拐したんだって……」
なんだ、その助けてあげた方が良いんじゃないのかい、みたいな視線は。
「えーと……なんで誘拐を?」
「いけにえに捧げて雨を降らせるのさ!」
「降らせるのさ! じゃなくて」
「嘘だよ〜木坂ちゃんはね、ほら! 部室に居るよ! おかしいよね〜参加しないなんて〜」
「会話のキャッチボール……」
「あ、そろそろ行かなきゃ。私の名前はサクラ、君の名前は?」
「本坂テルユキ」
「オーケー、テルユキ君。今度あったら手作り弁当でも持ってくる。それじゃっ!」
サクラと名乗る少女は、スカート翻し颯爽と駆け足で去って行った。
意味を求めても意味は無く、ただ呆然と漠然の中間地点にいる俺は数秒して動きを始めた。
なんだったんだ?
再度、文芸部室四階を見上げると、窓とカーテンの開け広げられていることに気が付いたと同時に我に返った。
俺は、金色の髪をした少女の立っていた場所を数秒だけ見つめは、正面玄関へ向かった。見つめた行動に意味は無い、はず。
「なんや、眠そうな顔しとるな」
「……カッコイイ顔じゃなくて悪かったな」
時間は早々と経過し、昼食時間もとい休み時間もとい昼休みが始まった。
教科書の件は遅れてやってきた木坂の、上目遣いテヘッ、な謝罪だったので頭を軽く叩くだけにした。
「どんな顔でも嫁さんはくるって、安心しとき」
「どんな顔でもって」
「そんなことはいいんや、はよう部活に行って活動タイムや」
「そういえば、平凡な日でも昼休みに部活があるのは文芸部だけじゃない?」
「うん、そうやけど?」
「なんで昼休みにも部活があるんだ?」
「なんでやろうね〜、そんなことよりも、はよう部活行こう」
「はぐらかすなよ」
「んな、顧問に聞いてもらわへんとうちは知らん」
「部長だろ」
「痛いところを突かれたわ……」
「あ、そうだ。先に行ってていいぞ。あとから行く」
「んー了解や、なんか用事でもあるん?」
「あるんやー」
「真似するな!」
「へいへい」
ノリノリでツッコミを入れて来た木坂の笑顔が何となく印章に残った、教科書を机の中に放り、そそくさとミサのところに向かうことにした。
今の時間帯なら、購買で店員さんでもやっているはずだろう。
俺の予想は半分のみ当たっていた。
「やあ、待ってたよ本坂」
購買にはいたが、店員さんではなかった。本人に聞いてみると、どうやら休憩中らしい。パイプ椅子に座って昼食中だ。
ミサの担当は用具関係らしく、隣の食品関係の客の賑やかさと比較しても明らかにこちらの人数は少ない。「楽な仕事で申し訳ないね」と言いつつも微笑んでいた。
「それで、用件は?」
「ちょっとこれを見てほしい」
食べかけのあんパンを膝に起き、椅子の横に置いてある鞄からひょいとなにかを取り出す。それを俺に渡す。
「私の知人に渡されたんだ」
「……ゲームソフトだな」
勇者の持つような剣を空に掲げて、希望溢れるようなイラストが描かれている。
「なんでゲームソフト?」
「前の学校ではバスケ部に所属していた知人が、親御さんの都合で転校することになったという、この学校のバスケ部は強かったかな? いや、話しが逸れたか。その知人に是非ともやって欲しいと言われ渡されたんだ」
「……なるほどね」
話し方は男っぽいが、見た目は可愛いミサのこと。バスケ部ってことは男だろう、その男が少しでもミサに近付こうとする作戦だと俺は予想した。
「それをなんで俺に?」
「私はそのゲーム機の本体を持っていなくてね、宝の持ち腐れになるくらいなら本坂にやってもらいたい」
「いや、それなら良いけどさ」
「あともう一つだけ……これは用事というよりも、頼み事と言った方がいいかもしれないが」
「なんだ」
「内容は聞かないでくれ、それを約束してほしい」
ほがらか、そんな表情とは言い難い。決心した表情、そんな言葉がピッタリかもしれない。俺の頷きを見て話し出す、
「本当は参加してもらいたくはない、このまま本坂には楽しい高校生活を過ごしてもらいたいんだ。例えばの話しになるのだが…私とテル君が敵対しても……全力を出してほしい」
話しの内容は、全く意味が不明だった。普通なら理由を聞くのだが、内容を聞かないと約束してしまったからには何も言えない。ジョークだろうとも思った、だけど昔の愛称で俺を呼ぶミサを冗談だとは思えない。
「それでは私も営業再開としようか、休憩時間も終わりそうだからね。ありがとう本坂、また話そう」
椅子から立ち上がり、にこやかな笑みを残して関係者専用入口に入って行った。
今日は変なことが多い日だ、これで木坂にも何かあったら誰かの策略としか思えない。
そんな俺の心配とは違い、いつもながらの木坂だった。
部室での部長の仕事、睡眠時間を補っているその寝顔は、相変わらず馬鹿が付くような幸せそうなものだった。
時刻は七時を過ぎた頃だろうか。家に帰宅した俺は、昨日のようにダラけてはいなかった。
ミサから預かったゲームをする気にはならず、俺もゲーム離れしてきたのか、なんて思いながら、どうせそこの扉の後ろに待機して、どう突入するか作戦会議中のリクとミクの相手をしてやろうと思う。なんだかんだで可愛い弟と妹だ、良いお兄ちゃんと思われたいという下心と純粋に楽しませてあげたいという、生々しくも明確な行動理由を持って接してみる。
悪いことをしない良い子になる道標くらいなら、俺にだってなれるだろう。
頼むから、弟と妹よ、特に妹、姉を見習うのだけは勘弁してください。おしとやかで可憐な女性になるんだ。
こっそりと扉を開いて、ばれてないつもりで部屋を覗き込んでいるリクとミクに、引き出しから取り出したトランプを見せて笑ってみることにした。
「トランプのタワーでも作るか」
「うんっ! 作ろう!」
「わーいっ!」
「つ、疲れた……」
中盤は、崩れ落ちるトランプタワーを見る方にシフトしたようで、俺の集中力によって積み上げられた器用の産物を、ミクのふー、と吐く息によって崩壊、それを悔しがる俺、そして大爆笑のリク。
終盤には帰宅してきた姉も参加し、というか邪魔をしに参加、さすがの俺もゴールの見えないこの作業に嫌気がさして投げ出す頃には「つ、疲れた……」となっていた。
さっさと風呂に入って、寝ることにした。
次の日、思っていたより快調な一日の始まりだった。昨日の疲れを今日に持ち越さないのは、若さの成せる回復力だけに、年齢を重ねるこれからは疲れてしまうのか……そう思うと……疲れてきた。「行ってきまーす」
たまには良いだろう、いつもは言わない挨拶で家を出るのも。
これで外が快晴なら言うことはなかっただろうね。土砂降りの一日という天気予報を見たおかげで、心情負荷は軽減されたけどさ。
無地の透明な傘に当たる雨粒を見上げ、これが飲み水となるのかと知ってしまっている俺は複雑な心境。
水なんとか機関みたいな会社の人達が水に含まれる汚れを取り除いて、水道を通っては飲み水となる。
知的なことを言ってみたが、詳しくは知らないので底が浅い知識人として頑張ろう。無音ではない足音と雨音を聞きながら、学校の校門が見えたとき。
俺の見ていた現実がぶれた。
なんだ、今のは。
ゲームのスイッチを起動したときの、テレビ画面の初動のぶれみたいな、残像? いや、違う、俺が口で言えばブインみたいな起動したときの映像の揺らぎ。
目を凝らしてそこら辺の物を見ていたが、バカバカしくなって止めた。
直立不動の、トマレという標識を見ている自分の頭を殴りたくなる。なにを真剣に見てたんだ。どうやら危ないのは目じゃなくて、頭の方かもしれない。
さっさと、校門に入りつつも目を擦る。昨日はまさに、目を目一杯使ったせいだろう。
疲れがで、
「そこのバカ。武装せずに何故こんな所に来ている」
武装? 学校に制服姿は完璧な武装だと思うわっ?!
「聞いてるのか」
「な、なんだ……その大剣……」
俺の背丈を悠々と超えている剣は、太陽の光りを反射させ、切るより叩くに近いであろう形状である。
余りにも学校とは不釣り合いの光景に、動揺してしまった。
「はぁ? 戦闘フィールドで武器を持つのが変なのかよ」
「受験生なら学校は戦闘フィールドだろうけど、その……模造の剣をこっちに向けないでくれ。段ボールで造ったのか? それなら凄いと思うが」
絶賛を贈りつつ、そのまま校舎に向かおうとしたのだが、
「ふざけんなっ! 俺は二年のミチルギっ! お前の名は!」
「……テルユキ」
「よし、名は聞いた。おりゃあああ!!」
迫る大剣、振り下ろされるそれは俺の頭上。はい? なぜそれは俺に向かって振り下ろされるんだ? 理解できず、反応が遅れてしまう。
疑問に支配された体は、動くことすらしない。
現実離れしたこの現実に、俺は適用なんて、できていない。
これ、大剣が本物だったら死んだな、そんなシュールを冷静に分析していたら、
「おりゃっ!!」
「うお!?」
今度はなんだ、俺に一直線と振り下ろされていた大剣が、停止した。
いや、正確には停止ではないかもしれない。
「やっほーテルユキくん、ごめんねー。お弁当持ってこなかった」
「なんでお前がいるんだ……」
昨日、見た、サクラと名乗る少女が俺の前に立っていた。手に持っているのは槍だろうか、その槍を使って大剣を止めてた。
ますます意味が分からない、なんなんだこの絵図は。
「あれれ? バトル学区なのになんで何も持ってないの?」
バトル学区? 初めて聞いた言葉に困惑してしまう。
俺が悩んでいるのと同時に、サクラは受け止めていた槍で大剣を振り払っていた。
やはり威力の高そうな大剣だけあって、振り払われるとその重さで重心がずれ、立て直そうとするさなか大きな隙が生まれ、初心者に近い俺にすらそこが攻撃ポイントだと分かってしまう。
「うりゃっ!!」
サクラの改心の一撃だろう。声を出してまでの気合いを入れ、リーチの長さを生かしての攻撃。
ミチルギと名乗った先輩の頭上付近に、数字が現れた。
『27/100』
すると、サクラの攻撃によってその数字は変化し、
『0/100』
と、表示された。
多分だが、ミチルギ先輩のHPや体力のような類いだろう。
俺は表示されていたそれを見つめていたら、
「く、くそ! 負けた!」
その言葉を言ったあと、ミチルギ先輩は消えた。さっきも見た、映像のぶれ、映像の揺らぎを残して。
「よかったー、他の所と戦ってたのかな? 体力もともと低かったよねー?」
「サクラ……なんなんだこれは」
気が付けば、俺の手から離れていた学生鞄を拾うサクラを見ながら言った。
「んーとね、電波仮想だぜー。だぜー」
話し口調が統一していないサクラから、学生鞄を受け取り俺は周りを見渡す。
普通だ、いつもの校舎、いつもの空、いつもの見慣れた日常、変わった所なんて…………いや、違う。人の姿が見当たらない。
朝の登校時間まで、まだ時間はあるが、一人も登校者がいないのはおかしい。いつもなら結構な数の登校者がいるはず。
サクラは電波仮想と説明した、なら……
「ここは俺の知ってる世界じゃないのか?」
実際は数秒だろう、ただ、聞いた俺にはそれよりも長らく感じたはずだ。
「そう、ここは特別な世界なんだ、テルユキ君」
サクラは、そう言った。
俺はいつもの学生服。ここにある鞄だって、どう見ても俺の使っているいつもの鞄。
「信じられるか」
ミチルギ先輩とサクラが、騙しているとしか思えない。
ありえるか、目の錯覚。生徒が誰もいないのは、学生全員で俺を騙しているのだろう。なんのためかは知らないが。
「ならミチルギ君が消えたのはどう説明すんのさー」
「そ、それは……」
反論しようにも、物理法則に人が消える式はないだろう。口ごもってなにも言えない俺に、サクラは追撃としては完璧な言葉を言った。
「テルユキ君、頭上を見なさい」
「頭上?」
…………。特に変わったことはない。青空が広がり、恒星である太陽が平等に光を降り注いでいる。こんな日常を見たら、ますますサクラの言うことが嘘のように思える。
「普通……じゃないか……。ほら、サクラにだってあの青空が見え……あ」
もやもやして、引っ掛かりの残っていた心の霧がなくなる。気付いてしまった。
いつもの日常に、ここは違う世界なんだと気付かされる奇妙な感覚。
「今日は……土砂降りの雨じゃなかったのか」
晴れきった、雨とは無縁のこの世界で俺は、にやけた顔のサクラを見ながら言う。
天気をサクラが変えるのと、電波仮想の世界、どちらかを信じなければいけないなら、無難に電波仮想を信じるしか他になかった。