いたいけで健気な四耳族の隠し事。
繰り返される日々、二人だけの穏やかな日々。さらに悪態をつくようになったアシュリーに、健気に尽くすルカ。そんな二人の日常は続いていた。
「ん?」
朝の散策に出ようとしたアシュリーだったが、目にしたのはルカの後ろ姿だった。家の玄関口で、ルカが突っ立っていた。手にした紙のようなものに夢中だった。
「ふふふ」
アシュリーは悪戯っぽく笑う。いつかの意趣返しだ。即、驚かすのもいいが、ここはずっと観察してやることにした。あの時の自分のように恥ずかしい思いをすればいいとも。
「そう、なんだ。そうか。もう200年も経つわけで―」
「!」
ルカはそう言いかけて、すぐ後ろを振り返った。アシュリーの気配に気づいたようだ。
「ご、ご主人様……」
「べ、別に。のぞき見とかじゃないわよ。たまたまで」
「は、はい。アシュリー様を疑ったりはしませんから。あはは」
そう笑いながらも、ルカは後ろ手に紙を隠した。どこか、不審な動きだった。
「ねえ、ルカ。それは何?手紙?」
アシュリーは気まずいながらも、質さないわけにもいかない。仮に手紙だとしたら、この隠された場所にどうやって届いたというのだと。
「はは、いやだなアシュリー様。これ、ボクの個人的な覚書ですって!……ご覧になりますか?」
「見せろといったら?」
「構いません」
「……」
「……」
沈黙が続く。探り合いのようだ。
「……ま、いいわ。そもそも、手紙なんて届きようがないんだから。ほら、私が散歩している間に、ご飯用意しときなさいよ?」
「はい、もちろんです!」
「行ってくる」
「はい、いってらっしゃいませ!」
すっかりいつものルカだった。にこやかにアシュリーを送り出していた。主人の背中を見送ったあと、一人呟く。
「……結局、人が良いんだから」
そう、主人を要していた。それからは暗い顔つきになった。
「―いずれ、時は来る。……ボクも覚悟を決めないと」