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19/44

白魔女は絆される。

 朝日が朝を告げる。アシュリーは気持ちよく目覚め、ゆっくりと体を起こした。久々の熟睡だった。

「あんたが……」

 今、アシュリーがいるのがベッドの上だ。ルカは、変わらず床で寝っ転がっていた。このルカが、ここまで連れてきてくれたのだろう。

「……あんたなんか」

 このルカとて、四耳族だ。アシュリーが嫌いでならない四耳族のはずだ。頑張り屋で、健気で、それでいて純粋に慕ってくれるルカでもあっても。

「そうやって、私を騙そうとして。……ううん」

 これでまたしても騙されたとしても。それはもう、完全に相手が上手なだけだ。

 もういい、それでもいいと。アシュリーはそう思ったからこそ。

「……ふう、もうわかったから」

 アシュリーは諦めた。白旗を振るしかない。

 未だに悪夢によって、過去に苛まれているのもそうだ。見た目から気丈に振る舞おうとしてもだ。

「結局、私はこうなのよ」

 根底にあるのは、弱さだった。世間からズレたままの、それこそ不器用な自分。

 アシュリーは自分の弱さを認めた。結局は、人のつながりを求めてい続けていることも。縋りたい気持ちがあるのも。認めるしかない。

「―ありがとう、ルカ」

 ルカはまだ眠っているはずだ。いつまでも床で寝させるわけにもいかない、と。アシュリーは彼を抱えて、ベッドまで上げようとするが。

「ぐぬぬ……」

 そう、非力は非力のままだった。この事実も認めざるを得なかった。

「ふ、ふん」

 誤魔化すように、毛布をかけた後。こっそりと部屋を出ることにした。

「……アシュリー様」 

 彼女が去ったあと、ルカは一人呟いていた。


 アシュリーは食事の準備をしに、居間に向かっていった。食卓に並べたのは、昨日ルカが用意してくれたご馳走だった。

「ケーキ……」

 ケーキなんて、何年、いや何百年ぶりだろうか。アシュリーはそわそわせずにはいられない。いそいそと切り分けて、自分の分とルカの分を用意した。

「ケーキよ、ケーキ」

 アシュリーは椅子に座って、ルカを待つ。どうせならば、ルカと一緒に食べようと思ったのだ。他のご馳走達もそうだ。

「……」

 ルカは中々来ない。となると、ケーキにはありつけない。いっそ、叩き起こしてやりたくなった。

「ああ、楽しみにしておられる……」

 聞こえてきたのは、ルカの笑いをこらえる声だ。彼は入口の方にいた。いつからかはわからない。もしかすると、かなり前からかもしれない。

「あんたねぇ……!」

 見られていたアシュリーは怒りに体を震わす。笑いながら謝るルカは、反省していないだろう。

「アシュリー様、ケーキがお好きだったんですね」

「好き、とかじゃ。自分で作るのが手間だし。嗜好品で高かったりするから、とか。それだけで」

「はい、わかりました!また、お作りしますね」

「だから、好きとかじゃ」

 うだうだ言っているアシュリーをよそに、ルカも目の前に着席した。

「申し訳ないです、アシュリー様。準備までしていただいて」

「……そ、そうよ。あんたがいつまでも起きてこないから、仕方なくよ」

 ケーキに目線を寄越したまま、アシュリーはつれなく言う。

「……ルカ、じゃないんですか?」

「!?!?!?」

 アシュリーの顔は一気にのぼせた。ルカはルカで口を尖らせていた。拗ねているようだ。

「さっきは言ってくれてたから、ボクはてっきり……」

「ご、ごちそうさま!」

 ルカはまさか、あの時起きていたのでもいうのか。これは気まずい。気まず過ぎるとアシュリーは逃亡を図るも。

「あっ、駄目ですよ。さすがに今食べないと。ほら」

 ルカはにこにこ笑顔で、アシュリーを見ていた。随分と余裕の表れだ。

「……あ、それと。不躾ながらも言わせてください。お顔、その、すごいことになってますよ?」

「え」

 ルカの指摘ももっともだった。アシュリーはあろうことにも、メイクを落とさずに就寝していた。化粧を落とすという考えはなく、翌朝に化粧し直せばよいのかと考えていたのだ。

「アシュリー様、メイク落とされてないでしょう。母が言ってました。化粧落としを怠ると翌日に響くと。あ、でも。落とされなくても、アシュリー様お肌の状態いいんですね。すごいです、アシュリー様!」

「ぐぬぬ……」

 アシュリーは唸らされる他なかった。 


 アシュリーの毒薬研究も順調であった。今となっては手慣れたルカの助力もあってだ。今日も一日を終え、あとは眠るばかりだ。

 ソファで寝る事が無くなったアシュリーは、自室のベッドで眠ることにした。

「おやすみなさいませ、アシュリー様」

「あんたさ……」

 ルカは未だ床で寝ようとしていた。アシュリーはため息をついたあと、こう提案した。

「あんたも、こっちで寝たら?」

「……え。ええええ!?」

 最初はよく飲み込めてなかったルカが、次には大声をあげていた。相当驚いているようだ。遠慮はすると思っていたが、こうも動揺されるとは思ってもみなかった。

「な、なによ」

「何よ、じゃなくて!その、……そうです!主人との同衾など、その、失礼にあたるというか」

「その主人が良いって言ってるの。こっちとしても、いつまでも床に寝させるわけにもいかないし。体にも良くないから」

「ですが……」

 ルカはその場で硬直したままだ。アシュリーは強要するまでもない、と思い直す。

「まあ、セクハラで訴えられるのもね。じゃ、せめてソファ行き」

「ええー……」

 今度は不満そうな声ときた。どっちなのだと、アシュリーは苛ついてきた。

「そ、そんなセクハラとかじゃなくて。でも、その、そんな同じ布団で共に、とか」

 ルカの頬は心なしか赤い。それでいて、拒否も続けていた。

「嫌じゃないの?」

「嫌なわけないです!」

 即答だった。だが、早いのは返答だけで、ルカは動こうとはしない。

「……ふう」

 アシュリーは息をついた。そして。

「おいで、ルカ」

「!」

 動こうとしないルカを招き入れる。どこまでも優しい声色だった。

「ず、ずるいです……。抗えるわけないじゃないですか」

 ルカはふらつきながらも、ベッドに吸い寄せられていった。アシュリーは彼を迎え入れた。

「失礼しま……!?」

 遠慮がちなままのルカを、アシュリーは抱きしめた。ルカの鼓動が早くなる。

「あんたなんて、安眠枕よ。安眠枕」

「ぐぬぬ……。人の気も知らないで、あなたという方は―」

 今度はルカが唸らされる身になってしまった。恨めしさを込めて、アシュリーの顔を見るが。

「……お化粧、落とされてますよね」

「何よ、悪い?あんたの母君のご助言を聞いただけよ?女の先輩だから」

 アシュリーは厚化粧を落とし、生まれたままの顔になっていた。日常からは化粧は手離せないが、せめて寝る前くらいは落とそう。彼女はそういう考えになったのだ。

「やっぱり、可愛……。いえ、お肌に負担を与えなくなって。ボク、安心しました」

「そう」

 アシュリーはそのまま瞳を閉じた。ルカもそれに倣った。

「……」

 ぎくしゃくしていたルカも、やがて眠りに落ちていった。アシュリーは腕の中の彼に向ける。

「……せいぜい、長く騙してね。そうしたら、私も私でいられるから」


「はい、あげる。たまにはね」

「ありがとうございます……?」

 出会い頭にアシュリーは、包みに入った何かをルカに手渡す。許可を得て、ルカは開封した。

 中身は陶器製のアクセントがある、チョーカーだった。

「こうやるの」

「わわわ……」

 アシュリーに急に近づかれ、抱きつかれる形になった。ルカは緊張して縮こまっていた。気にしないアシュリーは、パチンと固定させた。

「わあ、アシュリー様からの贈り物だ!わあい!」

「……えっと、そう喜ばれると」

 ルカの反応は、とても気に入ってくれたようだ。彼は、照れくさそうに触れている。

「……大事にしなさいよ。決して、失くしたり壊したりしないように」

「はい、もちろんです!」

「ふん」

 アシュリーはこれでも満足そうにしていた。彼女はすっかり、―絆されてしまっていた。

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