表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/44

白魔女と暴虐の王。

すみません、まだ暗い展開は続きます。

理不尽さは減っているとは思います。

お付き合いくだされば幸いです。

 馬車に乗せられ、連行された先。それは、アシュリーにとって苦々しい場所だった。

 この世界随一の大国。―四耳族と姫が統治している国。そして、祝賀パレードが行われた場所だ。

「どういうこと……」

 あれだけ荒廃しきっていた各地と違い、この王都のなんと豪勢なことか。堅牢なる門で守られ、人々は喜びに満ち溢れていた。昼から酒をあおり、実に陽気なことだ。

 あれだけ、各地では苦しむ人々で溢れているのに。ここだけ、まるで別世界のようだった。

 そびえ立つ城の正門が開門される。アシュリーは拘束されながらも、城内へと引き入れられた。豪華絢爛な城内を連れ回され、やがて、王のおわす謁見の間へ。

「―ほう。噂の白魔女か」

 王座に座っているのは、今のこの国の王か。大柄で精悍な顔をした、野性味溢れる美丈夫だった。

 やはりというべきか、彼もまた、四つの耳をもっていた。四耳族の時代は続いていたのだ。

「違います」

 ここでもアシュリーは否定した。それが正解かどうかはわからない。それでも。

「なら、顔を見せてみろ」

「嫌です」

 アシュリーは断る。その姿勢に、兵達はやけに動揺していた。動揺し過ぎていた。王に失礼な態度を働いたのもあるだろうが、それだけではないようだ。

 静まれ、と王は手で制する。そこでようやく、場は静まった。

「よい。こちらで暴くまでだ」

「!?」

 つかつかとやってくる王は、アシュリーの外套に手をかけた。一気にはぎ取っていき、少女の顔が露わになる。

 年若い、優しい顔つきをした少女。長旅や精神的疲労もあってが、憔悴しきってもいた。

「これはこれは……」 

 王はやたらと感嘆していた。そして、まじまじとアシュリーを観察する。

「……」

 白魔女と、バレてしまうのか。悪名ばかりが先走りして、当人の顔自体は広まっていないと思われていたが。月日が流れていることもある。気づかれてないと、アシュリーは思いたかったが。

「これは驚いた。当時のまま、ということか」

「!」

 この男には、白魔女であると認識できたようだ。それも。

「―『始まりの勇者』が懸想していた、白魔女そのものということか」

「え……。ううん、違う」

 このような時にも、アシュリーの心臓は高鳴ってしまう。そんな場合ではない、と落ち着かせようともする。

「ふむ、懸想というか。ご執心ともいうべきか」

 どちらも執着ととられる言葉だ。だが、次の彼に発言によって、アシュリーは。

「わかる気もするな。―稀代の治癒の使い手。欲するのも必然だろう」

「……え」

 アシュリーの目の前は真っ暗になった。ウィルフレッドは違う。純粋に好意をもってくれていた。そこに打算など決してないはずだと。

「あ……」

―君の手は、その。不思議な、治癒の力でもあるのか?

 あの時のウィルフレッドは、アシュリーの手、彼女の魔力を気にしていた。

 違う。そんなことはない。アシュリーは必死に打ち消そうとする。それでも。

―君が好きだ。

―君が愛しいのは本当だ。

―僕も君だけだ。

―僕が、必ず彼女を守り通します。

 たくさん、好きだと。愛の言葉をささやいてくれた。そんな彼に溺れていった自分。

「どんな言葉を尽くしてでも、何をしてでも。手に入れたくなる」

「やめて、ください……」

 アシュリーは弱弱しくも否定する。

「私を見ろ、白魔女よ」

「!」

 否応にも、顔を向かされる。堂々とした男にあるのは、四つの耳だ。

「今となっては考えられないが、昔は四耳族は虐げられていたという。誇り高き一族でもあったのだ。なんとしても、見返してやりたかっただろうな。……それだけの、扱いを受けてきたのだから」

「……それは」

 出逢いからして、彼は暴行を受けた後だったのだ。以前にも、彼は、彼らは辛い環境だったのは間違いない。

「利用しようと考えても。―責められまい」

「利用……」

 確かに、彼女自身の力は巨大だ。いや、それでもアシュリーは頑なに否定し続ける。

「違います!彼はそんな人じゃない!本当に純粋で!」

「ふむ……」

 必死なアシュリーを、興味深そうに見ているのは王だ。控えている兵達も口に出せずとも、重苦しい面持ちだった。

「まあ、よい。初めは純粋だったと仮定して。純真のままでいられると思うか?力を得て、権力も手に入れて。―美しい姫君まで手中にあって。何故、変わらないと思えるのか」

「!!」

 アシュリーは突きつけられた。この恋は終わったものだとわかっていたのに。

 真っ青になったアシュリーに構わず、王は続ける。

「初代の王の存在もあって、我々の天下は続くわけだ。世界は我々の思うがままにだ!まさに理想の世界だ!!」

「理想の、世界……」

 王が高笑いする中。気概が喪失しつつあったアシュリーだったが、そんな王に疑問を抱く。

「……この、大変な状況で?」

「何が大変だというのだ」

「……!みんな、大変なのに!苦しんでいるのに!あなた達だけが!」

 苦しむ人々とは違い、この王都はこうも豊かで栄えているものか。アシュリーは気持ちを荒ぶらせながら、訴える。

「そうか」

「なっ」

 王の返答はこうだった。そして、こうも続けた。

「弱いからだ。弱き者は生存に適していない。それだけだ」

「なんてこと……」

 当然の事だと王は言い切った。アシュリーは呆然としてしまった。

「そして、そんな弱者を救おうとするのが。白魔女、お前だ。裏切りの白魔女と罵られてもな」

「私は……」

「裏切り、か」

 王はアシュリーの顎をすくと、顔を上げさえる。これだけ近づくと、なおさら威圧感を感じずにはいられない。アシュリーは、怯みそうになる心を抑えつけていた。

「決戦前夜の裏切り、か。……白魔女よ、本当にお前がそうなのか?」

「……」

「黙秘、か。まあよい。世界は、お前を裏切り者とみるまでだ。どこへ行っても受け入れられない。お前には、もう居場所はないのだ」

「……!」

 アシュリーは何も言えない。ここで、本当のことをぶちまけられたら、何か変わるのだろうか。

「……ううん」

 アシュリーは首を振った。それは、彼女としてはどうしても出来ない。

「民衆共がお前を拒もうとも、私はそこまで狭量ではない。白魔女よ、どうだ。―私の元へ来ないか」

「!」

「お前の巨大な力も含めて、お前を気に入っているのだ。……始まりの勇者も愚かなものだ。手放すなど」

「いやっ……」

 抵抗する力も意味を成さない。アシュリーは強く腕を掴まれ、抗うこともできないまま。

「んん!?」

 口づけを許してしまった。こんな荒々しくされたことはなく、呼吸もままならない。ようやく解放された。アシュリーは酸欠状態で眩暈がしそうだった。

「どのみち、囲う気で連れてきたのだ。私の元に置いておく為にな」

 腰に力が入らないアシュリーを、再び兵が拘束する。王は部屋に連れていくようにと命ずる。

「いや……」

 視界が掠んでいく。アシュリーは気を失ってしまった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ