裏切りの白魔女。
いつもお付き合いくださりありがとうございます。
かなり鬱展開が続きますので、今回はガーっとスクロールしていただいた方が良いかもしれません。
後書きで、大体の流れ書いております。
それからのアシュリーは。
彼女一人で旅を続けていた。黒い外套で姿を隠したままである。これまで訪れたことのない場所を巡っていた。
「……まだ、こんなにも」
魔王を討伐しても、世界は完全に平和になったわけではなかった。戦火の傷跡もまた、各地に残っているようだ。魔物もまだ、跋扈したままである。
世界は。人々はまだ、傷を負ったままだった。
「これで、よし」
アシュリーは今日も、旅をしていた。のどかな農村で、怪我をした子供の治療をしていた。表立って治療魔法を使うわけにもいかず、もっぱら薬草を用いてだ。
「ありがとう、お姉ちゃ―」
「こ、こら!こっちに来なさい!」
治療を受けた子を親が引きはがす。そのまま連れ去っていった。彼らの会話がアシュリーの耳に届く。
「どうして?ちゃんとお礼を……」
「よそ者には警戒しなさいといってるでしょうが!」
「でも、助けてくれたよ?」
純粋に子供は感謝していた。対して、親は警戒したままである。
「怪しい女の噂が飛び交っているんだよ。各地を手当して回っている。それも無償で。それだったら聞こえはいいけどね。……正体は『白魔女』なんじゃないかってね」
「え、白魔女!?」
あれだけ感謝していた子供の表情が、変わる。振り返って、黒い外套の少女を睨みつけていた。ほらみたことか、と親も侮蔑の目を向けてきた。
―忌み嫌われている白魔女が、今更善行を積む気か。そう、言っているようだった。
「……行こう」
ひとまず子供の怪我は治ったのだ。アシュリーはそれでも旅を続けることにした。
黒い外套の女。不気味な少女。怪しげな草を用いて治療を施そうとする。その正体は『裏切りの白魔女』であるともされている。得体の知れなさはこれだけではない。
「……私は、どうして」
彼女から発せられるのは、声高い少女のままだ。
あれからもアシュリーは旅を続けていた。長い年月を経てである。それなのに、アシュリーは。
彼女の姿は、変わらないままだった。あどけなさが残る、少女のままだった。年をとらない。不老の姿となってしまっていた。
「わからない、わからないよ……」
年をとることもないまま、アシュリーは長い間、世界を彷徨うことになった。もう、彼女から時間の感覚は消え失せつつあった。
アシュリーにとって、時はすでに無限にも等しいものだった。時間だけが溢れている。未踏の地は行き尽くし、かつて一行と旅をした地も巡ることになった。
「そんな……」
かつての訪れた村や町。問題は解決し、平和をもたしたはずなのに。笑い満ち溢れていたはずなのに。
「お腹すいたよぉ……」
「うっ、うう……」
荒廃しきった村で、飢えた人達。道すがら、倒れている人ばかりだった。
「しっかりして……!」
今にも命が尽きそうな人達。アシュリーは手始めに、近くの子供に治療をしようとしていた。ほとんど息をしていない。薬草での治療では追いつかない。
「この力なら」
自身の持つ治癒の力ならば、まだ可能性はある。迷ってはいられない。それなのに、アシュリーはフラッシュバックしてしまう。
「……!?」
―魔王討伐前に、離脱したどころか。……魔王に加担したというじゃない。
―ああ、こういうことだよ。……正体は『白魔女』なんじゃないかってね。
―え、白魔女!?
「う……」
―裏切りの白魔女。
アシュリーは頭を抱える。それでも、それが世界からの認識だとしても。
「……私は、助けたいの」
アシュリーは祈りを込めて、魔力を発動させる。辺りは淡く白い光に包まれる。浄化の光となって、病んだ人々に降り注ぐ。
荒かった呼吸も落ち着いていく。苦痛も大分和らいだようだ。
「……っ」
久々にこれほどの力を使ったからか、アシュリーはよろけてしまう。それでも、倒れ込むわけにはいかない。早急に立ち去ることにした。
もう、冷たい言葉は耐えられない。限界だった。アシュリーは逃げるように去っていった。
走って走って。だからといって、どこへ向かおうというのか。
「あっ……!」
林道のさなかだった。アシュリーは躓いて、今度こそ倒れこんでしまう。
「う……」
それでも、起き上がろうとする。腕に力を込めて、立ち上がろうとしたところ。
ふと、足音が聞こえてきた。規則正しい、訓練された足音だった。アシュリーは良くない予感がしたので、なおさら急いで立とうとする。
が、間に合わず。アシュリーの前に、数名の人が並び立っていた。軍服を着ている彼らは、どこぞの兵なのだろう。アシュリーにとっては、まずい相手には変わりない。
「―失礼、近くの村にて。治療をなさったご婦人でしょうか?」
「ち、違います」
となると、馬鹿正直に答えるわけにもいかない。
元々、否定され続けてきた行為だ。嫌悪されてきた白魔女としての行為だ。アシュリーは決して名乗り出るわけにはいかなかった。
「……なら、不審人物として捕らえるまで」
「!?」
その兵の言葉を合図に、アシュリーは拘束されてしまった。非力な彼女に抵抗の術はない。ひとしきり暴れても、無風そのものだった。
飛ばされた方向けです。
白魔女アシュリーは、裏切りの白魔女と呼ばれ続けたままです。
それでも彼女は世界は巡り、治療の旅を続けていました。
でも、限界はきている感じです。
そこで、噂を聞きつけた兵士たちがやってきて、捕まってしまいました。
ざっくりです。
鬱展開は良くないですね。