始まりの始まり。
初めましての方も、お久しぶりの方も。
古駒フミと申します!
この度は勇者の物語に挑戦してみました。
よろしくお願い致します!
『教えて。―勇者共を根絶やしにする方法を』
ある少女は切に願う。彼女の心からの願いだ。
これは、少女の復讐の物語。
これまでの軌跡を辿り、いくつもの時代を巡る物語である。
隔離されるように育てられた清浄なる少女。
人の耳と獣の耳を持つ四つ耳の少年。
世界から疎まれていた二人は、ある日出逢った。
不器用な二人は、ゆっくりながらも心を通わせていく。
ある冬の日のことだ。
二人は並んで、肩を寄せ合って。暖炉の炎の揺らめきを眺めていた。パチパチと音を立てている。
一つの毛布にくるまって、二人の体はより近づく。少年に至っては、少女の腰に片手を回して、自身に体を寄りかからせていた。
少女はむずがゆくなって、身を捩らせてしまう。そんな彼女を見て、彼は質問した。
『寒い?』
少年は聞いていた。わかって、聞いてくるのだ。少女はなんとも言えない気持ちになる。
少女が手にしているのは、手持無沙汰の毛布だ。一人一枚で用意していたのに、このようなことになってしまった。今からでも使いたいくらいだった。
『うん、使わせない』
片手だけだったのが、両手をもって少女の腰を引き寄せた。完全に彼にもたれかかる状態となった。彼の胸に顔を埋めることになり、暖炉も見えなくなってしまう。
聞こえてくるのは、暖炉が不規則に燃える音。それと。
『君とこうして。ずっとくっついていたい』
彼の声、早打つ彼の鼓動だけ。
『ずっと、君といたい。ここで暮らしたい。ここは、本当に楽園なんだって。そう思えた』
少年は語り続ける。彼自身の思い、そして少女への気持ちを。
『君がいる。君と出逢えた。君が―』
彼との顔が近づく。かなりの至近距離だ。
『こっちを見て』
両手を添えられ、彼の顔を見ることになってしまう。
『僕だってそう。いつもこうだよ。君といるといつだってそう。君が柔らかく笑ってくれる。そんな優しい表情も、愛らしさも、何もかも―』
少女は目を奪われてしまう。微笑む彼もまた、頬が赤く染まっていたからだ。
『―君が好きだ』
少女はもう、目をそらせなくなってしまった。もう。誤魔化すことなど、出来なくなっていた。少女もまた、素直な気持ちを伝えていた。
『うん、そっか……。うん、うん……』
少年は、幸せを噛み締めているかのようだった。幸せそうに、相手の名前を呼ぶ。
お互いの顔が、さらに近づいていく。こうするのが自然か、少女はぎゅっと目を瞑った。皺が寄るくらいだ。
互いの唇を重ねる行為、キスが行われるのなら、それが正しいのかと。
『……』
沈黙だ。瞳を閉じたままの少女と、顔を近づけたままであろう少年。
勘違いをした。恥ずかしい。そう思いつつ、少女は目を開けようとしたが。
最初に触れられたのは、彼女の額。右頬から左頬へ。それからまた、額へ。
繰り返されるそれが、くすぐったくも心地よい。少女は身を委ねていたが。
少女はたじろいでしまった。。今、口づけられたのは彼女の耳だった。そのまま彼の口で、はまれているときた。
『……っ!?』
自身の行動に驚いたのは少年の方もだった。彼は咄嗟に距離をとり、行為を中断することにしたようだ。
『す、すまなかった。やり過ぎた。ここまでするつもりじゃなくて。―あ、いや。夢中になっていたのは認める。ただ、想い合ったばかりで、これは』
少年は顔を手で覆いながらも、弁明を続けていた。少女が気遣うかのように、言葉を返してくれていてもだった。
『君が愛しいのは本当だ。でも、何事も順序があるから』
ここまでするつもりはなかった、と彼は言っていた。もう、この時間はおしまいだと告げられたようなものだ。
少女は、ここで終わらせたくなかった。彼女はもっと、触れたかったのだ。
今度は少女の方からだ。まず唇で触れたのは、彼の獣の耳だった。被毛がくすぐったい。反対側はくわえてみた。
『!』
少年は体を反応させるも、抵抗はしない。目を開けたまま硬直してしまったが、嫌がってはないようだ。少女は続ける。
獣の耳から唇を離すと、次は彼の人としての耳に口づけた。反対側もだ。今回は優しく触れていた。優しくやさしく、何度も。
―あなたの何もかもが愛しい。
これは、少女の心からの言葉をだった。彼に伝えたかった言葉だ。
『―』
たまらなくなった彼は、彼女の名を呼ぶ。彼女が返事するよりも先に、腕を掴んで引き寄せて。
少女は目を見開いていた。あまりにも驚いたからだ。
重なったのは互いの唇だった。何度も何度も、繰り返される。
少女の瞳もやがて閉じられていく。
それが恋か愛だったのか。
または、別の何かだったのか。
それは当人たちにしかわからない。けれども、仲睦まじいのは確かなことだった。
二人は多くの出会いを経て、多くを経験した。成長した。
二人は世界を巡り、憂い、決意する。
巨大なる悪しき存在。『魔族』によって世界は危機に瀕していたという。
かつての小さき存在は、今は世界になくてはならない存在となっていた。
―魔族を滅ぼし、世界を救おうと強く決意したのだ。そうしてやがて。
清浄なる少女は。
数多の傷ついた民を癒し、世界を浄化した偉大なる白魔女に。
四つ耳の少年は。
邪悪なる力にも挑み、世界を救った敬愛すべき勇者に。
世界は勇者とその仲間達を祝福する。
彼らの栄光を讃え、多くの褒美をつかわす。
新たな王に四つ耳の少年を、いや。
世界を救った『勇者』が望まれた。
民から愛され、支持される勇者が世界の頂点に立つ。それは当然といえた。
勇者の傍らには常に支え続けてきた少女、白魔女がいるのも必然であると―。
「―って、思うじゃない?」
その声はよく通る。喧しい酒場の中でもよく聞こえた。その人物はさすらいの吟遊詩人。
―とある時代、とある町。今宵も酒場の中心で伝承を詠っていた。
「はいはい。あんたたちが興味があることね。わかってるわかってる。醜聞、それからー、裏話?そこらへんも期待しといてー」
酒の肴になるように、と吟遊詩人は笑う。弦楽器を携えて、物語を奏でていく。
その内容はあまりにも生々しくも鮮明であり、まるで当時を体験してきたかのようでもあった。
吟遊詩人が語るは全てが始まった時代。この時代を治めるのは、『始まりの勇者』。
魔族の脅威から世界を救い、四つ耳の勇者による統治。それは彼から始まった。
世界は勇者を望んだ。勇者と共に在り続けた。それは長く永く、続いていた。
お読みくださりありがとうございました!
まだまだ始まったばかりです。
よろしくお願い致します!