表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士アンナは、それでも愛する人を守りたい 〜あなたを忘れる方法を、私は知らない〜  作者: 長岡更紗
光の剣と神の盾〜筆頭大将編 第二部 激動〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

427/497

424.とても有意義だったよ

 アンナとティナは、異母姉妹──

 そう断定してみせると、スヴェンは一度口元を押さえたが、もはや誤魔化しようはなかった。

 一度息を吐いた彼は、観念したように口を開く。


「ええ、確かに」


 ピシン、と胸の奥でなにかが弾けた気がした。

 動悸が激しくなり、思わず息を詰める。


 異母姉妹とはいえ、姉がいたのだ。母が死んでからずっと一人だったアンナにとって、それは嬉しい知らせだった。


「ですが彼女と深く関わりあうことはお勧めしませんね。彼女はフィデル軍の一員だ。あなたが今の地位を捨てるというならば、一向に差し支えはないですが」

「バカ言わないで。捨てる気などないわ」


 断言すると、スヴェンは「それは残念」と軽く笑う。

 最初から答えなどわかり切っていたように。


「けれど、もし国を出たいと思うようなことがあれば言ってください。手を貸しますよ」

「あなたはいつもどこをほっつき歩いているのか、わからないじゃないの」

「アンナさんが望めば、いつだって駆けつけてみせます」


 スヴェンはさらさらとした銀髪をなびかせ、目を細ませた。

 それは、いつだって駆け付けられる距離にいるということ。つまりしばらくはフィデル国やストレイア王国周辺で、なんらかの調査か任務を請け負っていることに他ならない。


(油断ならないわね……)


 アンナが睨みつけるも、スヴェンは気にした様子もない。


「で、ストレイア王国の内状はどうなっていますか?」

「敵情視察? 言うわけがないでしょう」

「ですよねー」


 ははっと軽く笑って、スヴェンは踵を返した。


(まったくこの子は、意外と変わり身が早いのよね)


 どこか透かされる感覚に、感情のやり場が困る。


「で、スヴェンはこれからどこへ行くつもりなの?」

「ヒミツです。アンナさんもあまり目立つ行動はやめておいた方がいいですよ。もし見つかればストレイアに戻れなくなります」

「あなたにはその方が都合がいいんでしょう?」

「そんなことありませんよ。アンナさんが心配なだけです」


 どこまで嘘か本当か。

 彼は「では」と一言置いて、賑やかな街の方へと消えていった。


 彼が悪い人でないということはアンナもわかっている。

 ただサエスエルという国家に、ストレイアのみならず近隣諸国も警戒しているのは確かだ。そこの工作員だと知ってしまっては、気楽に話すことが叶うはずもなかった。


 スヴェンが見えなくなると、アンナは異母姉であるティナの顔を思い返す。


(姉さんも、動物が好きなのかしら。短剣は得意? 遺跡を見て、心は躍ってしまうの?)


 知りたいことは尽きない。

 だが、それは叶わぬ願いだ。


 彼女はフィデル軍。

 ストレイア王国の筆頭大将であるアンナとは、敵同士なのだから。


「ティナ……」


 その名を呼び、アンナはイークスを強く抱き寄せた。


「イークス。私と彼女の匂いは似ていた?」


 イークスは、クゥンとどこか慰めるような声を上げた。



 ***



 そんな出来事を胸に抱えつつ、アンナは一人と一匹の旅を満喫し、休暇が終わる少し前に王宮へと戻った。

 トラヴァスに筆頭大将代行という重責を負わせていることが、心に引っかかっている。

 彼はきっと、頼み通りラベンダーに水をやってくれているだろう。

 あの執務室に足を運び続けることが、どれほど消耗するかを、アンナは身をもって知っている。


 王城に戻ったアンナは自室で髪を結い上げ、騎士服に身を包んだ。

 そしてアイアースの盾と、光の剣クレイヴソリッシュを手に取る。


 この剣は、二十歳の誕生日にグレイから贈られたものだ。

 寡黙で、一見すると無骨な男ではあった。それでも、時折見せる優しさが、アンナにはなにより嬉しかった。

 このクレイヴソリッシュの時もそうだ。

 普通ならばアクセサリーを渡すところだろう。だがアンナは、光の剣を選んでくれたことが嬉しかった。

 当時のアンナには少し重い剣だったが、それを使いこなせると信じてくれていたグレイが好きだった。


(それに……指輪はもらっているもの)


 左の薬指で、銀の指輪が静かに光る。

 一見してもなんの飾り気もないそれは、内側にサファイアのシークレットストーンが隠されている。

 まだ軍学校に通っていた頃、アシニアースのプレゼントとしてもらった大切なものだ。


 指輪をなぞり、思い出を胸に仕舞い込むと、アンナは剣を携えてトラヴァスの執務室へ向かった。

 中には、カールとルティーの姿もある。


「おかえりなさいませ、アンナ様。お早かったのですね」


 柔らかな彼女の微笑みに、アンナも自然と頬を緩めた。


「お体の方はよろしいのですか?」

「問題ないよ、大丈夫だ」


 その一言に、ルティーは安堵したように息を吐く。カールもまた、率直に嬉しそうな顔をしていた。


「久々の休暇はどうだったんだ? 楽しめたか?」

「ああ、とても有意義だったよ」


 そう答えながら、アンナはそっと視線を落とす。

 有意義だったが、満ち足りてはいない。もっと──異母姉のことを知りたかった。


「なぁ、トラヴァス、カール、ルティー……」


 言いたかった。

 自分には異母姉がいるのだと。


 だが、彼らは前線で剣を振るう者たちだ。

 いつか、ティナと刃を交える日が来るかもしれない。そんな時に筆頭大将の姉だからと、躊躇うようなことがあってはならないのだ。

 誰一人、失いたうわけにはいかないのだから。


「どうしたんだ、アンナ?」


 言い淀んでしまったアンナの顔を、カールが無遠慮に覗き込む。


「いや、なんでもない」


 アンナは微笑み、その想いを胸の奥へと押し込めた。

 三人はどこか腑に落ちない表情で、そんなアンナを見つめていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。

サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
侯爵令嬢のユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
イラスト/堺むてっぽうさん
ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
私だけ生き残っても、あなたたちがいないのならば……!
聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

国を魔女から取り戻そうと奮闘するも、その途中で護衛騎士の二人が死んでしまう。
ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
二人の護衛騎士の命を助けるために、何度も、何度も。

「もう、時間を巻き戻さないでください」
「俺たちが死ぬたび、ルナリーの寿命が減っちまう……!」

気持ちを言葉をありがたく思いつつも、ルナリーは大切な二人のために時間を巻き戻し続け、どんどん命は削られていく。
その中でルナリーは、一人の騎士への恋心に気がついて──

最後に訪れるのは最高の幸せか、それとも……?!
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼行方知れずになりたい王子との、イチャラブ物語!▼

行方知れず王子
イラスト/雨音AKIRAさん
行方知れずを望んだ王子とその結末
なぜキスをするのですか!
双子が不吉だと言われる国で、王家に双子が生まれた。 兄であるイライジャは〝光の子〟として不自由なく暮らし、弟であるジョージは〝闇の子〟として荒地で暮らしていた。
弟をどうにか助けたいと思ったイライジャ。

「俺は行方不明になろうと思う!」
「イライジャ様ッ?!!」

側仕えのクラリスを巻き込んで、王都から姿を消してしまったのだった!
キーワード: R15 身分差 双子 吉凶 因習 王子 駆け落ち(偽装) ハッピーエンド 両片思い じれじれ いちゃいちゃ ラブラブ いちゃらぶ
この作品を読む


異世界恋愛 日間4位作品
▼頑張る人にはご褒美があるものです▼

第五王子
イラスト/こたかんさん
婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。
うちは貧乏領地ですが、本気ですか?
私の婚約者で第五王子のブライアン様が、別の女と子どもをなしていたですって?
そんな方はこちらから願い下げです!
でも、やっぱり幼い頃からずっと結婚すると思っていた人に裏切られたのは、ショックだわ……。
急いで帰ろうとしていたら、馬車が壊れて踏んだり蹴ったり。
そんなとき、通りがかった騎士様が優しく助けてくださったの。なのに私ったらろくにお礼も言えず、お名前も聞けなかった。いつかお会いできればいいのだけれど。

婚約を破棄した私には、誰からも縁談が来なくなってしまったけれど、それも仕方ないわね。
それなのに、副騎士団長であるベネディクトさんからの縁談が舞い込んできたの。
王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼決して貴方を見捨てない!! ▼

たとえ
イラスト/遥彼方さん
たとえ貴方が地に落ちようと
大事な人との、約束だから……!
貴族の屋敷で働くサビーナは、兄の無茶振りによって人生が変わっていく。
当主の息子セヴェリは、誰にでも分け隔てなく優しいサビーナの主人であると同時に、どこか屈折した闇を抱えている男だった。
そんなセヴェリを放っておけないサビーナは、誠心誠意、彼に尽くす事を誓う。

志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。

そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。
己の使命のために。
あの人との約束を違えぬために。

「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」

誰より孤独で悲しい男を。
誰より自由で、幸せにするために。

サビーナは、自己犠牲愛を……彼に捧げる。
キーワード: R15 身分差 NTR要素あり 微エロ表現あり 貴族 騎士 切ない 甘酸っぱい 逃避行 すれ違い 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼恋する気持ちは、戦時中であろうとも▼

失い嫌われ
バナー/秋の桜子さん




新着順 人気小説

おすすめ お気に入り 



また来てね
サビーナセヴェリ
↑二人をタッチすると?!↑
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ