表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士アンナは、それでも愛する人を守りたい 〜あなたを忘れる方法を、私は知らない〜  作者: 長岡更紗
光の剣と神の盾〜筆頭大将編 第二部 激動〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

421/503

418.私を好いてくれるような奇特な人物など

 翌朝、アンナは剣を携え、書類とアイアースの盾を手にして、ストレイア王シウリスの執務室を訪れた。

 足取りは乱れず、群青色の騎士服には皺ひとつない。


 盾の正式名称は〝ストレイア王国軍聖騎士盾〟。将以上の者に与えられる装備だが、実際に携える者はほとんどいない。トラヴァスやカールはもちろん、他の将たちも例外ではなかった。

 大きく、重く、取り回しが悪い──機動を重視する者が多い昨今、この五画盾は敬遠されがちなのだ。


 だが盾というものは、使いこなせば攻防一体の武器となる。

 つまり、この盾を常に携えるアンナの存在そのものが、扱える者の稀少さを雄弁に物語っていた。

 それを理解していたからこそ、王シウリスはアンナのために特別仕様の盾を下賜した。魔力の込められたアンナ専用の盾は、蒼天と名付けられ区別されている。


 しかしアンナの持つ盾は、いつしか〝アイアース〟と呼ばれるようになっていた。

 名付け親はトラヴァスである。


 それは、アンナの婚約者が王であるシウリスに殺された日のことだ。

 すでに息絶えた恋人へ、なおも剣を突き立てようとしたシウリス。その間に、アンナは迷いなく滑り込んだ。聖騎士盾を構え、婚約者の亡骸がこれ以上傷つけられるのを阻止したのである。


 当時はまだ、アンナの母が救済の異能を持っていた頃だ。

 そのため、婚約者の危機を事前に察知することはできなかった。


 必死に恋人を庇うアンナの姿を見て、トラヴァスがぽつりと漏らしたのだ。

 まるでアイアースのようだった──と。


 アイアースという神が、踵に矢を受けて死んだアキレウスの遺体を傷つけぬよう、盾で守ったという神話。

 その言葉はやがて騎士たちの間に広まり、アンナの盾は自然とその名で呼ばれるようになった。


 以来、アンナはシウリスの部屋に入る際、必ずこのアイアースの盾を携えている。


「失礼いたします」


 規則正しくノックをしてから、アンナは執務室へ足を踏み入れた。

 シウリス・バルフォアの執務室。──愛する婚約者が絶命した場所だ。


 入室した瞬間、シウリスはアンナを見るなりニヤリと口角を上げた。

 王族としての圧倒的なオーラと、一九三センチの長身から放たれる威圧感。

 端正な顔立ちであるにも関わらず、どこか冷酷な瞳にぞくりとした気配が背筋を撫でた。

 

 彼はその恐ろしいほどの強さから、国内外で〝黒厭王〟という畏怖を込めた名で知られている。


 ストレイア軍の騎士服は群青色を基調としているが、シウリス自らが率いる精鋭隊『紺鉄の牙』は、さらに暗い紺鉄色を身にまとう。

 返り血を浴びれば、その色はほとんど黒に見えるのだ。〝黒厭王〟の異名は、そこから来ていた。


 そんな王を前にしても、アンナは平静を崩さない。

 紙の束を差し出し、淡々と告げる。


「書類を持ってまいりました。お目通し願います」

「いいだろう」


 今日は機嫌がよさそうだと、アンナはわずかに安堵した。

 そして視線を窓際へと向ける。そこには、いつものようにラベンダーの鉢植えが置かれていた。


「シウリス様、よろしいでしょうか」

「勝手にしろ」


 説明せずとも、シウリスは察していた。

 許しを得たアンナは水を汲み、ラベンダーへと注ぐ。


 殺風景なこの執務室にラベンダーを置いたのは、アンナだ。

 この部屋で逝った、愛する婚約者のために。

 シウリスがそれに気づいているかどうかは、わからない。


 シウリスは書類に目を通し、流れるようにサインを入れると、ペラリと返しながら言った。


「そろそろ、手合せせんか?」


 来た、とアンナは内心で受け止め、微笑みすら浮かべて答える。


「喜んで」

「では、三日後だ」

「かしこまりました」


 三日後は、十月七日。

 それは彼の命日だった。もちろん、シウリスがそれを承知の上で言っていることを、アンナは理解している。


「ああ、悪い悪い、その日はグレイの命日だったか? また墓参りに行けなくなるなぁ……ははは!!」


 その笑い声を遮るように、アンナは口を開いた。


「構いません、シウリス様に相手をしてもらえることの方が重要ですので」


 シウリスはぴたりと笑い声を止めた。面白くない、と顔に出ている。

 そして底冷えのするような眼で問いかけた。


「アンナ、新しい恋人はできたか?」

「残念ながら私を好いてくれるような奇特な人物など、グレイしかおりません」

「そうか、つまらんな。あいつを殺した時のお前の顔は傑作だったぞ!! ははは!!」


 なぜこんなことを言うのか。どうしてあんな残酷なことをしたのか。

 真実はわからないまま、アンナは表情を変えずに言葉を紡ぐ。


「楽しんでいただけたようでなによりです」


 その一言に、再びシウリスの笑い声が止んだ。

 立ち上がり、アンナの傍に寄ると顎をぐっと掴む。

 視線は強制的にシウリスに合わされた。


「つまらん!! お前は、言いよどむこともせんのか? お前の大切な者の名を言え。俺が直々に……」

「シウリス様です」


 シウリスがすべてを言い終わる前にアンナは告げた。


「シウリス様が、私にとっての大切な方です」

「嘘を、つくな!!」

「本当です」


 その即答に、言いよどんだのはシウリスの方だった。


「……まぁいい。出ていけ」

「失礼いたします」


 アンナは男性と同じく、肩口に手を当てるだけの簡潔な敬礼をして部屋を辞する。

 そして自室に戻ると、張り詰めていた息を大きく吐き出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。

サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
侯爵令嬢のユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
イラスト/堺むてっぽうさん
ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
私だけ生き残っても、あなたたちがいないのならば……!
聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

国を魔女から取り戻そうと奮闘するも、その途中で護衛騎士の二人が死んでしまう。
ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
二人の護衛騎士の命を助けるために、何度も、何度も。

「もう、時間を巻き戻さないでください」
「俺たちが死ぬたび、ルナリーの寿命が減っちまう……!」

気持ちを言葉をありがたく思いつつも、ルナリーは大切な二人のために時間を巻き戻し続け、どんどん命は削られていく。
その中でルナリーは、一人の騎士への恋心に気がついて──

最後に訪れるのは最高の幸せか、それとも……?!
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼行方知れずになりたい王子との、イチャラブ物語!▼

行方知れず王子
イラスト/雨音AKIRAさん
行方知れずを望んだ王子とその結末
なぜキスをするのですか!
双子が不吉だと言われる国で、王家に双子が生まれた。 兄であるイライジャは〝光の子〟として不自由なく暮らし、弟であるジョージは〝闇の子〟として荒地で暮らしていた。
弟をどうにか助けたいと思ったイライジャ。

「俺は行方不明になろうと思う!」
「イライジャ様ッ?!!」

側仕えのクラリスを巻き込んで、王都から姿を消してしまったのだった!
キーワード: R15 身分差 双子 吉凶 因習 王子 駆け落ち(偽装) ハッピーエンド 両片思い じれじれ いちゃいちゃ ラブラブ いちゃらぶ
この作品を読む


異世界恋愛 日間4位作品
▼頑張る人にはご褒美があるものです▼

第五王子
イラスト/こたかんさん
婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。
うちは貧乏領地ですが、本気ですか?
私の婚約者で第五王子のブライアン様が、別の女と子どもをなしていたですって?
そんな方はこちらから願い下げです!
でも、やっぱり幼い頃からずっと結婚すると思っていた人に裏切られたのは、ショックだわ……。
急いで帰ろうとしていたら、馬車が壊れて踏んだり蹴ったり。
そんなとき、通りがかった騎士様が優しく助けてくださったの。なのに私ったらろくにお礼も言えず、お名前も聞けなかった。いつかお会いできればいいのだけれど。

婚約を破棄した私には、誰からも縁談が来なくなってしまったけれど、それも仕方ないわね。
それなのに、副騎士団長であるベネディクトさんからの縁談が舞い込んできたの。
王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼決して貴方を見捨てない!! ▼

たとえ
イラスト/遥彼方さん
たとえ貴方が地に落ちようと
大事な人との、約束だから……!
貴族の屋敷で働くサビーナは、兄の無茶振りによって人生が変わっていく。
当主の息子セヴェリは、誰にでも分け隔てなく優しいサビーナの主人であると同時に、どこか屈折した闇を抱えている男だった。
そんなセヴェリを放っておけないサビーナは、誠心誠意、彼に尽くす事を誓う。

志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。

そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。
己の使命のために。
あの人との約束を違えぬために。

「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」

誰より孤独で悲しい男を。
誰より自由で、幸せにするために。

サビーナは、自己犠牲愛を……彼に捧げる。
キーワード: R15 身分差 NTR要素あり 微エロ表現あり 貴族 騎士 切ない 甘酸っぱい 逃避行 すれ違い 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼恋する気持ちは、戦時中であろうとも▼

失い嫌われ
バナー/秋の桜子さん




新着順 人気小説

おすすめ お気に入り 



また来てね
サビーナセヴェリ
↑二人をタッチすると?!↑
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ