表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
騎士アンナは、それでも愛する人を守りたい 〜あなたを忘れる方法を、私は知らない〜  作者: 長岡更紗
光の剣と神の盾〜筆頭大将編 第二部 激動〜

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

420/506

417.どのみち私のサインが必要になる

 頭の中にビカビカと光り続ける警鐘。

 アンナは駆けながらスカートを捲り上げた。

 布地が太腿に絡むのも構わず、足の付け根に装備してあるダガーを抜き取る。

 完全なる〝オン〟モードだ。


 トラヴァスもアンナの背後を追い、間合いを保ったまま剣の鞘を握っている。いつでも前へ出られる構え。

 そのとき、脳内で続いていた黄色い点滅が、鮮烈な赤へと変わった。猶予はない。


「キャアァァア!!」


 悲鳴が夜の街を切り裂いた。アンナは躊躇なく、その声の発生源へと飛び込む。

 次の瞬間、頭上から降りかかってきた剣をダガーで弾き返した。乾いた金属音が響き、男の体勢が崩れる。

 アンナは鋭く睨みつけると、一転して背後で震えている親子へ柔らかな微笑みを向けた。


「大丈夫だ、安心していい」


 そう告げると、改めて剣を振り下ろしてきた男たちを見据える。

 装備も統制もない。追い剥ぎの類だ。


「トラヴァス、連行するぞ。抵抗するようならやってしまえ」

「はっ」


 短く応じたトラヴァスは、即座に動いた。剣で間合いを制し、的確に氷魔法を織り交ぜる。足を縫い止められた賊たちは為す術もなく拘束され、あっという間に縄をかけられていった。

 一通り片付いたところで、アンナはふうっと息を吐き出す。


「やれやれ。せっかくの夜が台無しだ」

「私一人で構いませんよ。筆頭は戻って食事をお続けください」

「いや、私も行こう。どのみち私のサインが必要になる」


 救われた親子は何度も頭を下げ、震える声で礼を述べていた。アンナは「気を付けて帰りなさい」とだけ告げて見送る。


 彼女らを助けられたのは、異能と呼ばれる能力のおかげだ。

 アンナの母もかつて、筆頭大将という地位にあった。

 もっとも、その地位をアンナが引き継いだわけではない。徹底した実力主義を貫くストレイア王国では、地位の世襲など存在しない。

 今の立場は、アンナ自身が積み上げ、勝ち取ったものだった。


 母は数年前に死んだ。この『救済の異能』のせいで。


 救済の異能は、自分が護りたいと強く思っている範疇の者の危機を知らせる。一方的な暴力に晒されている者、あるいは戦闘で死期が迫った者の顔と居場所が、否応なく脳裏に浮かぶのだ。

 もちろん、助けに行くか否かは本人の意思に委ねられている。体が勝手に動くわけではなく、無視することもできた。

 だが、そんな選択を平然とできる者は、そもそもこの異能を手に取らないだろう。


 これは、母の形見だった。

 ある抗争の最中、母は自らが瀕死であるにもかかわらず、仲間を庇って命を落とした。

 異能は──魔法も同様だが、死とともに(かたわら)へと一冊の本の形で抽出される。

 忘れ形見である『救済の書』を前にしたとき、アンナは迷うことなく救済の異能を習得した。


 その結果、アンナは多くの仲間を守ってきた。

 これでいい。そう思っている。


「アンナ筆頭。ここにサインをいただければ、後は私がやっておきます。お疲れでしょうからお休みになってください」


 城へ戻ると、トラヴァスがそう提案した。実務を引き受ける気遣いが、その声音に滲んでいる。


「だがその前に、店に戻って詫びと支払いを済ませてこんとな」

「心配には及びませんよ。出る前に十分な金額を置いてきましたから」


 抜かりのない返答に、アンナはふっと目を細めた。


「わかった、じゃあ先に休ませてもらおう」

「そうしてください」


 さらさらとサインを書き入れ、書類をトラヴァスに渡す。


「お疲れ様です」

「ありがとうトラヴァス」


 微笑みを向けると、彼はいつもの無表情をほんのわずかに緩めていた。


 アンナは後を任せ、部屋へ戻ろうとする。

 独身の騎士は基本的に宿舎暮らしだが、将以上には城内に一室が与えられている。先月将となったばかりのカールも、嬉々として王城に住み着いていた。

 そんな彼の部屋の前で足を止め、アンナは扉を叩く。


「うわ、アンナ、また服買ったのかよ!」


 顔を出したカールが、開口一番に放ったのはその一言だった。


「書類はできたか?」

「できたぜ」

「見せてみろ」


 招き入れられ、アンナは差し出された書類を手に取った。


「どーだ!!」


 カールは胸を張り、へっへーーんと鼻をこすっている。

 しかしその内容は、見るまでもない。


「五十点。不合格だ」

「………………」

「座れ、一から書き方を教えてやろう」


 渋々といった様子で溜め息をつき、カールは椅子に腰を下ろす。


(まったくカールは、人に教わるという態度を知らないんだから)


 呆れつつも、その無邪気さについ手を差し伸べてしまう自分を、アンナは自覚していた。


「シウリス様に出す書類なのだからな。頼むから、きっちり書いてくれよ」

「わぁーったよ」


 ペンを持ちながら、カールは遠慮もなくアンナを凝視する。


「アンナ、お前さー。その格好でメシ食いにいったのか?」

「ああ、どうだ? こんな服も似合うだろう」


 少しだけ顔を赤らめたカールは、返答を避けるように話題を変えた。


「剣、携帯してったか?」

「ここにあるぞ」


 アンナはためらいもなくワンピースを捲り上げる。


「バカ、おろせって!!」


 ガタッと椅子ごと後ずさるカールを見て、アンナはくすくすと笑った。


「お前な、なにがあるかわからねぇんだから、そんな短剣じゃなくてちゃんと帯剣してけよ」

「無粋なやつだな。この格好に剣は似合わんだろう」


 むっとした様子で、カールは再びアンナを見た。

 高めの身長に、すらりと伸びた手足。均整の取れた身体と、それに似合う装い。己のプロポーションに多少の自信があることも、アンナは隠していない。今の姿に剣が似合わないことくらい、カールにも理解できているはずだ。

 それでも、納得しきれない様子で顔を歪める。


「だけどなぁ……」

「平気だ。私は不思議と短剣も得意だからな。習ったこともないんだが」

「普通に食事する分には心配したりしねーよ。でも異能が発動したら、躊躇なく飛び出るじゃねーか」


 図星を突かれ、アンナは苦笑して眉を下げる。


「わかった、気を付けるよ」

「気をつけるとかじゃなくてだなー」

「いいから書類を片づけるぞ」


 話を切り替えると、カールはへいへいと返し、しぶしぶ書類へと視線を落とした。

 自分を案じてくれることが嬉しくて、感情を隠そうともしないその性格が可笑しくて。

 その夜、アンナは遅くまで、カールの書類作成に付き合っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。

サビーナ

▼ 代表作 ▼


異世界恋愛 日間3位作品


若破棄
イラスト/志茂塚 ゆりさん

若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。
この国の王が結婚した、その時には……
侯爵令嬢のユリアーナは、第一王子のディートフリートと十歳で婚約した。
政略ではあったが、二人はお互いを愛しみあって成長する。
しかし、ユリアーナの父親が謎の死を遂げ、横領の罪を着せられてしまった。
犯罪者の娘にされたユリアーナ。
王族に犯罪者の身内を迎え入れるわけにはいかず、ディートフリートは婚約破棄せねばならなくなったのだった。

王都を追放されたユリアーナは、『待っていてほしい』というディートフリートの言葉を胸に、国境沿いで働き続けるのだった。

キーワード: 身分差 婚約破棄 ラブラブ 全方位ハッピーエンド 純愛 一途 切ない 王子 長岡4月放出検索タグ ワケアリ不惑女の新恋 長岡更紗おすすめ作品


日間総合短編1位作品
▼ざまぁされた王子は反省します!▼

ポンコツ王子
イラスト/遥彼方さん
ざまぁされたポンコツ王子は、真実の愛を見つけられるか。
真実の愛だなんて、よく軽々しく言えたもんだ
エレシアに「真実の愛を見つけた」と、婚約破棄を言い渡した第一王子のクラッティ。
しかし父王の怒りを買ったクラッティは、紛争の前線へと平騎士として送り出され、愛したはずの女性にも逃げられてしまう。
戦場で元婚約者のエレシアに似た女性と知り合い、今までの自分の行いを後悔していくクラッティだが……
果たして彼は、本当の真実の愛を見つけることができるのか。
キーワード: R15 王子 聖女 騎士 ざまぁ/ざまあ 愛/友情/成長 婚約破棄 男主人公 真実の愛 ざまぁされた側 シリアス/反省 笑いあり涙あり ポンコツ王子 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼運命に抗え!▼

巻き戻り聖女
イラスト/堺むてっぽうさん
ロゴ/貴様 二太郎さん
巻き戻り聖女 〜命を削るタイムリープは誰がため〜
私だけ生き残っても、あなたたちがいないのならば……!
聖女ルナリーが結界を張る旅から戻ると、王都は魔女の瘴気が蔓延していた。

国を魔女から取り戻そうと奮闘するも、その途中で護衛騎士の二人が死んでしまう。
ルナリーは聖女の力を使って命を削り、時間を巻き戻すのだ。
二人の護衛騎士の命を助けるために、何度も、何度も。

「もう、時間を巻き戻さないでください」
「俺たちが死ぬたび、ルナリーの寿命が減っちまう……!」

気持ちを言葉をありがたく思いつつも、ルナリーは大切な二人のために時間を巻き戻し続け、どんどん命は削られていく。
その中でルナリーは、一人の騎士への恋心に気がついて──

最後に訪れるのは最高の幸せか、それとも……?!
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼行方知れずになりたい王子との、イチャラブ物語!▼

行方知れず王子
イラスト/雨音AKIRAさん
行方知れずを望んだ王子とその結末
なぜキスをするのですか!
双子が不吉だと言われる国で、王家に双子が生まれた。 兄であるイライジャは〝光の子〟として不自由なく暮らし、弟であるジョージは〝闇の子〟として荒地で暮らしていた。
弟をどうにか助けたいと思ったイライジャ。

「俺は行方不明になろうと思う!」
「イライジャ様ッ?!!」

側仕えのクラリスを巻き込んで、王都から姿を消してしまったのだった!
キーワード: R15 身分差 双子 吉凶 因習 王子 駆け落ち(偽装) ハッピーエンド 両片思い じれじれ いちゃいちゃ ラブラブ いちゃらぶ
この作品を読む


異世界恋愛 日間4位作品
▼頑張る人にはご褒美があるものです▼

第五王子
イラスト/こたかんさん
婿に来るはずだった第五王子と婚約破棄します! その後にお見合いさせられた副騎士団長と結婚することになりましたが、溺愛されて幸せです。
うちは貧乏領地ですが、本気ですか?
私の婚約者で第五王子のブライアン様が、別の女と子どもをなしていたですって?
そんな方はこちらから願い下げです!
でも、やっぱり幼い頃からずっと結婚すると思っていた人に裏切られたのは、ショックだわ……。
急いで帰ろうとしていたら、馬車が壊れて踏んだり蹴ったり。
そんなとき、通りがかった騎士様が優しく助けてくださったの。なのに私ったらろくにお礼も言えず、お名前も聞けなかった。いつかお会いできればいいのだけれど。

婚約を破棄した私には、誰からも縁談が来なくなってしまったけれど、それも仕方ないわね。
それなのに、副騎士団長であるベネディクトさんからの縁談が舞い込んできたの。
王命でいやいやお見合いされているのかと思っていたら、ベネディクトさんたっての願いだったって、それ本当ですか?
どうして私のところに? うちは驚くほどの貧乏領地ですよ!

これは、そんな私がベネディクトさんに溺愛されて、幸せになるまでのお話。
キーワード:R15 残酷な描写あり 聖女 騎士 タイムリープ 魔女 騎士コンビと恋愛企画
この作品を読む


▼決して貴方を見捨てない!! ▼

たとえ
イラスト/遥彼方さん
たとえ貴方が地に落ちようと
大事な人との、約束だから……!
貴族の屋敷で働くサビーナは、兄の無茶振りによって人生が変わっていく。
当主の息子セヴェリは、誰にでも分け隔てなく優しいサビーナの主人であると同時に、どこか屈折した闇を抱えている男だった。
そんなセヴェリを放っておけないサビーナは、誠心誠意、彼に尽くす事を誓う。

志を同じくする者との、甘く切ない恋心を抱えて。

そしてサビーナは、全てを切り捨ててセヴェリを救うのだ。
己の使命のために。
あの人との約束を違えぬために。

「たとえ貴方が地に落ちようと、私は決して貴方を見捨てたりはいたしません!!」

誰より孤独で悲しい男を。
誰より自由で、幸せにするために。

サビーナは、自己犠牲愛を……彼に捧げる。
キーワード: R15 身分差 NTR要素あり 微エロ表現あり 貴族 騎士 切ない 甘酸っぱい 逃避行 すれ違い 長岡お気に入り作品
この作品を読む


▼恋する気持ちは、戦時中であろうとも▼

失い嫌われ
バナー/秋の桜子さん




新着順 人気小説

おすすめ お気に入り 



また来てね
サビーナセヴェリ
↑二人をタッチすると?!↑
― 新着の感想 ―
カール、書類などの書き方は、家庭教師の彼には教わらなかったようですね(笑) アンナの異能、いくつ体があってもたりなさそう^^; 安眠できないかもです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ