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……そんなの、嬉しくないはずなんて――
『………………え』
昨夜、帰り道のこと。
そう、呆然と声を洩らす冬樹先輩。まあ、それはそうだろう。開けた視界へいの一番に飛び込んできたのが、喉元にナイフが刺さり倒れる不審者――それも、よもやその人物が同じ職場の仲間だったのだから。
――それでも、先輩は努めて冷静かつ迅速に対処してくれた。彼自身、突然の状況に理解なんて追い付いていないはずなのに……それでも、真っ先に私に声を掛けてくれた。そして、ほどなく警察に連絡し大方の事情を説明してくれた。彼からは死角になっていたため、経緯なんてほとんど把握出来ていなかったはずなのに。
そして、そんな冬樹先輩の姿に申し訳なさを抱きつつも……それでも、沸々と込み上げてくる熱い感情を自覚しないわけにはいかなかった。だって……こんな状況であっても、彼は終始私の心中を慮り、私のことを最優先に考え行動してくれた。例え、どれほど不謹慎でも……そんなの、嬉しくないはずなんてないから。




