……いや、そもそも
「――今日はありがとうございました、冬樹先輩! ほんとに楽しかったです!」
「あっ、いえそんな! 感謝をすべきなのは、むしろ僕の方で……その、本当にありがとうございます、藤島さん」
「ふふっ、どういたしまして」
それから、数時間経て。
玄関にて、眩いほどの笑顔で感謝の意を伝えてくれる藤島さん。感謝してもらえるようなことなど、僕は何もしていないというのに……うん、なんて良い子なんだと改めて思う。
「……あの、どうかしましたか?」
ふと、そう問い掛けてみる。今しがた玄関を後にしようとしていた藤島さんが、扉を半分ほど開いた辺りで振り返り、じっとこちらを見ていたから。えっと、忘れ物かな――
「……あの、冬樹先輩。その……素敵な彼氏がほしいって言った時、先輩は私のことを素敵な人だと仰ってくれましたよね?」
「……へっ? あっ、はい……」
「……あの、でしたら、その……いえ、やっぱり何でもないです」
「……? ……はい、分かりました」
すると、少し目を逸らしつつ言葉を紡ぐ藤島さん。だけど、最終的に引っ込めてしまったため僕は何も分かっていない。なので、いったい何に対しての了解なのか、僕自身まるで分かっちゃいないのだけど……だけど、こういう時の模範解答など、僕なんかが知っているはずもなく。
「…………ふぅ」
藤島さんが去った後、だらりと仰向けに転がり息を洩らす。緊張の糸が切れた、とでも言うのかな?
とは言え、彼女との時間が苦痛だったとか、そういう話ではなく……むしろ、控えめに言っても楽しかったくらいで。ただ……僕なんかと一緒にいて、本当に彼女は楽しかったのだろうかという懸念が、ずっと胸中を巡って――
「……いや、そもそも」
ふと、そんな思考を遮るようにポツリと呟きが零れる。……そうだ、そもそも僕に……僕なんかに、こんな資格なんて――