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追憶
「…………冬樹、先輩」
胸の中で、悲痛な叫びを上げる華奢な青年の頭を抱き締めたまま、ポツリと呟きを零す私。……いや、声を出しちゃ駄目だよね。私は何も見てないし、聴こえてもいないのだから。
……ほんと、馬鹿だよね。先輩は、何にも悪くないのに……なのに、こんなに苦しんで。ほんと、どうしようもなく馬鹿で……どうしようもなく優しくて。
――およそ五年前の、ある冬のこと。
『…………あっ』
『あっ、すみません! 大丈夫ですか?』
地元の小さな映画館にて――劇場へ向かう最中、不意に誰かの背中にぶつかり尻餅をつく私。すると、なるべく視線の高さを近づけるように腰を落とし、心配そうに謝罪を述べるのは端整な顔立ちの男性。……いや、そもそもぶつかったのは私の方なんだけどな。
ともあれ――それが目下、悲痛なまでの嗚咽を洩らす心優しき青年、香椎冬樹先輩との出会いだった。




