修行が必要?
――まあ、それはそれとして。
「……ですが、藤島さん。結婚の一歩手前は些か大袈裟だったかもしれませんが……実際、僕には中々に難易度が高いこともまた事実でして」
「……うん、些かどころじゃないですけどね。まあ、ですが冬樹先輩がそういうのを苦手であろうことは大方察せられます。実際、私を含め職場の誰に対しても、苗字でしか呼んでいないみたいですし」
「……はい、なので――」
「――ですが、不可能というわけでもないでしょう? 実際、あの女のことは下の名前で呼んでるわけですし」
「あの女!?」
そう、何とも不満そうに話す藤島さんに思わず驚愕の声を上げる僕。……あの、確かご友人でしたよね?
……まあ、それはそれとして……うん、やっぱり言わなきゃ駄目っぽいね。今も、何かをじっと待つように僕の瞳を見つめているわけだし。
「……えっと、その……と、とう……陶奈、さん」
そう、何ともたどたどしく彼女の名前を口にする僕。相変わらず、我ながらコミュ障が過ぎる……いや、これは関係ないか。ともあれ、反応のほどを窺うと――
「……ふっ、ふふっ。なんですかそれ。名前一つ口にするのに、どんだけ緊張してるんですか先輩」
「……はい、返す言葉もな――」
「……ですが、良いと思いますよ? なんだか、先輩らしくて可愛いですし。では、これからもそちらでお願いしますね、冬樹先輩?」
「……あっ、えっと……承知致しました」
すると、堪えきれない様子で声を洩らした後、何とも悪戯っぽい笑顔でそう問い掛ける藤島さん。少し……いや、だいぶ恥ずかしかったものの、楽しんで頂けたなら何よりです。……うん、ちょっと練習しとこうかな。




