献身的な後輩?
「――おはようございます、冬樹先輩! 本日も良いお天気――そういうわけで、さっそくお邪魔しますね!」
「……えっと、本当に来たのですね……」
「はい、もちろん!」
それから、数日経て。
陽光が眩しく照らす小昼の頃――突如響いたインターホンの音に起こされ、寝ぼけ眼を擦りつつ玄関へ向かい扉を開くと、そこには純白のワンピースを纏った美少女の姿が。……うん、まさかとは思ったけど……本当に来たんだね。
『――私が、冬樹先輩のお家へお食事を作りに行ってあげます!』
『…………へっ?』
数日前、勤務後の休憩室にて。
一つ、ご提案があるのですが――そんな前置きの後、予想だにしない言葉を口にする藤島さん。提案というより、ほとんど宣言に近い気もするけど……ともあれ、正直本気にはしていなかったので、つい曖昧な返答をしてしまったのだけども――
「……えっと、見苦しい部屋ではありますが……とりあえず、どうぞ」
「はい、ありがとうございます先輩!」
そう、控えめな口調で室内へと案内する僕に、満面の笑みで謝意を告げる藤島さん。……まあ、こうなってしまっては流石にお引き取り頂くわけにもいかないし。
「……おや、思ったより片付いていますね。正直、まずは大掃除からと思い意気込んで来たのですが」
「……はは、まあ最低限は」
案内された僕の部屋をぐるりと見渡し、少し驚いた様子の藤島さん。……いや、念のため片付けておいてほんと良かった。まあ、ほんとに最低限だけど。
ただ、それはそうと……うん、どのくらい汚いと思われてたんだろう。パッと見だけでも、彼女が持参したビニール袋に結構な量の掃除用品が入ってるんだけど。
「――さて、さっそくですがお食事の準備を。先輩、調理器具などお借りして良いですか?」
「あっ、はいもちろんです! ですが、その……僕に、何か出来ることは……」
「ああ、お気になさらず。私が一人せっせと働いているのを横目に、コーラ片手にのんびりテレビでもご覧になっていてくださいな」
「どうかお願いします僕にも何かお仕事ください」
「あははっ、冗談ですよ先輩。ですが、本当にゆっくり寛いでいてください。今日は元より、私一人で作るつもりでしたから」
「……まあ、藤島さんがそうおっしゃるのであれば……申し訳ありません」
「ふふっ、なんで謝るんですか」
そんな、夢現とも知れない和やかなやり取りを交わす僕ら。……うん、よもや僕の部屋で誰かと会話する日が来ようとは。……あっ、それと……どうでもいいけど、テレビないんだよね、ここ。
――それから、数十分経て。
「――お待たせしました、冬樹先輩! それでは、さっそく召し上がりましょう」
「あ、ありがとうございます藤島さん」
狭い居室のほぼ中央にて、円卓の向こうから花のような笑顔で告げる藤島さん。卓上には鮭の西京焼き、野菜サラダ、豆腐とワカメの味噌汁、白米――何とも色彩豊かで、栄養バランスも良さそうな素晴らしい献立だ。自分が普段、どれほど適当に食事を済ませていたかを改めて思い知らされる瞬間だった。……うん、やっぱり少しくらいは気をつけるべきかな。これ以上、彼女に心配かけるのも申し訳ないし。