リフレイン
「……あの、ほんとに大丈夫ですか? 冬樹先輩」
「……へっ? あっ、はい大丈夫です! その……少し見入ってしまっただけなので。ご心配をお掛けしてしまい、申し訳ありません藤島さん」
「……それなら良いのですが」
それから、一時間ほど経て。
茜色に染まる空の下、すぐ隣から心配そうに問い掛ける藤島さん。そして、そんな彼女に少し狼狽えつつ答える僕。……納得してくれただろうか。それなら良いんだけど。
『………せ……い、…樹先輩!』
『………………へっ?』
『……あの、大丈夫ですか?』
『……あっ、その……はい』
10分ほど前のこと。
劇場にて、霞んだ視界に映るはゆるりと揺れる小さな掌――その後、ほどなくして目を見開く藤島さんの表情が。……そっか、あの後僕は――
……あっ、寝てたわけじゃないんですよ? だとしたら、流石に見入ってしまったなんてバレバレの嘘は吐かないし……うん、誰に言い訳してるんだろうね。
「それにしても、冬樹先輩って意外と没入するタイプですよね。昔からそうだったんですか?」
「……へっ? あっ、えっと……」
すると、先ほどとは一転、何とも悪戯っぽい笑顔で尋ねる藤島さん。……うーん、どうなのかなあ。でも、確かに昔から物語には結構のめり込んで――
「……あの、藤島さん?」
「……へっ? あっ、いえ……」
ふと、思考を切り問い掛ける。いや、別段何を聞こうとしたわけでもないけれど……ただ、まるで何かを期待するように、彼女が僕の方をじっと見つめていたから。
だけど、暫し熟考を試みたものの結局自分でもよく分からず、申し訳なくも曖昧な答えを返すだけの僕。
それから話題は変わり、さっきの映画の感想に……いや、変わってもいないか。ともあれ、閑談に花を咲かせつつ残り数十分ほどの家路を歩いていく。
だけど……そんな楽しい時間の間もずっと、僕の脳裏にはある言葉――さっきの映画にて、一人の男子生徒が放ったある言葉が幾度もリフレインされていて――
『――――人殺し』




