例のあれ?
「……さあ、来るぞ……来るぞ……」
「ふふっ、楽しそうですね先輩」
それから、およそ一時間後。
当園の看板アトラクションであるからして、やはり人気が高くそれなりの待ち時間を経てゴンドラへと乗り込んだ僕ら。そして、ゆっくりゆっくりと上がっていく最中そんなやり取りを交わす。……いや、やり取りというより、気持ち悪い僕の独り言を彼女が拾ってくれただけなんだけども。
それにしても……思ったより余裕あるなあ藤島さん。悪戯っぽい笑顔まで見せちゃってるし。
さて、そんなやり取りの間にも徐々にゴンドラは軋む音を立て上がっていく。……さあ、来るぞ……来るぞ……
「…………あれ?」
卒然、ポツリと声を洩らす僕。だけど、それは僕だけでなく――声こそ洩らしていないものの、隣に座る藤島さんも、恐らくは僕と似たようなポカンとした表情で僕を見ている。そして、恐らくは他の乗客の皆さんも、僕らとほぼ同様の表情を浮かべていることと思う。と言うのも――
「……えっと、これはひょっとして……例のあれですかね?」
「……はい、きっと例のあれでしょう」
少し間があった後、淡く微笑み問い掛ける藤島さんにそっと頷き答える僕。……いや、こんなお馴染みのような言い方もどうかと思うけど、ともあれ何が起きたのかというと……まさに頂点に達したこの地点にて、突如ピタリとゴンドラが止まってしまったわけでして。
「おい、どうなってんだよこれ!」
「早く何とかしてよ責任者!」
すると、ほどなくして僕らの後方から男女の叫び声が耳を劈く。……まあ、そうなるのも無理ないよね。きっと、彼らにとっても全く以て予想だにしない事態ではないのだろうけど……それでも、いざその状況に陥ってしまえば、こうしてパニックになってしまっても仕方がない。なので、流石に藤島さんと言えど――
「――っ!?」
「……ん? どうかしましたか冬樹先輩」
「……いえ、何と言いますか……ふふっ」
「……先輩?」
僕の反応が予想の外だったのだろう、不思議そうに首を傾げる藤島さん。全く、何と言うか……ほんと、大物だなあ。
それから数十分後、無事メンテナンス完了――乗客全員、少なくとも見た感じ怪我も体調異変もなく無事解放されることに。……ふう、大変な目に遭った。




