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喪服の女

作者: 乃木坂佑一

夏の怪談なんてものは無縁の自分と思っていたが。こうきたか。人生とはわからないもの。

いつものように近所のスーパーで仕事帰りに買い物をしレジを済ませ、出口へのエスカレーターに乗った。


この時間は弁当や惣菜がかなりの割引になるのでわりかし得をした感じになり、良い買い物をしたと正面を見た。


その時だった。


異様な嫌悪感がその場を支配し、正面から見える違和感に自分は若干動揺した。


正面にはビジネススーツとも喪服とも見える格好の女性がいた。


上下黒の上はジャケットともワンピースにも見える上着。下はタイトスカートとも見えるスカート。


違和感と異様な嫌悪感はそこから来ていた。1mとも離れていない距離ながらその詳細を見るのが


なぜかあいまいなのである。まるでステルスか、まるで迷彩をされているように視覚にフィルターがかかる。


それでいて正面から足元に見る格好はビジネススーツの女性につきものの濃いストッキングに黒革のパンプスだった。


通常ならば制服女性特有の色気と颯爽といういで立ちが、この時この場はまるでそぐわない雰囲気に支配されていた。


正面から見えるその足元はセピアか経年劣化したようなくすんだ色に見えたのだ、ほこりが被ったような


くたびれた光景。ストッキングも革靴もまるで場違いな違和感。


そう、パソコンやモニターの画面を見るかの如く


目の前には単純にストッキングが履かれた両足首と革靴のかかとが見えるのである。


ぞっとした気分に襲われ、自分の認識を若干修正する。喪服・・・?


瞬間。関わっては近くにいてはいけない認識に本能がせまられ、エスカレーターを登りきると同時に違う


出口に向かった。


方向を向き直る時にちらりと件の女性をみる。黒ぶちのメガネに顔をふせたくたびれたようなOL風の女性だった。


クローキングがかかったように女性全体はあいまいな視覚認識の中で彼女がもつ買い物をしたであろう

スーパーの白いレジ袋がやけに鮮明に視覚を捕らえたのが際立った。


ほんの数秒で「彼女」は買い物帰りの人込みにまぎれ完全に認識されなくなった。


「彼女」が何であったかはこの際は認識の外にしておこうと思う。


しかしながら、その場の違和感と嫌悪感と瞬間に訪れた恐怖はまぎれもなく現実であったのである。




ほんの10分ほどのパーソナルホラー。人間だれしもある危機か怪異か恐怖の瞬間。


スルースキルが重要です。好奇心は猫を殺す。

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