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傘がない

 同調圧力なのか、流行の流れなのか、傘立てには、柄が木製、柄はタータンチェックの傘が溢れていた。他は、コンビニエンスストアのビニール傘という二極化で。

 なのに、私の傘は盗まれた。

 同じように見えても、置場所は定点のようにそれぞれが暗黙に決まった場所に置く。全く同じような柄なのに縫いの合わさりで判別しているのか、握りも同じなのにちょっとしたスライド感覚が違うのかで「私のじゃない」と憤慨する。「間違えたのかもよ」という言葉にも「嫌、こっちの方が劣化している、明らかにわざとだ」盗まれたのだ。と、言い張る。そう、ソレハ次の日、その子がバンドエイドを柄に貼って自分の所有物であると主張してからさらにいざこざの騒ぎに発展したからだ。


 私は、チビりチビりと貯めたお金で傘を買った。

 

「ばばあか」


 が、私の傘立ての中で主張する柄だったから。バンブーの柄は年寄り女の鞄によくついていた。私は目立つことが好きだった。

 傘は一見地味な濃紺だった。濃紺も特殊で黒に近く、何より織で図柄が浮き上がるちょっとしたお洒落が傘持ちとして嬉しかった。

 知らぬ人は気づかない。

 解らないのもそれまた良いと。

 しかも、普通の傘よりも少しだけ大きかったのも良かった。

 革靴が濡れるのは大嫌いだったから。

 制服も濡れれば乾きが遅いので嫌いだった。

 雨の日の楽しみはこの3500円でようやくほとんどの煩わしさから解放された気分だった。



 老人のような柄の傘は、家で盗まれた。



 雨の日、玄関の中に濡れた傘を入れることは許されなかった。玄関の入り口ポーチに立て掛けておくのが普通だった。だが、私はいつも大事にしていた。

 その日も次の日もいつも怒られ外に置かれて何度か夜を通りすぎた。


「傘がない」

 前日、客人が数人きた。

 前日、大きな通り雨が夕暮れ降った。

 うちの家の数百メートル先にはヤンキーしかいない高校がある。電信柱の影に置き自転車が放置されているほど荒れていた。



 学校のHRで担任が「いい傘を買いなさい。大事に使うことは使い捨て社会の……」とか言い出した最後に私に「それでも悪目立ちは」と横目で見られた。

「傘は、盗まれました」

 あんなダサいのを。を全員が言った。そして、全員が言い過ぎたことを悟ってくれた。傘にタッセルがあれば外される、名前があれば、取られるか、削られる、テレビで漫才師が「チャリは盗むもの」とネタで言っていた。「そんなに大事なら抱いて寝ろ」もよく使われる言葉だった。


『傘は家で盗まれました。玄関先に置いてあったので、大人か子どもかも分かりません。貸したのかも借りたのかも不明です。私にとってとても大事な傘でした。もう同じ傘が売っていることもないでしょう。二度と戻っては来ないのです。傘とはそういうものです』






「いくらだったの」「まじか」「いくら傘でもそんな大金出せないわ」 

「でも、いい傘だったよ」

「うん、大事にしていたのは見てて分かった」

「ありがとな」

「次は盗まれないようにもっと頑張らないとな」

「あー、たぶん、家じゃ無理だわ、家に大量にある折り畳みを当分使う」(たぶん卒業して家からでるまで)

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